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3. GRASS の生い立ち

1980 年代初め、イリノイ州のシャンペーンにある 米国陸軍技術部隊の建築工学 研究所(USA/CERL) は、地理情報システムを利用できるかどうかについて調査を開始 しました。その利用目的は、環境についての調査とその評価、監視、及び国防省 管轄下の地域管理です。1970 年代終わりに制定された国内環境政策法(the National Environmental Policy Act, NEPA)もそのきっかけになりました。この法律によって、 国防省は環境に対して新たな義務を負うことになったのです。

USA/CERL の Bill Goran 氏が当時利用可能な GIS の調査を行いました。調査当初 の筋書きでは、環境分析が可能なシステムがすでにいくつか存在し、その中から CERL や国防省の他の部署で利用する GIS を選ぶはずでした。しかし驚いたことに、 目的にかなった GIS を見つけることができなかったのです。この結果、既存のシス テムを選択する予定が変更され、独自に GIS を設計/開発することになったのです。

USA/CERL は数人かのプログラマを雇って、VAX UNIX 用にラスター、ベクター両 データを扱える GIS の開発に取りかかりました。こうして本当の意味ではじめての UNIX 用 GIS の 開発チームが結成されました。プログラマは、さまざまな UNIX へ のポーティングという課題に直面しましたが、ANSI 規格に基づいてコーディングを 行うことで、ベンダー固有の UNIX のために「チューンアップ」されたコードを書く ことを避けました。

GRASS のプログラミング・スタイルは下記のように決められました。

GRASS は 3 つの独立した委員会によって運営されていました。USA/CERL は GRASS に対しての最終的な責任を負っていました。GRASS のほとんどの開発作業 はここで行われ、日々のテストやリリース作業を管理していました。The GRASS Interagency Steering Committee (GIASC)は USR/CERL 以外の連邦政府関係機関 から構成され、年 2 回開発状況のレビューを行い、また GRASS のあるべき将来 像を検討しました。GRASS を利用している教育機関及び企業関係者も、GIASC の 会議に参加し、「連邦政府関係機関のみ」に限定された会議はほんの一部でした。 結局最終的には GRASS は名目上表向きには GIASC の「製品」になりました。 しかし、USA/CERL がリーダーシップをとっていることは明白な事実でした。 The GRASS Military Steering Committee は開発した成果について、独自の観点 からレビューを定期的に行いました。独自の観点とは、国防省が必要としている 軍用地の環境を評価、管理するという点です。

CERL と GIASC は USA/CERL の GRASS Information Center を通して情報を交換 していました。GRASS のベータ版テストは、非常に広範囲に行われていましたが、 先進的なユーザが集中的に行っていました。国立公園局(the National Park Service) や土壌保全部(the Soil Conservation Service)のような先進的なユーザの中には、 GRASS を唯一の、もしくは主要な GIS として採用していたところもありました。 GRASS の機能強化やテストに大いに貢献しましたが、それは彼らにとって労力に 対して充分に見合う作業だと考えられていたからです。他のどの GIS よりも GRASS の発展に力を注いでいると述べていました。また彼らは、GRASS をサポートする ために多大な労力と出費をしいられましたが、十分に見返りを得ることができた、 と感じていたようです。

大学の中には、GRASS を教育課程や研究環境として重要視しているところもありま した。その内の多くは、一般教養課程のための短期コースを設置して、カリキュラム の一環として GRASS を使用しました。そのような学術関係の先進的なユーザは、 セントラル・ワシントン大やアーカンソー大、テキサス農工大、カリフォルニア大学 バークレイ校、リュトガース大学などです。

ユーザは GRASS はパブリックでかつ優れたソフトウエアだ、という評価をしていま したが、世評では他の GIS システムの開発者も、自由にこれを利用したという話も あります。それは不正競争だ、という意見や GRASS は著作権を主張していないし、 GIS の構想を得るための叩き台として利用することは価値があることだ、という 意見もありました。GRASS は 1988 年に、都市および地域情報システム協会 (the Urban and Regional Information Systems Association (URISA))から高品質 のソフトウエアとして表彰されました。

1980 年代後半から 1990 年代前半にかけて、CERL と GRASS がともに発展していた 時期に、CERL はパブリック・ドメイン版のサポートにかかる諸経費を削減しようと しました。まず The Open GRASS Foundation を設立し、先進的なユーザと手を結び ました。その後この組織は The Open GIS Consortium に発展し、GIS のデータ形式 やユーザ・インターフェースの共有化を目指しましたが、オープンな GIS の試金石 である GRASS を越えることはできませんでした。

GRASS version 5.0 のベータ版テストを開始しようとする直前の 1996 年に、 USA/CERL は公式にパブリック版のサポートを中止する旨を発表しました。 あわせていくつかの GIS ベンダと GRASS の商用版の提供について合意に達した と発表しました。この結果、 GRASSLANDSで見ることが できる商用版の GRASS が生まれました。またこのことによって、市販されている パッケージソフトの GIS に移行する GRASS ユーザも出てきました。しかし、 いまだに GRASS の anonymous ftp サイトには、GRASS 最新のフルスペック・ バージョンである 4.1 リリース に対する数々の機能拡張のためのツールが用意 されています。5 年間もメージャー・リリースがされていないにもかかわらず、 多くの組織が依然として GRASS を使用し、あらゆる分野で先端を走っていると 考えています。

3.1 再び盛り上がる GRASS の今後について

1997 年後半にベイラー大学のあるグループが、GRASS の新しい Web サイトを 立ち上げました。この速成のサイトには、GRASS 4.1 のソースと Sun の Solaris のバイナリ、GRASS 4.1 のドキュメント、そしてオンライン・マニュアルが置かれ ています。1997 年 11 月に GRASS 4.2 の最初のバージョンのソースとバイナリ (当時は Sun の Solaris 版だけでしたが、Linux 版 と Windows NT 版は検討 中です)が置かれました。GRASS 4.2 は CERL の Web サイトで提供されている いくつかの改良とベイラー大学独自の改良が加えられています。GRASS 4.2 の ドキュメントによると、今後このグループは共同作業で GRASS の開発を進めて いく予定で、そのパートナーを捜しています。WWW を積極的に活用して、開発と 運用を行っていく予定です。GRASS 5 の開発とバイナリの作成は進行中です。 またこのサイトはテキサス農工大の the Blackland GRASS サイトにもリンクして います。そこでは Windows 95 を使って、手軽に利用できる GRASS の開発を目指 しています。

訳註:Blackland GRASS は、Windows 95、98、NT で動作します。ただし 有償です(非営利利用で 1 台 $150)。詳しくは、 Blackland GRASS for Windows 98/NTを参照してください。

3.2 GRASS の今後についての再び

注意: (私も含む)別の視点で活動するグループもあります。このグルー プが探求していることは、GIS 技術を検証するために、そのパブリックな原案と なる GRASS の価値をどうしたら継続して再構築を行ないつつ、拡大させていくか、 という内容です。彼らは、GRASS5.0 のテストやリリースを管理する方法や、GRASS の設計や開発をより分散化して運用するモデルを模索しています。 またパブリック・ドメインな空間データ解析ソフトウエア(地理情報や画像解析 システムを含む)や表形式のデータベース管理システムの分野についても調査して います。
どうしたらそのような知識が、

  1. この分野の技術発展のために、GRASS がオープンでパブリックな叩き台 としての効果を発揮し、
  2. 広く一般に利用される
のでしょうか? おそらく Linux の管理モデルが必要になると思います。この 話題については、 GRASS の未来は?でさらにふれたい と思います。


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