KNOPPIXではじめよう! かんたん体験Linux

KNOPPIXではじめよう! かんたん体験Linux レビュー記事

[ ブックレビューコーナー 目次 ]

ソシム株式会社 様のご厚意により, 書籍 "KNOPPIXではじめよう! かんたん体験Linux" を ブックレビューコーナー にご献本いただきました. この本のレビューをして頂くべく, Linux Users ML や本サイトにおいて 公募 を行い, これにご希望頂いた方々より感想などをレビュー記事にまとめていただきました.

ここに, レビューアの方々から寄せられたレビュー記事を公開します. (原稿到着順)

ソシム様および レビューアの皆様のご厚意に感謝いたします.

なお, 以下のレビューは初版を対象としています.


Reviewed by 松本 光春 (info@mm-labo.com) さん (HomePage)

「Linux に触れたことのないユーザのための Linux 体験用書籍」

Linux の使用歴
5 年
UNIX の使用歴
5 年
Linux Box の主な用途
www サーバ, mail サーバ, ルータなど
Linux 以外に利用している OS
Windows 2000, Windows XP
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
2:8

総評

本書は CD から起動可能な debian ベースの Linux ディストリビューションである KNOPPIX に関する初心者向けの解説書です.

KNOPPIX という CD からすぐに使える初心者に優しい Linux ディストリビューションを利用することで, Linux というものがどういうものかを読者に体感してもらうことが本書の主眼であると思われます.

例えば, Linux にぜんぜん触れたことがなくて, どんなものか触るだけ触ってみようと思う人. 或いは, 他のディストリビューションのインストールを試みたけれど, とっつきにくかった人. など, Linux にまったく触れたことがないか, それに近い人が想定する読者になるでしょう. このような主眼から, 本書に記述されている内容は Linux に必要な知識のうち, ごく基本的な部分にとどまっています.

したがって, ある程度 Linux を利用したことのある人にとっては, 本書の説明によって得られる利点はあまりないかもしれません. また, 文中にときどきしゃべりことばが混じるのがやや気になりました.

それぞれの章を読みながらメモしていった簡単な感想を以下に示していきますので, 参考になれば幸いです.

1 章

KNOPPIX の起動方法に関する説明です. 起動方法, シャットダウンの方法, 考えられるトラブルに対する対策などが記述されています. KNOPPIX は CD ベースのディストリビューションであり HDD へのインストールの必要がないため, 内容はとても簡潔なものです. 上記の記述を元に, ThinkPad X20 で試した限りでは, 問題なく起動しました.

2 章

KNOPPIX に収録されている GUI アプリケーションに関する説明です. KNOPPIX に備え付けられている GUI アプリケーションを取り上げ, 実際に触ってもらうという意図で書かれているようです. Windows を利用しているユーザが, Linux に移行したとき, 違和感を覚えないようにという意識で書かれたものだと思われます. 取り上げているアプリケーションは, OpenOffice, 各種ゲームなど多岐にわたりますが, それぞれの説明はページ数の関係からか, それほど多くはありません. KNOPPIX にはどんなアプリケーションが含まれているかを おおまかに示すアプリケーションの紹介の章であると考えた方がよいでしょう.

3 章

Linux に関する基本的な説明です. ランレベルやファイル構成, パーミッションなどといった Linux ならではの概念の説明, 主要な Linux コマンドの使い方などが記述されています. 「CD, HDD へのアクセス方法→そのディレクトリ構成→絶対パスと相対パス→ファイルの種類→ユーザの種類」のように, KNOPPIX に触っていく過程で必要となる知識をその都度付加していくという形を意識して書かれているようです. GUI を利用しながら Linux に最低限必要となる知識に簡単に触れていく. という路線のようなのですが, たまに Windows についてはかなり詳しい人を想定したような書き方をしているのがやや気になりました.

4 章

Linux の歴史やその特徴に関する記述です. Linux にどのような特徴があり, どのような場面で使われているのか, などの記述があります. 他の Linux 関連書籍を読んでいれば恐らく既に見慣れた記述内容になると思いますが, 本書は初心者向けの本であるので, この部分を外すことはできないでしょう.

5 章

KNOPPIX を HDD にインストールする方法や KNOPPIX 以外のディストリビューションの紹介をしています. このあたりの記述からも, 本書が Linux を本格的に使うのではなく, まず軽く触ってみるという意図で書かれたものであることを感じました.

終わりに

普段は, Redhat や Vine Linux などの Redhat 系のディストリビューションを利用しているため, debian ベースのディストリビューションに触れる機会がありませんでした. また, CD ベースのディストリビューションにも前々から興味を持っており, どこまでのことができるのか知りたいと考えていました. 今回, KNOPPIX というディストリビューションに興味を持ったのもそこに理由があります.

しかし, 既に記述したように本書は Linux 初心者に向けての内容になっています. そのため, 例えば, debian ならではの情報や CD ベースのディストリビューションだからこそできる内容 というものはほとんどなく少し残念でした. (しかし, それは本書の意図と違うものですので, 本書のせいではありません.) 本書を読み, 実際に使ってみた限り, KNOPPIX は Linux に一度触れてみたいという初心者が体験的に用いるには, かなり使いやすいディストリビューションであると感じました.

筆者は現時点である程度 Linux を利用しており, Linux をまったく知らないユーザではありません. そのため, 厳密な意味で初心者の視点というものを維持することができていないと思います. 書評を読まれる際にはその辺りも勘案してお読みください.

以上, ご参考になれば幸いです.


Reviewed by 板倉 延弘 (no-it@no-it.net) さん

「一般的な入門書とは違うが中途半端な感じを否めない」

Linux の使用歴
4 年 (RedHat 系 2 年, Debian 系 2 年)
UNIX の使用歴
3 年 (大学の研究室で使っていた. Linux 含まず)
Linux Box の主な用途
ファイルサーバ, デスクトップ, 開発
Linux 以外に利用している OS
Windows2000
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
1:9

第一印象

実は KNOPPIX は, 自宅マシンの HDD にインストールして実際に使用している. バージョンが 3.1 のころから (この当時は CD-ROM からの直接起動で楽しんでいた) 使用していて, 今は 3.3 をインストールしている. 今回, 幸いにもレビューアに当選したので, 使用当初疑問に思っていたことや, Windows から移行するユーザの目で見てみようと思った.

最初に流し読みで全体の構成を見てみた. 特徴としては, 他の入門本がインストール本と化しているのに対して (当然ではあるが), パーティションやインストールに関する記述は極端に少なくなっている. そういう意味では, 既存の入門本に読み飽きた人にはいいイントロダクションであると思う.

KNOPPIX の特徴として, CD-ROM からの読み込みの遅さ, というものがある. そのため私は HDD にインストールして使用しているのであるが, その HDD インストールの方法も記述されており, なかなか親切だと思った.

Windows との対比も多く記載されており, 第一印象としてはなかなかの高得点であると思う.

本書の特徴

私が使用当初に困った点としては, Ctrl キーと CAPS LOCK キーの入れ替え (これはコントロールセンターから簡単にできる) の設定を保存しておく, ということであった. 今となっては「なんでこんなことに悩んだのか」ということなのであるが, 当時は情報も少なく難儀した. 本書ではその点について図解入りで説明されているので, かなりわかりやすかった.

次に私が困っていたのは, インターネット接続であった. 今は DHCP 機能を搭載したルータに変更したので問題ないが, 当時は DHCP 機能のないルータを使用していたため, 固定 IP を振らなければいけなかった. これを毎回設定ファイルから書き直していたのであるが, GUI で IP 設定ができる, というのを本書を読んで知った.

Windows ドライブのマウントについても, NTFS に書き込みができない, というのを自分は体験から学んでしまったが, その点の注意点も記述されており, 有意義であった.

多くの項目について, Windows との比較が出ており, Windows ユーザの移行を狙っているように感じた. そして, その書き方がわかりやすいので, そういう意味では, Linux 初学者が躓きやすい観点についてよくまとめられていると思う.

気になった点

Linux 本というと, 必ず CUI のコマンドを説明する章が設けられており, 大体が中途半端に終わってしまっている, というパターンである. この本もその例に漏れず, コマンドの説明がかなり中途半端な印象を持った. 基本的なコマンドのほかに, リダイレクト, 履歴, パイプ等も説明していたが, 本当に紹介のみで, 多くの Windows ユーザは「果たして使う必要があるのか」という印象を持つのではないだろうか. この点に力を入れず, もう少し第 2 章「せっかく起動したのだから、ちょっとさわってみよう」と, KNOPPIX を使った Samba やバックアップについてページを割いてもよかったのではないだろうか. そうすれば, レスキューディスクとしての KNOPPIX, ということで本書の価値があがると感じた.

KNOPPIX というディストリビューション (という表現が的確かどうかはわからないが) は Debian ベースということもあり, 一般的な RedHat 系にそのまま移行できるわけではない. そのため, この本ではディストリビューションに依存した説明はほとんどされていない. そういう意味では, 非常に中途半端な書き方で終わってしまっているところが残念だ.

せっかく Debian ベースなので, HDD インストールの項に apt-get について触れて欲しかった. 私はこの apt で Debian の魅力を知ったので, この部分がなかったことには不満が残る.

第 4 章に「Linux の長所と短所/歴史と現状」という項があり, こちらは読み物として結構面白かった. こちらを最初の方に回してもよかったのではないだろうか.

巻末の用語集についても, こういったものが Linux 本についている例はあまり見たことがないし, 内容としてもなかなか初心者向けのいい構成だと思う.

想定される対象

この本は, Windows ユーザにこの本から「KNOPPIX で Linux のさわりを!」という企画の本である. 一般的な Linux 本のようにサーバ構築にページを割くようなことはせず, クライアント機としての使用方法に力を入れようとしているので, Windows ユーザには非常に読みやすいのではないか, と思う. ただ, Windows ユーザに Linux の体験以上のものを与えられていないような感じがする.

総評

全体としてはよくまとまっていると思うが, チュートリアルとして使えるわけでもないし, かといって他の入門書ほど親切なわけでもない. ということで, 対象を絞りきれなかったために中途半端に終わってしまった書, というイメージだ. 取り扱っているものが面白い素材なだけに, 非常に残念だ.


Reviewed by 中妻 穣太 (johta@ad.il24.net) さん (HomePage)

「平凡な内容, 競合書との差別化が望まれる」

Linux の使用歴
4 年
UNIX の使用歴
4 年
Linux Box の主な用途
ルータ, ファイアウォール, Web サーバ, デスクトップ
Linux 以外に利用している OS
Windows 2000, Solaris
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
4 : 6

1. 動機

私は All About Japan にて, 「インターネットセキュリティ」 ガイドサイトを運営しております. そこにおける活動のひとつの軸として, デスクトップ用途の「OS 乗り換え」を推進しています. Windows 一色のモノカルチャー状態においては, 「Windows でない」というだけでウィルス感染の可能性は激減すると思われるためです.

1CD Linux という特徴を持つ KNOPPIX を視野に置いたとき, Windows からの OS 乗り換えを志す初心者ユーザにとって本書が有用であるかどうかという視点によって, 評価を行いたいと思います.

2. 競合書との比較

2003/11/16 現在, KNOPPIX の日本語書籍は 3 冊あると見受けられます. 本書と, 『KNOPPIX で Linux を使いこなそう』(ディー・アート), 『KNOPPIX ではじめる Linux 入門』(秀和システム) です.

収録されているバージョンはいずれも 3.2 日本語版と差はありませんので, 内容の勝負となります. 『KNOPPIX で Linux を使いこなそう』では, 各種サーバ用途に数章が割かれています. Linux に興味を持つ動機としてサーバ用途はやはり大きいと思われますので, 妥当な編集方針だと思います. また『KNOPPIX ではじめる Linux 入門』は, OpenOffice や GIMP などのアプリケーションの使いこなしにかなりの力点を置いています.

それら 2 冊と比較すると, 本書は特色が今ひとつ見えません. さらに, どうにも明確な編集方針を感じることができないのです.

たとえば, ゲームや OpenOffice の紹介をした直後に, なぜ RAM ディスクやスワップファイルの説明をしなければならないのでしょうか. NTFS パーティションのみの Win ユーザにとっては混乱を招くだけだと思われます (Linux で NTFS パーティション に書き込むことができない旨が記述されているのは, そこから 10 ページほど後です. こことスワップファイル作成法を関連づけて読むことはまず無理でしょう).

パーティションそのものについての説明も用語辞典にしかなく, 今まで Windows だけ使ってきてパーティションというものを意識したことがない人にとって理解しやすいとは思われず, 多くの初心者は第 3 章で止まってしまうのではないかと危惧されます.

他にも, 「マウント」や「スーパーユーザー (root)」といった, Windows しか知らない人にとっては初耳のはずの用語が突然飛び出てきます (やはり説明が後になって出てくる). 誰のための本なのかという "意図" がつかめません.

「Linux の長所と短所/歴史と現状」の章は他書に該当するものがありませんが, Linux を使ってみたい, 使いこなしたいと思う人々にとって必須の情報かどうかは疑わしく思われます.

3. 各種雑感

4. 総括〜 KNOPPIX の「おまけ」から脱するために〜

結論としましては, 残念ながら競合書と比べてお勧めできる内容ではないということになります. 改訂版を出すのであれば, 明確な差別化を図る必要があるでしょう. 現在 KNOPPIX 本は初心者を対象としたものしかないので, 徹底的にディープな KNOPPIX 本を作れば差別化ができるかもしれません.


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