GNOMEプログラミング

GNOMEプログラミング レビュー記事

[ ブックレビューコーナー 目次 ]

有限会社 セレンディップ 様のご厚意により, 書籍 "GNOMEプログラミング" を ブックレビューコーナー にご献本いただきました. この本のレビューをして頂くべく, Linux Users ML や本サイトにおいて 公募 を行い, これにご希望頂いた方々より感想などをレビュー記事にまとめていただきました.

ここに, レビューアの方々から寄せられたレビュー記事を公開します. (原稿到着順)

セレンディップ 様および レビューアの皆様のご厚意に感謝いたします.

なお, 以下のレビューは初版を対象としています.


Reviewed by 誉田太朗 (taro@diana.dti.ne.jp) さん (HomePage)

「自分のためのプログラムからみんなのためのプログラムへ」

Linux の使用歴
4 年 (Slackware -> RedHat -> Vine)
UNIX の使用歴
4 年 (Linux, FreeBSD (as Firewall))
Linux Box の主な用途
NIS, NFS, WWW, FTP, DHCP 諸サーバ, デスクトップ PC
Linux 以外に利用している OS
諸 Windows, FreeBSD
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
50 : 1

対象読者と環境について

本書では GTK+ や C 言語, UNIX 環境の "基礎的な知識" を必要としているが, 詰まる事無く読み進めるには, ある程度の GTK+ と C 言語でのプログラミング経験が必須である. その他, make などのプログラミングツールや GCC のコンパイルフラグなども使いこなせるべきである. 何をもって基礎的とするかにも依るが, この点はもっとはっきり明記すべきである. 開発者や上級ユーザにとっての基礎事項をマスターしていなければ, 完全な理解は無理である. ただ, 参考文献を挙げている点は高く評価したい.

対象環境は, GNOME1.4 が動いている環境がベストであるが, Bonobo 等の先進的な機構を利用したいのでなければ, GNOME1.2 などの古いバージョンでも大きな問題は無い.

ずばり最も推薦したい方は, Linux の環境にドップリと浸かっており, これまでに実用的なプログラムを書いた事のある開発者であり, 自分のプログラムをアーキテクチャや国境を越えて, もっと広めたい方である. GNOME は様々な環境や言語間の橋渡しを劇的に省力化してくれるに違いない.

また, 実際に私がそうであったが, 少しアプリケーションを改造したい人にも, 全体の構造が理解でき有用である. 同時に次のステップへの橋渡しとなる.

各章について

4 章: configure や Makefile の自動作成やそのためのファイルの書き方について, 順を追ってわかりやすく説明している. オプション, マクロについてはややリファレンス的な要素がある.

5 章: 基礎的な GNOME のアプリのコンパイル方法であるが, 順序が 4 章と逆ではないだろうか.

後半 10 章以降は高度な機構の解説となっているので, とりあえずはそれまでの内容をマスターしてから時間をかけて読みたい. 今回のレビューでは実力の範囲外として除かせて頂く. ただ 10 章のアプレットと 14 章のグラフィックスは取っつきやすい内容になっており, GDK も触ったことがあるので順次チャレンジしてみたい.

15 章: ヘルプの作成についてであるが, プログラムをたくさんの人に広めるという考えから見ると, 10 章の前に配置した方が良い.

デザインと価格について

記述について, 現状でも問題はないが, もう少し漢字を増やしても良いと思う. また, 表紙のデザインは非常にセンスが良いと感じた.

価格は 3,000 円台に抑えて欲しいところだ. ただ, GNOME への移行を本気に考えているのならば決して損はしないだろう.

おわりに

この本は中, 上級プログラマが GNOME 環境へ移行する為の有用な手引書である. 自分がまだ UNIX のプログラミング環境に習熟していない, と感じるのであれば手を出さない方が良い. しかし, ある程度のプログラミングを経験し, 次のステップをめざしたい方には是非お勧めしたい. 様々な統一性を生み出す GNOME のコンセプトは称賛すべきであり, それを本格的に解説した国内最初の参考書をコーディング力のある多くのプログラマに読んでいただきたい.


Reviewed by 山中 賢史 (yamanaka@exassia.tmit.ac.jp) さん

「GNOMEプログラミング入門者に十分なポインタを与えてくれる本」

Linux の使用歴
3 年半
UNIX の使用歴
Linux のみ
Linux Box の主な用途
Mail, WEB 等各種 Server
Office 以外の日常作業
数値計算
Linux 以外に利用している OS
Windows2000
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
7 : 3

始めに

本のサブタイトルにあるように 「GNOME アプリケーション開発の基礎」を広範囲に渡って教えてくれる本だと思います. タイムリーに最新版の GNOME1.4 を対象としているのが学習意欲をそそると思います.
 内容についても基本的なアプリケーションの作り方から OAF のような高度な話題までカバーしており読んでいて退屈はしません. C や C++ を知っていて GNOME アプリを作りたい方, GTK+ は使えるけど OAF, Bonobo などについて 何処から手を着けたら良いか分からない方には適切な本だと思います.

良い点

前述しましたが, 話題が豊富なことが良いと思います. 入門書はともすると退屈な内容で終わりがちですが, この本では高度な話題にも触れているので刺激が得られると思います. また不十分な内容については適切な情報源を示してくれていることも好感を持てます.
 そして GNOME プログラミングを行う上でライブラリに付いての説明のみでなく, プログラミングツールに付いても簡単な使い方を示していることが 入門者にとって嬉しいのではないでしょうか.
 また著者が日本人であり, 翻訳本などにある意味の分かりにくい日本語が少ない点, 日本人が書いた故の読みやすさがあります. 各章の構成についても初めの数章で GNOME の歴史や GNOME についての説明をして GNOME アプリケーションの全体像を示して, 続いてツールの解説へと進み, 後半に深い内容へと進んで行くので非常に読みやすいと感じました.

気になる点

話題が豊富な事は良いのですが, それぞれの章の内容がやや薄く感じます. 発展途上の GNOME なので特に新機能についてドキュメントが少ないのは分かりますが, もう少し詳しい説明が欲しいと感じました. もっともこの事については情報源を示すことでカバーしているとも言えますが.
 次に感じた点として, この本で基礎を学んだプログラマーは きっと自分で色々な GNOME の機能を試したいと考えると思います (と言うか僕がそうです). その時には本をリファレンスとして使うことが多いと思うのですが, この本には付録として GLIB と GTK+ の簡易 API リファレンスが載っている程度です. この本と長く付き合うためには gnome-libs のリファレンスが付いていても良かったと思います.

値段相応の価値はあるか?

この本の値段の絶対値は決して安くはありません. 4,200 円ですから参考書としては普通かもしれませんが, 一か八かで買う気にはなれない値段です. 私の場合はお金を出して買っても良いなと思えました. ただそれは人それぞれで, 本格的な GNOME アプリを書きたい入門者の方には文句無くお勧めできると思います. ただし全部を読み通すにはそれなりの時間と体力が必要だった事を付け加えておきます.

終わりに

この本のみで本格的な GNOME プログラミングを全てマスターすることは当然出来ないと思います. しかし基礎さえ覚えれば後は楽な場合が多いので, その為の足がかりにするには適切な本だと思います.
 C を使える方ならこの本と後は autoconf, automake のマニュアル, GTK+ のマニュアル等があれば オフラインの GNOME プログラミング資料が整うのではないでしょうか.
 また要望として出版社様には是非この本の続編として GNOME2.0 プログラミングや gnome-libs のリファレンスマニュアルを出版していただきたいなと思います.


Reviewed by 恒川 直久 (naohisat@ff.freeserve.ne.jp) さん

「日曜大工からプロジェクトのお供まで, この一冊でどうぞ.」

Linux の使用歴
4 年
UNIX の使用歴
7 年
Linux Box の主な用途
通信 等
Linux 以外に利用している OS
Windows 2000
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
Linux : Windows 2000 = 2 : 8

対象読者と前提知識について

タイトルにもありますが, この本はあくまでアプリケーション開発者向けの構成・内容になっています. この本からプログラミングを始めたい, という人には向かないでしょう. ただし 1 章に掲載された大量の参考文献の内容を全て前提として理解する必要はありません. 最低限の知識は各章の冒頭部分で紹介されますし, サンプルを動かす程度なら本書を読むだけでも可能になるでしょう. 逆に Gtk+ に関する知識は大いに役立つはずですし, 後半の内容は Microsoft の OLE に慣れた読者ならば類比が効いてより楽しめるかもしれません.

スタイルについて

プログラミング解説書としてはオーソドックスなスタイルで書かれており, 関数の機能, 引数, サンプルコード, 動作イメージを順に紹介されていきます. 要所で「陥りやすいわな」についての解説もあって好感が持てます. サンプルコードは本文中で該当する部分しか掲載されていないのでやや雑な印象も受けますが, 付属の CD-ROM には各章ごとに完全に動作するものが Makefile つきで掲載されており心配はいりません. 欲を言えば本文と CD-ROM がもう少し連携がとれている (サンプルコードでの位置を示すなど) と もっと良かったと感じました.

個人的な感想

一般にこの種類の本の「読みこなし加減」には

の 3 レベルがあると思います. 残念ながら今回は時間がとれず (1) までしか読みこなせませんでしたが, ぜひ時間をとっていろいろコーディング (私個人は日曜大工程度ですが) を試してみたいと思わせる仕上がりになっており, この 4,200 円は全く高く感じません.

個人的には第 4 章「autoconf, automake を使ったソースツリーの管理」が, 多言語対応を含めたアプリケーションの構築についてうまくまとめてあり, 特に参考になりました.

おわりに

GNOME がホットな話題になってから久しいのに, デスクトップ環境の解説に比べて肝心のプログラミングに関する書籍は今までほとんどありませんでした. 本書はそのすき間を埋めるのに好適と言えるでしょう. もちろん, この一冊で全てのニーズを満たすというわけにはいきません. 個人的には Python あたりから気軽に GNOME を使ってみたいのですが, 実装が安定して書籍が出るまでにはまだまだ時間がかかるのでしょうか…

最後になりましたが今回レビューの機会を与えてくださった関係者の方々にお礼を申し上げます. また〆切を超過してしまいご迷惑をかけたことをお詫びします.


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