JF で翻訳できるぞ mini HOWTO(日本国限定版) 高橋 聡 hisai@din.or.jp v3.0, 25 Apr 2004 JF で翻訳する気になる「かもしれない」ドキュメント。 ______________________________________________________________________ 目次 1. やりません? 2. 資格? いらないよ、そんなの 3. どうして翻訳なんかするはめに? 4. 翻訳して何かメリットあるんですかね? 5. 早くはじめろ! > 俺 6. 「翻訳」をまず学ぶ 7. こう調べてます 8. こう直してます 9. 本を捜しましょう 10. その他時々調べてるとこ 11. ところで、わかりやすい論理的な文書ってどうやって生まれるんでしょう? 12. やりましょうよ! 13. 著作権 14. 謝辞 15. 更新履歴 ______________________________________________________________________ 1. やりません? JF のメンバーも所詮は普通の人の集まりです。 日々の糧を得るため職につき、休日は子供と遊んで、買い物や家事の手伝いを してるのに「パソコンばっかりして!またえっちな絵とか見てるんでしょう」 などと言われつつ、空いた時間を使ってボランティアで作業しています。もち ろんそうでない方もいらっしゃいます。でも私は↑です。 そんな普通の人たちの集まりでも何とかやってるんだから、あなたもきっとで きますよ。 2. 資格? いらないよ、そんなの そもそも私は資格というものを一切持っていません。 TOEFL、TOEIC は言うに 及ばず、英検 4 級(中学生の時に試験サボったから) すら持っていません。英 語の資格はおろか、車の免許もソロバンも書道もピアノも情報処理もシステム アドミニ...なんにもないです。持っているのは幼稚園から大学までの卒業証 書だけ。名刺に「資格」を刷った人に会うと、「この人自信ないんだなあ」っ て思っちゃいます。ひねくれてますかね。それとも自信過剰? やっぱり。 3. どうして翻訳なんかするはめに? 何の因果か 30 過ぎからシステム管理の職場に異動したのが運のつき、man か らはじまり OS、ミドルウェア、ワークステーション、ネットワーク機 器、RAID ディスク、UPS とか、英文マニュアルの山脈が眼前に立ちはだかり ました。日本語の書籍をまず読んだのですが、これがわからない。「一浪三流 文学部卒だし、もう年とってるし、短気だし、飽きっぽいし、物忘れ激しい し、俺あほだしな」と思ってたんですけど、どうもそれだけじゃなさそう。 O 社発行のある翻訳本読んだ時のこと。 「改めて公平な立場から言うと」なんて書いてありました。「え、じゃあ今ま での説明は不公平?な説明なの?」なんて疑問があちこち沸き上がりました。 疑問で頭混乱して、全然本筋の言語のしくみが頭に入ってこないんです。「う うぅ、キィー、原書買っちゃえ、もう」。で、例の部分は "to be fair again" となっている。あのさあ、手間省かないでちゃんと辞書引いてよ、頼 むよ。危うくこの言語ステにするとこだったよ。 A 社発行のある翻訳本を読んだ時のこと。 あんぐりなので、まあ見てください。引用します。 Sun に関して本当に感銘することの 1 つは、オープンな標準への 献身である。Sun は、他の会社が専有の実装方法でユーザーを囲い 込むことを選んでいたので、標準のインターフェイスと絶えず採用 している標準のための仕様書を発行したことで "先祖代々の宝石を 与えたこと" に対して矢継ぎ早の非難を浴びた。Solaris は、ほか のどんなシステムがサポートするよりも多くの標準をサポートして いる。 まあ、それは専門用語のすばらしい積み重ねであった。以下に、そ れらのすべてが何を意味するかと、なぜそれが重要であるかを述べ る。 とか言われてもねえ。 そんなこんながいくつか続いて、これはもうとにかく原文読まないと仕事にな らない、という結論にやっとたどりつきました。つーわけで、「わけわか」な りにあきらめず、繰り返し読みました。読んだだけだとわかった気になるだけ で、実は何もわかってないこと多かったんで、読んだものを書いてみるように なりました。それが私の「翻訳」作業のはじまりです。 どうせ書籍だってあの程度なんだから、地道にやれば俺だってそれなりに世間 のお役に立てるかもしれないと思うようになりました。フリーな文書にもたく さんお世話になっていることだし。どうもサラリーマンやってると「お金」し か尺度がないんで、もう飽き飽きしてたというのもあるかもしれない。 4. 翻訳して何かメリットあるんですかね? メリットは人それぞれの価値判断なのでわかりません。「翻訳はオープンソー スの負け組だ」とか「ラーメンのシナチクだ」とかいう評価もあるようです。 あなたがそういうことを気にするタイプの方なら、ぜひ勝ち組になれるよう精 進してください。何に精進するのかは知りません。じゃ、私が七年近く活動し ていて何があったかというと、 o 外国の頭いい著者とたくさん知り合いになれた。 o ドキュメントに関係ないことも著者から親切に教えてもらえる。 o 「高度な技術」を有していないと情報を得る資格がないところから情報を 得られるようになった。私は普通の人なので、高度な技術は持っていませ ん。 o 何か返事が遅いなあと思ったら、著者が某企業のCEOだった。返事が遅いこ とを詫びるメールにだけ、署名に企業の肩書きが書いてあった。「俺はCEO だから忙しい」みたいな言い訳は何も書いてなかった。何と奥ゆかしい( 笑) o 数社から原稿依頼があった。みーんなお断りしました。 こんなもんです。 5. 早くはじめろ! > 俺 まあ自慢はこれくらいにして、JF で翻訳をするのに役に立つこと少し書いて みます。「これで完璧!」とか「これだけ読めばあなたもスペシャリスト!」 なんて間違っても言いません。そんなおいしい話はありません。ただ、どこか らはじめていいのか迷っているなら、参考程度にはなると思います。 たくさんあっても迷うだけだから、最低限だけしか載せません。でもこの位や れば私並には訳せるはず。そんなん駄目じゃん、というのは勘弁してくださ い。「こんなんじゃ足りない!」 という方は自力でどうぞ。くれぐれも information overload にならないよう、ご自愛ください。 6. 「翻訳」をまず学ぶ o 安西 徹雄:『英文翻訳術』(ちくま学芸文庫,1995) o 江川泰一郎:『英文法解説』(金子書房,1991) 学校で勉強させられた「英文解釈」と実際の「翻訳」のどこが違うのか、 わかりやすく書いてあります。ペアにしてつらつら読めばいいんと思いま す。英文法の教科書より、はるかにわかりやすくておもしろいです。自分 の愚かさを実感するだけでも十分身になります(なりました)。 o 木下是雄:『レポートの組み立て方』(ちくま学芸文庫、1994) o 本多勝一:『日本語の作文技術』(朝日文庫、1982) o 本多勝一:『実戦・日本語の作文技術』(朝日文庫、1994) o 藤沢晃治:『「分かりやすい表現」の技術』(講談社ブルーバック ス、1999) o 守沢良:『ここがヘンだよ『日本語練習帳』』(夏目書房、2001) 英語が読めても日本語書けなきゃ意味がないですよね。学校じゃあわかり やすい日本語の書き方なんか習っていないし。どれでもお好きなもの 1 冊 どうぞ。正直言って、全部内容を理解しているわけでも、覚えているわけ でもありません。でも「何かこの文章へんちくりんだよなあ」って思う回 数確実に増えると思います。 7. こう調べてます 1. 『100万語収録のスーパー英和・和英辞典「英辞郎」』(アルク、2002) 2. 『ランダムハウス英語辞典 CD-ROM版 Windows版』(小学館、1998) 3. 『Longman Dictionary of Contemporary English』(Longman、2003) 4. OneLook Dictionaries 5. AlltheWeb 6. google 「英辞郎」と「ランダムハウス」はハードディスクに入れています。「英 辞郎」は 英辞郎 on the Web からも使えま す。Longman は一見「やさしい」単語で、よく意味がとれないものに使い ます。英和辞典だけではニュアンスが取りきれない「やさしい」単語がた くさんありますから。 OneLook Dictionaries と検索エンジンは上記を見 てもわからない場合に使います。ここまでやってもわからないものは、ほ とんどないです。 8. こう直してます まず、ざっと訳しちゃいます。訳してから 2、3 日おいてからもう一度読みま す。そこで「へんちくりん」なところないか見つけます。しばらく時間おかな いと訳文が頭に残っていて、「へんちくりん」なところ見つからないからで す。バグ取りと同じですね。その上で、下記の資料を使って日本語としておか しくないかを調べます。 o 時事通信社[編]:『最新用字用語ブック』(時事通信社、2002) o 野元 菊雄[監修]:『早引き類語連想辞典』(ぎょうせい、2001) o シソーラス(類語)検索 「最新用字用語ブック」は、いわずとしれた用字用語辞典です。いろいろ な出版社からいろいろな用字用語辞典が出ていますが、私は「たまたま」 これを利用しています。送り仮名の付け方とか漢字の確認、漢字を開く(平 仮名表記にする)か開かないかの判断に使用しています。「早引き類語連想 辞典」は、ボキャブラリが少ないせいか、同じ表現が続いた場合や何か収 まりの悪い表現だなあ、と思った時に使用します。ひとつの言葉から、 「次々と」言葉をつなげて引けるのがとても良い具合です。この本の良さ はちょっと文章では表現しづらいので、できれば書店で実際に見てくださ い。「シソーラス(類語)検索」は、ある言葉をいろいろな角度から分類・ 整理した結果を表示してくれます。これ以上説明するの面倒というかでき ないので、実際使ってみてください。 9. 本を捜しましょう 小遣いなくて本買えない時やちょっとだけ見たい時、地元の図書館利用してま す。地元になくても他の図書館も探してくれますから、助かります。見つから なくても買ってくれます。あんまり高価な本だと駄目なんですが、8,000 円ぐ らいまでは買ってくれました。まあこれは予算によるんでしょうけど。 10. その他時々調べてるとこ 「言われなくてもわかってるって!」と言われそうですが、とりあえず使って いるものだけ紹介します。 yourdictionary.com オンラインで引ける辞書のリンクの集大成です。 Translators' Internet Resources 日本語で分野別にカテゴリ分けされた辞書リンク集。 Dictionary.com 英語関係の辞書コレクション集ですが、文法や翻訳サービス(英語とフ ランス語、ポルトガル語、スペイン語、イタリア語の相互翻訳)、シ ソーラス検索もあります。 IBM情報処理用語英和対訳集 文字通り IBM の対訳集です。 RFC Index Search Engine RFC の検索に使ってます。 これでもわからない時は、その分野に関連しそうな会社を捜して、技術資料や カタログを見るとわかることがあります。 11. ところで、わかりやすい論理的な文書ってどうやって生まれるんでしょ う? 日本人が著者な技術書って、よくわからないこと多いんです。「やさしく」っ て銘打っていても、やさしい内容からいきなり難しい内容に飛躍したり、簡潔 に書き過ぎてたりして。頭いい人ならピンとくるんでしょうけど、私はまった くピンとこない。これは私がアホだからでしょうけど。 その点、米国の技術書って同じようなことを手を変え品を変え、くどいほど説 明してあるものが多いような気がします。統計学の勉強した時に、日本人の著 者が書いた参考書見てわからなかったんです。まあ、文系だからしかたないか あって思ったんですけど、そこであきらめずにその参考書の 2 倍以上の厚さ のある英文の参考書見たんですよ。そうしたら、何とわかったんです。これほ んとです。もちろん翻訳しましたよ、読むだけじゃなくて。内容的には同じレ ベルなんですけど、説明の仕方が違うんです。良い意味でくどいんです。初心 者にやさしいというか、「わかってくれよ!」という著者の願いが伝わってく るというか。 勝手な推測しますけど、技術書を書く最近の日本人の方々って、自分の専門分 野「しか」勉強してないんじゃないのでしょうか?事実は知りません。私は専 門家じゃないですし、専門家の方からこういう話、聞いたことありませんか ら。 じゃあ、米国の方々はどうしているんでしょう? もちろん知りません。が、 こんな本読みました。 バーバラ・ミント著 『考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッ ド原則』 (ダイヤモンド社、1999) きっとこういう勉強をして、考えをまとめて、わかりやすい論理的な文書を書 いているのではないでしょうか? なんたら指向分析とかいうのも、こういう 背景があってこそ生まれてきたような気がします。勝手な想像ですけど。 12. やりましょうよ! さあここまでくれば、あなたも「立派な」JF 翻訳メンバーの有資格者です。 そういう私も問答無用な「自称」立派なメンバーです。 JF-ML に入って一緒 に気楽に訳しませんか? 豊かな老後のためにも、あなたのライフ・プランに 加えてみませんか。 ここまで読んで興味を持たれた方は是非 JF Project を御覧ください。 JF-MLでお会いしましょう。じゃ。 13. 著作権 Copyright (c) Satoru Takahashi 1999-2004 このドキュメントは GNU パブリックライセンス(GPL)バージョン 2 かそれ以 降に基づいて配付可能です。 14. 謝辞 この HOWTO を書くに当たって、JF ML の皆さんにお世話になりました。この 場をかりてお礼を申しあげます。 15. 更新履歴 v1.0 JF にて公開 v1.1 「UNIX上で電子辞書を活用しよう」リンク先変更。「インターネット上 の辞書と検索エンジン」修正。 v2.0 初老になって思うところあり、大幅に書き直し。 v3.0 「翻訳して何かメリットあるんですかね?」追加。「私の翻訳環境」削 除。その他こまごまと。