たくさんのクライアントやコンピュータがあって数千ものルールを必要とし、 そのすべてに別々の QoS 指定を行うと、カーネルはこれらのルールへのマッチに、 多くの時間を費やすことになるでしょう。
デフォルトでは、すべてのフィルタはひとつの大きなチェインに共存しており、 priority の順にマッチされていきます。1000 のルールがあったら、 パケットに対して何を行うか決めるには、 1000 回のチェックが必要となるかもしれません。
それぞれ 4 つのルールからなる 256 個のチェインのほうが、 マッチの速度はずっと素早くなります。 ただしパケットを、これら 256 のチェインうち、 適切なルールがあるものに分散させることが必要になります。
これはハッシュを用いると可能になります。いまケーブルモデムの顧客が ネットワークに 1024 名いるとしましょう。IP アドレスは 1.2.0.0 から 1.2.3.255 までで、それぞれ 'lite', 'regular', 'premium' などの、 別々のカテゴリに属しているものとします。 この場合は以下のような 1024 のルールが必要になるでしょう。
# tc filter add dev eth1 parent 1:0 protocol ip prio 100 match ip src \ 1.2.0.0 classid 1:1 # tc filter add dev eth1 parent 1:0 protocol ip prio 100 match ip src \ 1.2.0.1 classid 1:1 ... # tc filter add dev eth1 parent 1:0 protocol ip prio 100 match ip src \ 1.2.3.254 classid 1:3 # tc filter add dev eth1 parent 1:0 protocol ip prio 100 match ip src \ 1.2.3.255 classid 1:2 |
IP アドレスの末尾部分を「ハッシュキー」として利用すれば、 これを高速化できます。こうすると 256 のテーブルができ、 その最初のものはこのようになります。
# tc filter add dev eth1 parent 1:0 protocol ip prio 100 match ip src \ 1.2.0.0 classid 1:1 # tc filter add dev eth1 parent 1:0 protocol ip prio 100 match ip src \ 1.2.1.0 classid 1:1 # tc filter add dev eth1 parent 1:0 protocol ip prio 100 match ip src \ 1.2.2.0 classid 1:3 # tc filter add dev eth1 parent 1:0 protocol ip prio 100 match ip src \ 1.2.3.0 classid 1:2 |
次のテーブルはこのようになります。
# tc filter add dev eth1 parent 1:0 protocol ip prio 100 match ip src \ 1.2.0.1 classid 1:1 ... |
このようにして、最大で 4 つのチェック、 平均で 2 つのチェックしか必要なくなります。
設定は極めて複雑ですが、これだけ多くのルールがあるような状況では、 十分作業に見合います。まず root にフィルタを作り、 256 のエントリがあるテーブルを作ります。
# tc filter add dev eth1 parent 1:0 prio 5 protocol ip u32 # tc filter add dev eth1 parent 1:0 prio 5 handle 2: protocol ip u32 divisor 256 |
ここでいま作ったテーブルのエントリにいくつかルールを追加します。
# tc filter add dev eth1 protocol ip parent 1:0 prio 5 u32 ht 2:7b: \ match ip src 1.2.0.123 flowid 1:1 # tc filter add dev eth1 protocol ip parent 1:0 prio 5 u32 ht 2:7b: \ match ip src 1.2.1.123 flowid 1:2 # tc filter add dev eth1 protocol ip parent 1:0 prio 5 u32 ht 2:7b: \ match ip src 1.2.3.123 flowid 1:3 # tc filter add dev eth1 protocol ip parent 1:0 prio 5 u32 ht 2:7b: \ match ip src 1.2.4.123 flowid 1:2 |
次に「ハッシュフィルタ」を作ります。これはトラフィックを、 ハッシュテーブルの正しいエントリに向けます。
# tc filter add dev eth1 protocol ip parent 1:0 prio 5 u32 ht 800:: \ match ip src 1.2.0.0/16 \ hashkey mask 0x000000ff at 12 \ link 2: |
かなり複雑ですが、実際に動作しますし性能向上は驚異的です。 この例はさらに改良が可能で、 理想的には各チェインに 1 つのフィルタしか入っていない状況にできます!