12. フォントをめぐる倫理とライセンスの問題

フォントのライセンスはとかく物議を醸しがちな問題です。フリーのフォントが大量に出回っているのは事実ですが、ライセンスが付属していないものはおそらくなんらかの「パクリ」でしょう。なおさら話をややこしくしているのは、フォントに関する知的所有権関連諸法の内容です。アメリカの場合、基本的にフォントファイルの著作権は保護されていますが、フォントのデザインは対象外となっています。つまり、フォントを再配布するのは違法ですが、方眼紙に印刷した上で描線をなぞり、また新たにデザインしてしまうという「リバースエンジニアリング」は、法的になんら問題のない行為なのです。リバースエンジニアリングされたフォントはたいてい安価で入手し放題ですが、出来はよくありません。この手のフォントは、膨大な数のフォントを収録した激安 CD で配布されることが多く、海賊版フォントも同様です。よってリバースエンジニアリングされたフォントと単なる海賊版を判別するのは、必ずしも容易なことではありません。Linux 向けにフリーのフォントをパッケージングしようとする者にとっては、実に頭の痛い状況です。

海賊版フォントのもっとも不愉快な点といえば、デザイナーの割く労力の価値が軽視されていることかもしれません。海賊版はひとつの CD にごっそりつめこんであるものと相場が決まっていますが、記載してしかるべきオリジナル版デザイナーのクレジットは決して見当たりません。それに引き換え、まっとうなフォントベンダーの中には、お抱えデザイナーの名を明記しているところもいくつかありますから、立派なものです。

この問題については諸説が入り乱れています。知的所有権を支持する意見が読みたければ、TypeRight をご覧ください。また、Southern Software, Inc. では異なる見解が披露されています。ただし、ここのフォントは決して購入しないように! 同社の Type1 フォント(Adobe 製品をリバースエンジニアリングした粗悪品)は、afm ファイルを含んでいないため、使いものになりません。

フォントと知的所有権をめぐる問題は、comp.fonts FAQLuc Devroye のホームページでも取りあげられています。どちらの見解もさほど極端に走らない内容です。