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Webmasters コラム(2002/2/22)

質問への答え方

メーリングリストでの質問の仕方やマナーについてはさまざまな文書がありますが,そういった質問への「回答の仕方」については意外なほど少ないようです.

筆者は,著書の読者へのサポートを数年に渡ってボランティアで続けてきました.このサポート作業は公式には終了しましたが,今でも直接メールで届く質問にはできる限り答えていますし,Debian JP Users メーリングリストを中心にいろいろな方の問題解決に当たっています.これらの過程を経て筆者は,どのような答え方をすれば,フレームにつなげることなく,正しく,迅速な問題解決に持っていけるかについて,ある程度のノウハウが身に付いてきました.

おこがましいかもしれませんが,各所で巻き起こる無意味なフレームが少しでも減り,また,良い回答によって初心者の理解が進み,彼らが回答する側へと成長することを願って,このコラムを皆さんに捧げます.


質問への答え方,10 の Tips

Tips 1: 答えたくなかったら答えない
メーリングリストでの回答は,仕事じゃないんですから,無理に全部に答えなくていいんです.マナーや口の悪い人の相手をすると疲れるだけです.やり取りが嫌だなと思ったらいつでも中断して,もっと重要な自分のやるべきことに戻りましょう.
答えるかどうかはほかの誰でもなく,あなたが判断することです.回答しても無視したり,あるいはまったく見当違いの再質問をぶつけてくるような質問者もいます.こういったちょっと電波がかった質問者は要はかまって欲しいだけなので,下手に答えてしまうと「なつかれ」てしまうことがあります.万一そうなってしまったら,キルファイルやゴミ箱直行指定にでも入れてしまいましょう.
Tips 2: 無益有害「注意だけ」
「HTML 添付」や「半角カナ/機種依存文字」が入っているのを目にするやいなや,ここぞとばかりに罵倒メールをメーリングリストに出す人がいます.困ったことに,この罵倒メールには罵倒以外の情報はありません.これは罵倒した人を除けば誰 1 人幸せになれません.HTML メールや半角カナが気に障るなら Procmail などを使って読まないように設定し,黙っていて欲しいものです.
注意をする際には,回答を返す「ついで」にしましょう.筆者は注意を呼びかけるときには,「# 余計な HTML が付いていますよ」のような一文を回答の前に挿入しています.たいていはこれで理解してくれるものです.
Tips 3: 隗より始めよ
確かにまったく調べもしてないと思われる質問には「Google で調べろ」「過去ログ見ろ」と言いたくもなります.しかし,その回答をする前に実際にそうしてみましたか? それに検索初心者は検索できることすら知らないかもしれません.
実際に調べてから答えましょう.筆者は調べてみた結果を基に「Google で 〜 をキーワードにするとすぐ見つかります」「過去ログの http://〜 にそのものズバリがあります」などと,なるべく具体例を示すように注意を払っています.
Tips 4: ミステイク・スパイラル
初心者同士教え合うというのは一見お互いに優しいように見えますが,間違いを再生産しがちです.回答者が正しく状況を把握せずに自分の思い込みだけでアドバイスすると,質問者が惑わされてどんどん誤った方向に誘導されてしまいます.メーリングリストにおいて長々と続いている質問スレッドは,この状態かあるいはフレームです.
正しく答えられるものにだけ,答えるようにしましょう.「わからないことは書くな,書かなければならないなら詳しい人に聞け」というライター仲間での金言があります.わからないけれどもどうしても答えなければならない場合には,より詳しい人に尋ねたり,Google などで検索して下調べをします.誤った回答よりも,まず状況を把握するために追加情報を質問者に求めるほうがよいかもしれません.
Tips 5: 問題の層分け
質問者の中には,ネットワークの問題とアプリケーションの問題,カーネルの問題とハードウェアの問題といったことを切り分けることができない人も多くいます.実際,この切り分けは慣れないと難しいものです.このため,「Linux をインストールしたのですがホームページにつながりません」というようなどこから手を付けるべきか悩んでしまう質問を出してしまうわけです.このようなときには「層」の概念を持ち込むと解決がスムーズになります.層は,下層ほど根幹的で,上層ほど細分化されるものとなります.下層に原因がある場合には,いくら上層の現象を見ても解決しません.たとえばネットワークであれば「OSI 参照モデル」という層分けの考え方があります.このモデルは絶対的なものではありませんが,「層分け」という思考手法を学ぶには悪くありません.
回答者は,どの層の問題か,いくつかのケースを提示して質問者に返してもらうとよいでしょう.たとえばネットワークであれば,まずどのようにネットワークに接続しているのか (NIC,シリアル,USB など)[ハードウェアの問題],内部 LAN の IP アドレスに ping したときの結果[LAN 設計またはハードウェアの問題],外の IP アドレスに同様にした場合の結果[ルーティングの問題],DNS クエリーの結果[名前解決の問題],プロキシの有無[アプリケーションの問題],Web ブラウザの設定[アプリケーションの問題],といった各層のテストでどこに問題があるのかを把握できます.この辺りを体系的にまとめられると良いのですが,残念ながら筆者はまだそこまでの境地に達していません.
Tips 6: 「一言」は余計
素晴しい回答をするのに,わざわざ争いの元になる一言 (厭味や小馬鹿にしたような言葉) を付けたがる人がいます.当人は気取った芸風のつもりなのでしょうが,ハタから見れば品位が疑われるだけです.
わざわざ火種を起こさないようにしましょう.
Tips 7: 引用の最小化
全文引用して回答 1 行,では質問者にはともかく,メーリングリストのほかの人にとってはちょっとばかり不粋に映ります.どんなに素晴しい回答でも,シグネチャまでそのまま引用したメールでは回答者に対する尊敬も半減です.
質問の意図が消えない範囲の引用にとどめましょう.質問と回答が立て板に水を流すがごとくばしっと決まったメールは見ていて気持ち良いものです.
Tips 8: 「話題のスレッド化」の回避
いくつもの事柄を並べ立てた 1 通の質問メールをよく目にします.メーリングリストでこれをやられると,各事柄に対するスレッドができ上がり,やはり無駄に長くなります.これは質問者に非がありますが,回答者もうまく誘導しなければいけません.
1 つずつ解決していきましょうという方針を明確にします.特に質問が複数の層に関連している場合には,先走ったことばかり考えてしまう質問者が多いので,特にこれが重要です.
Tips 9: 与太話の無視
生い立ちや趣味について長々と書き添えてきたり,あるいは Windows への不平不満のコメントが添付されていたりといった質問メールもあります.
無駄な部分はカットしましょう.引用と同様で,質問/回答という枠の中で意味のない部分はカットすべきです.よほど興味があればダイレクトメールでのやり取りに発展するかもしれませんが,無関係のメーリングリストで長々とやられてはほかの参加者にとってたまったものではありません.筆者もほとんどの場合,そういった情報は,すべて切り捨てて話題に合わせないようにしています.
Tips 10: プロファイリング
さて,ここまで述べてきた原則に基いて,この質問に回答をしたい,というときに重要なのが「相手の立場に立って考える」ことです.これを実践している回答者は意外なほどいないものです.「私のところでは動いています」というアドバイスは一を聞いて十を知る人には助けになるかもしれませんが,まったくの初心者には何の慰めにもなりません.「〜はしています」と書かれたことが実際にはしていないこともよくあります.
まず,質問者の技術レベルを見極めましょう.これは質問者のメールの雰囲気からだいたい想像がつきます.この人の場合はどのあたりでハマるだろうか,実はこれをやっていないのではないだろうか,そういった推測が必要になります.もちろん推測 1 つでは外れることもあるので,3 つくらいケースを考えておくとどれかに当たるでしょう.もちろん,推測するためにはいろいろな情報,バグなどについて見聞を広めておくことが必要になります.

まとめ

回答するというのはエネルギーが要るものです.ちゃんと答えようとするとあちこち調べなければなりませんし,その回答が的外れに終わった場合にはトホホと思うときもあります.でも,回答者の立場になってみるといろいろと勉強になります.相手の望みを推理し,汲み取り,原因を層分けし,調査し,そして見事解決したときには,充足感で満たされることでしょう.こういった物事の分析は,メールのようなバーチャルな付き合いだけでなく,実生活で人と付き合っていくときにも役立ちます.それに,自分がトラブルにあったときの問題解決にも役立つはずです.

それでは皆さんが素敵な回答者になることを祈ってコラムを終わります.

武藤 健志 <kmuto@debian.org>

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