6.6. 基本的なファイルとリンクの生成

プログラムの中には固定的に他のプログラムへのパスを保持しているものがあります。 そのパスは今の時点ではまだ存在していません。 このようなプログラムを正しく動作させるため、シンボリックリンクをいくつか作成します。 このリンクは本章の作業を通じて各種ソフトウェアをインストールしていくことで、 その実体であるファイルに置き換えられていきます。

ln -sv /tools/bin/{bash,cat,echo,pwd,stty} /bin
ln -sv /tools/bin/perl /usr/bin
ln -sv /tools/lib/libgcc_s.so{,.1} /usr/lib
ln -sv /tools/lib/libstdc++.so{,.6} /usr/lib
ln -sv bash /bin/sh

Linux システムが適切に動作しているなら、マウントしているファイルシステムの情報を /etc/mtab ファイルに保持しています。 このファイルは普通は、新しいファイルシステムをマウントした際に生成されます。 しかし今の我々の chroot 環境では、ファイルシステムを一つもマウントしていません。 そこで、このファイルの存在を前提としているプログラムを正しく動作させるため、空の /etc/mtab を作成しておきます。

touch /etc/mtab

root ユーザーがログインできるように、またその 「root」 という名称を認識できるように /etc/passwd ファイルと /etc/group ファイルには該当する情報が登録されている必要があります。

以下のコマンドを実行して /etc/passwd ファイルを生成します。

cat > /etc/passwd << "EOF"
root:x:0:0:root:/root:/bin/bash
bin:x:1:1:bin:/dev/null:/bin/false
nobody:x:99:99:Unprivileged User:/dev/null:/bin/false
EOF

root ユーザーに対する本当のパスワードは後に定めます。 (「x」 は単に場所を設けるために設定しているものです。)

以下のコマンドを実行して /etc/group ファイルを生成します。

cat > /etc/group << "EOF"
root:x:0:
bin:x:1:
sys:x:2:
kmem:x:3:
tty:x:4:
tape:x:5:
daemon:x:6:
floppy:x:7:
disk:x:8:
lp:x:9:
dialout:x:10:
audio:x:11:
video:x:12:
utmp:x:13:
usb:x:14:
cdrom:x:15:
mail:x:34:
nogroup:x:99:
EOF

作成するグループは何かの標準に基づいたものではありません。 一部は本章の Udev の設定に必要となるものですし、一部は既存の Linux ディストリビューションが採用している慣用的なものです。 Linux Standard Base (http://www.linuxbase.org 参照) では root グループのグループID (GID) は 0、 bin グループの GID は 1 を定めているにすぎません。 他のグループとその GID はシステム管理者が自由に取り決めることができます。 というのも通常のプログラムであれば GID の値に依存することはなく、あくまでグループ名を用いてプログラミングされているからです。

プロンプトに表示される 「I have no name!」 を正しくするため、新たなシェルを起動します。 第5章 にて完全に Glibc をインストールし、 /etc/passwd ファイルと /etc/group ファイルを作ったので、ユーザー名とグループ名の名前解決が適切に動作します。

exec /tools/bin/bash --login +h

ディレクティブ +h について触れておきます。 これは bash に対して実行パスの内部ハッシュ機能を利用しないよう指示するものです。 もしこのディレクティブを指定しなかった場合 bash は一度実行したファイルのパスを記憶します。 コンパイルしてインストールした実行ファイルはすぐに利用していくために、本章での作業では +h ディレクティブを常に使っていくことにします。

loginagettyinit といったプログラム (あるいは他のプログラム) は、システムに誰がいつログインしたかといった情報を多くのログファイルに記録します。 しかしログファイルがあらかじめ存在していない場合は、ログファイルの出力が行われません。 そこでそのようなログファイルを作成し、適切なパーミッションを与えます。

touch /var/run/utmp /var/log/{btmp,lastlog,wtmp}
chgrp -v utmp /var/run/utmp /var/log/lastlog
chmod -v 664 /var/run/utmp /var/log/lastlog

/var/run/utmp ファイルは現在ログインしているユーザーの情報を保持します。 /var/log/wtmp ファイルはすべてのログイン・ログアウトの情報を保持します。 /var/log/lastlog ファイルは各ユーザーが最後にログインした情報を保持します。 /var/log/btmp ファイルは不正なログイン情報を保持します。