改訂新版 標準 Red Hat Linux リファレンス

改訂新版 標準 Red Hat Linux リファレンス レビュー記事

[ ブックレビューコーナー 目次 ]

株式会社インプレス 様のご厚意により, 書籍 "改訂新版 標準 Red Hat Linux リファレンス" を ブックレビューコーナー にご献本いただきました. この本のレビューをして頂くべく, Linux Users ML や本サイトにおいて公募を行い, これにご希望頂いた方々より感想などをレビュー記事にまとめていただきました.

ここに, レビューアの方々から寄せられたレビュー記事を公開します. (原稿到着順)

株式会社インプレス 様および レビューアの皆様のご厚意に感謝いたします.

なお, 以下のレビューは初版を対象としています.


Reviewed by 古森 誠司 (sdd@cds.ne.jp) さん

「Linux のシステム設定の取っ掛かりリファレンスに有効」

Linux の使用歴
約 1 年 6 ヶ月
UNIX の使用歴
約 6 年 (ユーザ歴)
Linux Box の主な用途
自宅での Mail/News など全般
Linux 以外に利用している OS
Windows 98
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比 (自宅)
9 (Linux) : 1 (Windows 98)

はじめに

私は, 本書の旧版にあたる『標準 redhat Linux リファレンス』を ときどき参照している. このレビューでは, 「旧版」と「新版」の違いを中心とし, Red Hat 6.x 系の解説についても触れていく.

内容について

本書は, 861 ページにわたって, Red Hat Linux 6.x のシステム設定を記述した技術リファレンスである. SMTP, FTP, Apache, DNS, INN, Samba, NIS, NFS などのサービスの設定とファイルシステム, 各デバイス, ネットワーク, プリンタの管理法とそれらのGUI管理ツールを扱っている. また, バックアップなどのシステム管理の基礎とカーネルの設定と構築についての記述もある.

旧版とのおおまかな違いのうち, 新版で追加された内容は,

逆に, 新版で省かれた内容としては,

などがある. その他, 旧版が Red Hat 5.x を対象としている点と異なり, 本書は, 全般的に Red Hat 6.x を対象にして微調整されている.

ちなみに本書の構成は, 出版元の本書の PR のとおりである.

良い点

本書のカバーしている内容は, Red Hat 系 Linux のシステム設定全般で, これ一冊あれば, それらのポイントの多くが掴める.

本文の間に, アドバイスやヒントを示す "Note" が, 置かれており, 参考になることが多い. たとえば, 起動時に追加するスクリプトの扱いなど FAQ が書かれている.

改善して欲しい点

翻訳本なので, 仕方ないが, 日本語環境についての記述がない点が寂しい. ちょっと細かいが, ページ割り当てとして無駄だと思われる点がいくつか目立った.

たとえば,

これらのページを利用して日本語環境に触れて欲しい.

また, 本書は個人が自宅で趣味として Linux を使用する場合を視点においたシステム設定というよりも, SOHO や 小規模以上の企業でのシステム管理を念頭においた内容になっている. というのも, 国内の個人ユーザーは, ダイアルアップ環境である場合が多く, この条件下のユーザは,

と考えられる.

今後は, 常時接続を利用する個人ユーザも増えてくると考えられるが, ダイアルアップ環境の個人ユーザのための情報も手厚くしてほしい.

おわりに

本書のターゲットは, Red Hat 6.x やそれをベースにしているディストリビューションを 使用している中級ユーザで, 本書の内容を理解するには, はじめて, UNIX 系の OS に触る人には若干難しく, UNIX 系の環境設定の基礎知識がある人が適切であろう.

本書は, Red Hat 系 Linux のシステム設定についてのリファレンスとして 適当な内容であり, Red Hat 系 Linux のユーザが Linux の入門書を経て, システム設定の移行の際の参考本として選択する価値のある本である. ただし, 上述したが, ダイアルアップ環境の Mail/News 設定の詳細説明に関しては, やや物足りない内容になっている.

すでに, 本書の旧版を持っている人は, KDE, GNOME のデスクトップ環境の設定や, kernel 2.2 の設定と構築に興味があれば, 本書へのバージョンアップを検討しても良い.

最後に, この本のレビューという機会を与えてくれたインプレス社, および www.linux.or.jp Webmasters ブックレビュー担当の方に感謝したい.


Reviewed by 小林 準 (fm4j-kbys@asahi-net.or.jp) さん

「Linux Box の隣に常備して損はない一冊」

Linux の使用歴
約 3 年半 (主に Slackware)
UNIX の使用歴
約 4 年
Linux Box の主な用途
自宅では : メール, ニュース, 文章作成, ゲーム...など.
職場では : ファイアウォール, Samba を用いたファイルサーバ, Web サーバとして.
Linux 以外に利用している OS
職場で Windows98 と Solaris を利用.
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
5 : 5

1. 全体的な感想

邦題の通り, ソフトウェア導入時やトラブル時, 必要に応じて開く「リファレンス本」として, 有用な書籍であると感じました.

趣味として Linux を楽しんでいる人にも, 業務上 Linux を使用している人にも, 広く勧めることのできる良書であると思います.

2. 各パートごとの感想

Part1 - Red Hat Linux の概要とインストール

UNIX についてある程度の知識があるユーザならば, Part1 を参考にしながら Red Hat Linux をインストールし, X Window System を動かすことは問題なく出来ると感じました.

残念に思うのは, 細かい点になりますが, インストール時に Software RAID デバイスを作成する機能について, 解説がないことです. 最近の Red Hat Linux がもつ, インストール時に RAID デバイスを作成する機能は, とくにサーバ OS として Linux を利用する際に有用だと思いますので, 次期改訂版では, RAID デバイスの取り扱い全般についての解説も合せて, 加えられることを望みます.

Part2 - サービスの設定

電子メールや DNS, Samba などの各種サービスの設定法だけでなく, 歴史的な経緯や仕組みが分りやすく説明してあり, 理解を深めることができました. もちろん, 設定法についても, 導入から設定・テストに至るまで, 詳しく述べられており, 非常に役立ちました.

この章は, ほとんどが Linux に特化した内容ではないため, Linux ユーザでなくとも便利に利用できると思われます.

他に, 各種サーバの設定ファイルの例が豊富に掲載されていることも, 実用上, 便利な点としてあげることができます.

Part3 - システムの管理

このパートでは, ハードウェアの管理や印刷, ネットワーク, Red Hat 固有のツールなどについて述べられています. 個人で Linux を使用し, 一通りのことをするには, 十分な情報が提供されていると感じました.

また, 私は Red Hat のもつ管理ツールについて, ほとんど知らなかったため, 第 19 章の「Red Hat のグラフィカルな管理ツール」が非常に役立ちました.

ネットワークやセキュリティについては, 基本的な事柄が述べられるにとどまっています. インターネットサーバとして Linux を用いるならば, 他の書籍や, Web ページを参照する必要があるでしょう.

3. 最後に

Red Hat Linux を, ただ「利用」するための手段のみが述べられているのではなく, Linux や各種サービスの仕組みについて, しっかりとした説明がなされていることが, とくに良いと感じました. ソフトウェアの導入時やトラブル時など, そうした解説を読んでいくことで, より深い知識を身につけていくことができると思うからです.

もちろん, Linux Box 設定時のリファレンスとしても完成度が高く, Red Hat 系のディストリビューションを使用している多くの人に, 勧めることのできる書籍だと思います.


Reviewed by 武田 信和 (ntakeda@naka.jaeri.go.jp) さん (web page)

「サーバ機能の解説としては十分だが, 端末用途 (特に日本語入力) としては疑問点が多い」

Linux の使用歴
約 1 年半
UNIX の使用歴
9 年半
Linux Box の主な用途
  • ファイルサーバ, ftp サーバ
  • メール, NetNews の利用
  • Tcl/Tk を用いたプログラミング (滅多にやらない)
  • ゲーム
Linux 以外に利用している OS
Mac OS 8.0, Windows 98
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
1 : 2

1. はじめに

本書はサーバの設定やシステム管理について一通りの記述がされており, Red Hat 系のディストリビューションを用いているサーバ管理者にとって 便利な一冊であるといえるだろう. ただし, 端末用途として必要なソフトウエア類に対する説明はほとんどないので, 初心者向けでは全くない. 日常の用途に Linux を使うためのマニュアルとして一冊本を探すのであれば, この本を選ばない方がいいのは確かである. (しかし, X Window System には 46 ページもの記述があり, サーバ用途と端末用途のどちらを重視しているのか, ちょっと本書の趣旨を図りかねる部分もある).

以降の文章では, 筆者にとって最も必要であるサーバに関する記述と, 非常に気になった日本語対応に関する記述について述べたい.

2. サーバに関する解説

これまで筆者は Red Hat 系ディストリビューションを用いたサーバ管理のために, トッパンから出ている「Linux ネットワーク」を用いていた. しかしこれは Slackware が元になっており, 設定ファイルの位置の微妙な相違等があって若干違和感があった. その点本書は Red Hat と銘打っているだけあって, そのような違和感に悩まされることもない (当然だ). サービスとしては E-mail, FTP, WWW, NetNews, DNS, NIS, NFS, Samba と一通り挙げられており, サーバとしての機能はそろっている. しかし, 残念ながら Mac とのファイル共有サービスである netatalk や CAP に関しては記述がない (「Linux ネットワーク」にはあった). 需要が少ないのだろうか? ぜひ今後の版では対応していただきたいものである. (…と思ったが, 実は Red Hat 自体に netatalk のパッケージが収録されていないのである. TurboLinux には収録されていたので勘違いをしていた. ディストリビューションの解説本なのだから記述がないのも当然である. 失礼しました)

その他, システムの起動とシャットダウンについて一章が割かれており, この中でランレベルと /etc/rc.d 下のスクリプト群との関係に関する記載がある. このあたりに関してまとめられたものを読んだことがなかったので (HOWTO 群の中にはあるのかもしれないが), 私としては非常に助かった. また, linuxconf や netcfg などの GUI 管理ツールに関する説明もある (私は嫌いだが).

総じていえば, サーバ管理について必要な記述は一通り揃っており, 管理者としてはこの本があればいちいち膨大な HOWTO 群の海を泳がずに済むだろう. (逆にいえば HOWTO の中を探す気力があればいらないともいえるが… それを言っては多くの Linux 本は成り立たないような気もする).

3. 日本語対応について

ところで, 本書の帯には「Red Hat Linux の日本語版を徹底解説」と書かれている. では日本語に関連する記述についてはどうだろうか.

日本語入力に関する記述だが, これは私が読んだ限りでは全く無い. 索引にも目次にも無かった. おそらく原書には記載は無いのであろうし, 本書が訳書であることを考えれば無いのも当然なのかもしれない. また, 本書はサーバ指向なので端末としての用途は想定しておらず, 日本語入力など必要ない, という考えなのかもしれない. しかし X Window System の設定に関しては詳細に説明しているから片手落ちである. また, 帯には「Red Hat Linux の日本語版を徹底解説」とあるのだから, おそらく読者は日本語入力に関する記述を期待するに違いない. 現に収録されている「Official Red Hat Linux 6.2 日本語版 (FTP 版)」 には Canna も FreeWnn も入っているのである. やはりここは独自に一章を立ててでも日本語入力に関する記述を加えるべきなのではないだろうか. 今後改定を加える際には是非検討していただきたい.

その他の点については, 単なる文章の翻訳に終らず,

など, 日本の読者に対する配慮が行き届いている. それだけに, 日本語入力に関する記載がない点が非常に気になるのである.

4. おわりに

以上まとめると, 本書の趣旨がサーバやシステム管理に重点を置いたものだとすれば, この本は非常に便利な本である. しかしそれならば X Window System の説明はいらないように思うし, その分サーバ関連の記述 (netatalk 等) を増やした方がいいように思う. 逆に端末用途も重視しているのなら, 日本語入力に関する記載を増やすべきだろうと思う. 私から見ると本書は趣旨が絞り切れておらず, やや冗長な (あるいは物足りない) 記述になっているように感じる.

5. おまけ

3 ページ目にある Billy Ball (著者の一人) からの謝辞の最終行は若干言い古された感のあるセリフだが, うなずく読者も多いことだろう.


[ ホーム | マップ | ニュース | 検索 | ドキュメント | リンク | プロジェクト ]
このサイトに関するご意見・ご要望は Webmasters までお願い致します.