2. いろはの「い」――フォント概論

2.1. フォントの種類

2.1.6. Type1 vs TrueType――両者の比較

それぞれの推進派が長年にわたって対立しているとはいえ、Type1 フォントと TrueType フォントには多くの共通点があります。両者はいずれも拡大や縮小の可能なアウトラインフォントです。Type1 フォントの文字は(二次スプライン曲線ではなく)三次ベジェ曲線で描かれます。この方式は TrueType フォントの曲線もすべて表現できますから、理屈の上では多少なりとも優位に立っているわけです。もっとも、実際にはほとんど違いがありません。

ヒンティング処理に優れているという点では、TrueType フォントに分がありそうです(Type1 にもヒンティング機能はあるものの、TrueType ほど充実していない)。しかし、この機能がものを言うのは、コンソール画面のような低解像度の出力デバイスを利用するときだけです(600 dpi のプリンタなら、たとえ極小フォントを扱う場合であろうと、ヒンティング機能の向上が目に見えるほどの効果をあげることはない)。また、きちんとヒンティング処理をほどこされた TrueType フォントがまれであることからも、同フォントの優位性には疑問符がつきます。ヒンティング機能を実現するソフトウェアのパッケージは、大半の弱小デザイン会社の予算をオーバーしているのです。きちんと処理されたフォントを作成できるのは、Monotype のようなごくひと握りの大手ベンダーにかぎられます。

結論を述べてしまうと、TrueType と Type1 の違いは普及度とアプリケーションの対応状況にあるのです。Windows 向けの TrueType フォントが広く普及した結果、Web ページの中には特定の TrueType フォントが利用できることを前提として作られたものもあります。また、Windows のアプリケーションに付属してくるという理由から、多数の TrueType フォントを抱えているユーザーも少なくありません。その一方で Linux のアプリケーションはどうかといえば、Type1 には対応していても TrueType への対応は今ひとつというものがほとんどです。さらに、たいていの大手フォントベンダーは今なお大半のフォントを Type1 形式で配布しています。Adobe などは TrueType フォントをほとんど出荷していません。そこで筆者としては、とにかくお使いのアプリケーションで利用できるフォントを選ぶこと、そしてフォント形式の変換はなるべく避けることをお勧めします(形式の変換には犠牲がつきものですからね)。

2.2. フォントファミリー

フォントというものは、数種類の異なる書体をセットにした形で配布されるのが普通です。例えばボールド(太字)やイタリック(斜体)、ボールドイタリックといった書体なら、大半のフォントに含まれています。フォントによってはスモールキャップやデミボールドもあることでしょう。あるフォントとその仲間で構成されるグループのことを書体の「ファミリー(フォントファミリー)」といいます。Garamond ファミリーの場合なら、Garamond のほかに Garamond イタリック、Garamond ボールド、Garamond ボールドイタリック、Garamond デミボールド、Garamond デミボールドイタリックという家族構成です。これが Adobe の Garamond Expert だと、さらに Garamond スモールキャップと Garamond 見出しキャピタルも加わります。