翔泳社 様のご厚意により,
書籍 "改訂版Debian GNU/Linux徹底入門〜Potato対応" を
ブックレビューコーナー にご献本いただきました.
この本のレビューをして頂くべく,
Linux Users ML
や本サイトにおいて
公募
を行い,
これにご希望頂いた方々より感想などをレビュー記事にまとめていただきました.
ここに, レビューアの方々から寄せられたレビュー記事を公開します. (原稿到着順)
翔泳社 様および レビューアの皆様のご厚意に感謝いたします.
なお, 以下のレビューは初版を対象としています.
「Debian は初心者には敷居が高い, だが一度使いはじめるとやめられない」 という評判をよく耳にする. この評判は, Debian の素晴らしさと, 使いはじめの困難さという課題を明確にしている. こうした困難を乗り越え, 「こんなものがあったのですか. 素晴しい. もう Debian ラブラブです」 と言わしめるまで初心者を導ける本なのか, という点に着目して本書を読んでみた. 結論からいうと, 本書は導入の手引きとしても, 長らく使用する辞書としても良い, 初〜中級者(中級の定義は非常に難しいが)におすすめの一冊である, と私は考えている.
私が感じた, 本書の良い点を以下に列挙した.
全体を通していえる事として, 「今ここで具体的に何をすべきか, なぜそうすべきか」 という部分が明確にされている, という点がある. 納得しながら, 理解しながら読んでいけるので, ページ数の多さも苦痛にはならない.
以下に指摘したのは, 欠点ではなく, こうすればもっと便利かもしれない, と感じた部分である.
本書の丁寧かつ詳細な解説があれば, 一般に言われる Debian の初期導入の 困難さも乗り越えることができるだろう. また, 多岐にわたる分野の解説は, 次から次へとユーザの興味をかきたててくれる. そうこうするうち気づいた頃には 「Debianラブラブです」と言っているに違いない. その頃には, 今度は辞書として活きてくる. 一度買ってしまえば, 長らく机の一角を占領する本である, というのが本書に対する印象である. Debian に乗り換えてみようか, Debian から Linux キャリアを始めようか, という気持ちが少しでもおありの方, 是非ともこの本を片手に, 素敵な Debian ワールドへ飛びこんでみてください. 数ヶ月後にはきっと, 「Debian ラブラブです」という気持ちになって頂けるでしょう.
私は約 3 年ぶりに Linux を利用したいと思い立ち, 本書を手にした. そのため (久しぶりに行うわけではあるが) 初めて Linux をインストールする人の気持ちにたって, 本書を読み進めてみることにした. 具体的には Linux をインストールし, 活用してみたいと思い始めている読者の観点から, Debian のインストール/X Window System の設定/カーネルのコンパイル, の項目に絞って本書のレビューを行う.
本書に沿って CD-ROM から Debian 基本システムをインストールしてみたが, 大きな問題もなく, すんなりと入った. 本書ではインストールの手順通りに 説明が載せてあり, 迷いそうな箇所は項目ごとに説明と図が添付されている. また, 選択しなければならない箇所では,とりあえず何を選んだら良いかが 記してあり, Debian のインストールに慣れていない読者にはとても 助かる記述であると思う.
基本システムをインストールした後は, 各種ソフトウェアの詰まった パッケージの選択, 及びインストールである. 本書では APT (Advanced Package Tool) でのパッケージ管理を説明している. パッケージのインストール手順は 詳細に記されているのだが, 実際に Debian ではどのようなパッケージが 用意されており, これこれをやりたいときにはこのパッケージを選択したらよい, という一覧的な記述が無いため, 初めて使うときは多少混乱してしまった. このような一覧表はぜひ掲載してほしいと思う. (Debian では「タスク」と 呼ばれるパッケージ選択のためのパッケージが用意されているが, 本書では主だったタスクの名称が載せてあることはことわっておく).
主要パッケージをインストールした後は, やはり X Window System の設定で ある. 著者も「X を正常に起動させることは難しいが, 動かすことはそれだけ価値あること」, だとエールを贈っている.
実際に本書に沿って X Window System を設定してみた. GUI を利用した設定方法は 3 年前と比べて格段に分かりやすくはなったが, ビデオカードやディスプレイ の詳細は前もって調べておかなくてはならず, その点は全くと言っていいほど 変わっていなかった. 使用しているハードを的確に把握し, それを用いて設定 しなければならない点が, 設定が難しいと言われる所以だと思うが, 本書では 各設定画面を図で表し, できる限り設定できるような手助けをしてくれている ところが初心者には嬉しい.
カーネルのコンパイルの項目は, とても記述が詳しかった. 初めてコンパイルを行おうと思ったとき, メニューの中で設定する項目が非常に多く, しかもどの項目を選択すればよいのかが分からなくなり, 結局しり込みしてしまう ことが私自身過去によくあった. しかし本書では, 各項目で設定する主なポイントが 説明されており, ひとまず何を選択しておけばよいかが分かるようになっている. そのため私自身しり込みせず試してみようと思うことができたし, 実際にエラーで中断されることなくカーネルのコンパイルを行うことができた.
Linux を利用するためのインストール中で最も不安なことは, 途中でエラー で止まったり,インストール後に動作しなかったときであると思う. しかし本書では, どのような手順でインストールが行われるのか, そしてどのように設定を行ったらよいかが図を豊富に用いて記されており, Linux インストール初心者にはとても心強い助っ人になり得ると感じた. また, このような Linux 関連の書籍では誤植やミス, 出版時からの変更が多少なりともあり得ることだが, 本書のサポート・ホームページ (正誤表コーナー) が用意されていることも心強い. 実際私自身も本書で行き詰まった時にサポートページを参照したところ, 本文の誤記が載っていた. これにより時間を浪費することなく 正しいインストール操作を続けることができた.
また, 本レビューではインストールの項目に絞って記したが, 本書は単なるインストール解説本ではなく, 各種の設定や Linux の様々な活用方法も 豊富に記されており, インストールが終了して, 次のステップに進もうと思う読者 にとっても, さらなる有益な情報を与えてくれる.
このようなことをふまえての全体的な感想は, 本書さえあれば Debian なる Linux システムを構築でき, 活用するための第一歩を踏み出すことができる, というものであった. ただ, 近年人気急上昇中である Linux とはどういうもの かを知りたいだけの読者, 一度インストールして試してみようかな, という読者向きではないと感じた. それには分量も解説も多すぎるのである. そのような読者ではなく, もう一歩踏み込んで, これから Linux を活用していきたい, コンピュータやネットワークの仕組みを勉強したい・使いこなせるようになり たい, という思いを抱き始めた, 「Linux に対して前向きな読者」にとって, とても強力な助っ人になり得る有用な書籍だと思う.
導入するディストリビューションを Debian に決定したとき, 優れた手引書があれば導入に際して無駄に費す時間を減らすことができる. これは, Debian 初心者であれば程度の違いこそあれ UNIX 上級者にも言えることだろう. このレビューでは, 本書「Debian GNU/Linux 徹底入門」がその優れた 手引書たりうるか, 予想される質問を挙げてそれに答える Q&A 形式によってまとめてみたいと思う.
本書を手に取った時の第一印象は, 「重くて綺麗な厚い本だな」であり, 次に適当にページを開いた時の印象は, 「適度に側注や図表があって読みやすそうだ」である. それと気が付いたことは, 「Linux 入門(トッパン)」と似ているということである. 明示的に書かれていないが, 章の割り振り順序や内容, 総ページ数, 価格, 索引などについて随所に「Linux 入門」を意識した痕跡がある. ただし, Linux 入門では Slackware を対象としているのに対して本書は Debian を対象としている. ちなみに私はこの「Linux入門」を入門書の なかで一番高く評価しており, 本書「徹底入門」はこれに次ぐものと位置付けている.
私は高いと思わない. それは次のような観点からである.
当然だと思うが全く不備がないわけでない. しかし, 深刻な不備も見当たらなかった. 誤植や不備をなくすことは非常に困難なことであるから正誤表などで 後からのサポートが大切だと思う. 嬉しいことに 著者による本書のサポートページ がある. そこに正誤表もあるわけだが, 面白いのはそれらが (高) (中) (低) (外) といった具合に正誤レベルで区別されている点である. 致命的な誤りから, 正誤とはいえない刊行後の変更や追補までをランク分けしてあり, それらを索引 検索したり印刷用に表示させることができるように工夫されている. ちなみに 現在 (2001/01/02) までで (高) レベルの正誤は報告されていないようである.
私の Linux 使用歴は 2.5 年が Slackware で, 残り 2.5 年が Debianである. その移行したときに戸惑ったことを思い出しながら本書を読んでみた. よう するに, パッケージ管理やディレクトリ構成や起動の流れやポリシーなど, そ のディストリビューションに特化したことが分からなくて Debian 導入に困る ことが多い.
私の感想から言うと, 本書をハンドブック的に用いることでこれらの困難 の多くは解決できると思う.
例えば, Debian のディレクトリ構成は「10 章 Debian のシステム管理」に おいて 1 節を使って述べられており, どのディレクトリにどのようなファイルが 置かれているかが書かれている. ここで欲を言えば, 逆引きも用意されていれば, パッケージ化されていないアプリケーションを独自にインストール したい場合に, どこのディレクトリにインストールすべきかといったことが, 早期に解決できるのではないかと思った.
詳しく解説されている部分とそうでない部分との差が大きい. 例えば, 「5 章シェルを活用しよう」は 12 ページしか割かれておらず, しかもその半 分は C シェルに関する内容となっている. 私は bash をデフォルトのシェルと して使っている人なので, 「5.5 tcsh のテクニック」という節がありながら 「bash のテクニック」の節がないというのは非常に残念に思う.
付録 CD-ROM に Debian Project のオフィシャルの CD-ROM が含まれていない. 私は学生なので大学の専用回線を使えばオフィシャル CD-ROM (3 枚分に 相当) を直接ダウンロードできるが, そのような環境がない場合は手に入れにくい. 付録に付ける CD-ROM の枚数は本の価格とトレードオフされるので難しい面もあるが, 本書の付録 CD-ROM 3 枚中 2 枚をソース CD-ROM にしても 利用されないのではないだろうか.
入門書に必要かどうか確信はないが希望としては, 「Debian パッケージの 作り方」というセクションが欲しい. Debian 以外の入門書ならそれほど思わ ないだろうが, Debian は完全にオープンな世界を目指しており, プロジェクトに誰でも参加できるためユーザーがディストリビュータになる 可能性がある. そんな Debian の入門書として「Debian パッケージの作り方」のセクションが 盛り込まれていれば本書の価値が上がるのではないかと思う.
余談だが, 先日, 京都で行なわれた Linux Conference 2000 Fall において 本書の著者である武藤氏が講演されていた. そのタイトルは, 「Debian パッケージの作り方」であり, 非常に分かりやすい講演だったことを付け加えさせてほしい.
「Debian で行くぞ!」と考えている人が本書を購入して「損した」と 感じることは無いと思う. ただ, インストール本はインストールに専念すべきで, サーバーはサーバーの専門書, というように分けて考える人に 本書は不向きかもしれない.
私にとっての Debian GNU/Linux は, 私が Slackware のメンテナンス性の 悪さにへき易していた時に現れた, 救世主のような存在です. libc さえもリブートすることなくバージョンアップができるディストリビューションは, それまでソースを入手して make install してハマるパターンの繰り返しに 疲れきった私に, 「堕落」というオアシスを提供してくれました. 私が Linux を 使い始めた当初は, ディストリビューションと言えば Slackware が メインであった為, 沢山本を買い込み, 読み耽っていましたので, UNIX の素人であった私でも何とかそれなりに使えていたように思います. しかし, Slackware を使用していた頃とは違い, 私にとって新しいディストリビューション であった Debian を, 手引書なしで ML 上で質問するだけで使いこなすには 限界があります.
この本は, 上述のように Debian に関する基礎知識が不足している私にとって, 様々な要所を押えた説明が満載された, うってつけの本だと感じました. しかしながら, Linux の初心者にとっては必ずしも説明が十分でないと思われる面が 幾つか見受けられました.
初心者の方には, この本と, Linux 或いは UNIX の基礎的な内容を解説する本を併用することをお薦めします.
持ってみると大変分厚い本で, バッグに入れるとかなり重いです. でも, 内容は思ったよりもサクサク読める, という印象を感じました. 全体的に淡々 とした文章で, 肩が凝らない読み易さです.
最初の章から, UNIX 及び Linux の歴史が大まかに説明されています. 今まで色々な本を読んで来ましたが, 大変簡潔に, 尚且つ判り易く説明されて いると感じました. これ以外に私にとって最も有難かったのは, APT の使い方の解説と, X 周りの 解説でしょうか.
また, ネットワーク関係やサーバ関係を含む 多種多様なパッケージの設定や説明がこれ程まで網羅されているのは圧巻の 一言に尽きます.
著者の幅広い知識と, 膨大な巻末の参考文献リストから推測 される大変な労力に敬意を表します.
「インターネットにつなげよう」では, ppxp による設定方法が記されてい ますが, その前にプロバイダ選定のポイントが, 少しだけですが非常にツボを 押えた内容にて書かれています. 意外とこういうちょっとした点が大事だと 思います.
また, 「Debian のシステム管理」では, ディストリビューション 非依存の部分と Debian 固有の部分が混在するものの, 基本的なシステム管理に 必要なエッセンスが凝縮されており, この章は他の類似する書籍と比べて 秀でていると言っても過言ではないと感じました.
コラム「あるべき html の姿」は, 多くの人に読んで欲しい内容です.
紙面の関係からか, 内容の背景から説明されているものと, そうでないも のとに分かれますが, あちこちに「暗黙の了解」的に省略されている部分が 見受けられます. 幾つか事例を挙げますと:
Windows 再インストール説明において, 「MS-DOS プロンプト」の ハードコピーが図示されていますが, Windows のハードコピー画面が用いら れており, これは初心者に誤解を与え兼ねません.
ハードコピー画面周囲のウィンドウ枠は消すべきではないでしょうか.
dpkg -lの説明がありますが, この図, dpkg -l |less しているものと思われます. しかしながら, less にパイプ経由で出力させる 旨の記載は見当たりません.
順番から行くと, この後の章に「UNIXの世界に触れよう」とあり, そこで 基礎的な概念やコマンド等の説明がなされる所を見ると,この時点では, 先 ずは説明は後回しにして, きちんとパイプ経由で less を通すこと, less の 最低限のカーソル移動キーと終了の為のキーの説明を書いておくべきではな いでしょうか.
全体的に文章の内容は読み易いのですが, 反面, 要点がどこなのかを見失 いがちになってしまうように感じました. 例えば絶対に守って欲しいような 項目等は太字やアンダーライン等の文字修飾を施すとかの, ちょっとした工夫が あれば良いように感じました.
そしてこれは個人的な趣味趣向になってしまいますが, UNIX の基礎的な コマンドの説明では, 多少筆者のエゴが入っても良いと思いますから, 「このコマンドはこんな風に使うと良い」みたいな, ちょっとしたノウハウを 書かれるとより好感が持たれるのではないかと思います. そして, 基本的な コマンドをどのようにうまく組み合わせて活用して行くのかを,特にパイプの 辺りで少し盛り込んで欲しい気がしました.
勿論, この本はあくまでも Debian の入門の為の本でありますから, 欲張れば 際限がなくなってしまうのは重々承知の上ですが, そういった細かいことは他 の本に任せるとして, 更なる探求のきっかけを与えるくらいはあっても良いよ うに思いました.
また, 実際にパイプを使って長いテキストを読むのは more よりも less の方が多く使われることを鑑みますと, less の説明がある べきではないかと思いました. 後の章にも more を使う場面が出て来ますが, more の場合, 標準入力をバックスクロールできませんから.
全体を読み終えてふと思ったのですが, パッケージの作り方の説明が ありません. 例えば, 読者の中には独自のパッケージを作りたいと思う方も居るの ではないかと思います. Debian の強力なパッケージ管理機能を生かした, 独自パッケージの作り方の説明, そして, 開発版の紹介やコントリビューション に関する説明も欲しいと思います. 勿論, 開発版に対しては沢山のリスクが あることも強調しなければなりませんが, 折角の入門書です. Debian という ディストリビューション自体が世界中の貢献により成り立っているという事実, そして Linux という世界への入門は, 単にユーザーとしての立場だけでなく, 相互に助け合う世界への入門でもあることを, 何処かに記して欲しいです. 私のような, ロクにプログラムすら書けない者でも, コントリビューションの 間口は沢山あります.
この本は Debian というディストリビューションを説明するには, パッケージの作成方法を除いて, ほぼ十分な内容が書かれているとは思いますが, PCの全くの素人が Debian を使えるようになる程迄は説明されていません. 勿論, 筆者がそれを全て網羅するには限界があることも承知しています. ならば, 思い切って「他の書籍やドキュメントを参照して欲しい」と記述して 欲しかったと思います. 日本語環境の章で, 最後にオンラインマニュアルの記載が ありましたが, むしろ巻頭に持って来るべきではないか, とも思います.
また, 内容としては紹介や設定方法等が主な内容になっているのですが, 個人的には, ある程度思い切って筆者のエゴイズムに近いような, 使いこなし の為のテクニックや心がけのようなものを, もう少し突っ込んで書いても良い のではないか, とも思いました. 「私はこう思う, しかし一方ではこうする人 も居る, どちらを選択するのかは読者次第」というような, もっと筆者の個性 が垣間見えるような内容が, 個人的には欲しかったです. その方が, 使う人に 考えるきっかけを与え, より親しみを持って Debian に, Linux に接すること ができるのではないでしょうか. とても美味しいけどアクが少ない, ちょっと 薄味な印象に感じました.
もっとも, ともすると押しつけがましくなりがちな恐れもありますから, バラ ンスの取り方が難しいと想像します. こういう要望を出す私の感性が, アクが 強いのかも知れません. (汗)
なお, 私が気付いた細かい点等は, 別途 http://www2.palnet.or.jp/~matsuda/tettei20001210.html にて記載します.
苦言が随分多くなってしまいましたが, 今まで読んだ Linux 関連の書籍の 中でも, 数少ない, 厚さが苦にならない, それでいて内容が濃い本だと思います. 読み易かったからこそ細かい点が余計に気になってしまったのかも知れません. およそ一人でこれほどの分量を執筆されるのは, 力量も然ることながら 大変なご苦労があったことであろうと推察します. そのご尽力に敬意を表しますと 共に, 今回レビューの機会を与えて下さいました, 株式会社翔泳社ならび にブックレビュー担当の方々に感謝します. 有難うございました.
そして, woody リリースの頃に再びこの本の続編がリリースされること, 熱望します.
Linux は, Slackware から始めて色々インストールしてみたが, Debian については slink を FTP から入手し, 自己流でインストールし X まで立ち上げたものの, dselect の呪縛でパッケージの追加による使用環境整備をあきらめていた.
今回のレビュー参加により, 再挑戦しつつ本書の有効性について検証してみた.
本書を最初に手に取った印象は重い. そして, 目次を見てさらにページをパラパラとめくってみると, 「徹底入門」とタイトルにあるように, 単なる OS インストールガイドに留まらず, 一般ユーザがクライアントとして趣味や仕事に日常的に活用できるまでの広範囲の解説書を目指しているようにも見えた. これは, 期待できそうだ.
先に書いたように重い本であるが, 手が疲れるのもかえりみずカバンに入れ, 会社の行き帰りの電車のなかで全体を読んでから, その後, 実際に添付 CD をインストールしてみた.
インストールそのものの解説は全体の 1〜2 割であるが, 必要な図やスクリーンショットもあり, ほぼ問題なく立ち上げることができた. その後, X や Window Manager, インターネット環境, プリンタ関連, マルチメディア関連のアプリケーションを導入した.
パッケージインストールに apt-get が導入されたこともあるが, 本書ではこれに関して, はじめの方でかなりページを割いて解説されているので, この部分を以後のパッケージ導入で参照しつつ作業を進めることができ, dselect の呪縛を受けることも無かった.
インストール本というと, インストール作業の説明だけに終わり アプリケーションの説明がオマケ程度のものも見受けられるが, 本書は実際にデスクトップ作業で有用とおもわれる, エディタ, 日本語環境, インターネットアプリ, サウンドアプリについても記述され, さらにネットワークやファイルシステム, カーネル再構築をはじめ, サーバ用途アプリも一通り解説されている. 内容は設定や関連情報について当面必要な項目については, ほぼ記述されているので, Debian 利用者でなくとも, パッケージ名さえ自分のディストリビューションに置き換えれば, 十分に利用できる.
また, Web 上に著者によるサポートページがあり, 誤植はもちろん, 関連 FAQ があるので, 本書の内容について理解を深めることが可能である. 実際にも, インストールしたアプリケーションのエラー対応で何回か利用させてもらった.
インストールは, 豊富なスクリーンショットにも助けられ解説どおりほぼ進めることができた. しかし, 実施環境の差によるものかもしれないが, 記述どおりで無い点が二三あった. 添付 CD の版との差, バージョンアップによる食い違いが発生しているのであれば, 改定版では見直し修正してもらいたい.
モジュールやネットワークの設定はその場での設定を前提として記述されている. 仮設定をしておいて, インストール終了後に必要に応じて変更する方法もあると思われるし, とりあえずシステムを立ち上げるにはその方が早道の場合もある. ハードウェアの変更時にも同様な作業をする必要があるので, こういった解説もあると, 作業を不安なく進められる. (事実, ハードウェアの最新設定状態の確認を怠ったので, ネットワークとサウンド関連はインストール時に設定できず, 後設定を実施した)
索引が巻末についているが, 「xx を yy する」といった逆引き索引も欲しい. ファイル, ディレクトリ索引はフルパスであるが, 名前が判っていても, パスが曖昧なことも多いので, 個人的にはフルパスで無い方が便利だと思う.
今回, apt-get を使ってのパッケージ導入を実施してみて, パッケージの依存関連をあまり意識すること無く, 自動的に必要パッケージが最新に更新される Debian のパッケージ管理の良さを体得できた. Debian 入門と書名にあるなら, Debian の良さについて, 他のディストリビューションとの比較において解説されてもいいのではないだろうか. また, kernel パッケージの作成については, make-kpkg が説明されているが, 他のパッケージの作成についても, 多少記述が欲しかった. 日本語環境について, 他のディストリビューションと比べて既存パッケージでは不満な点もあり, 公開されている patch の利用による自分なりのパッケージの試行もしてみたいと思って, 記述を探したが, 本書にみあたらなかった. (著者のサポートページには, alien が紹介されてはいるが)
本書の利用で, ようやく Debian を導入することができ, Debian が本来もっているパッケージ管理の良さも体験することができた.
全くの初心者が本書で Debian をすんなり導入できるかは多少疑問な点もあるが, 全体的にみて解説もわかりやすくカバーしている範囲も広いので, Debian のみならず, Linux 全体についてよく解説された参考書である. Linux をちょっとかじってみて, これから本格導入したい人に特にお勧めしたい.