オープンソースを理解する

オープンソースを理解する レビュー記事

[ ブックレビューコーナー 目次 ]

株式会社ディー・アート 様のご厚意により, 書籍 "オープンソースを理解する" を ブックレビューコーナー にご献本いただきました. この本のレビューをして頂くべく, Linux Users ML や本サイトにおいて 公募 を行い, これにご希望頂いた方々より感想などをレビュー記事にまとめていただきました.

ここに, レビューアの方々から寄せられたレビュー記事を公開します. (原稿到着順)

ディー・アート 様および レビューアの皆様のご厚意に感謝いたします.

なお, 以下のレビューは初版を対象としています.


Reviewed by 飯尾淳 (iiojun@mri.co.jp) さん

「オープンソースにまつわる誤解を解くための一冊」

Linux の使用歴
5 年
UNIX の使用歴
10 年
Linux Box の主な用途
デスクトップ
Linux 以外に利用している OS
Windows, Solaris など
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
9:1

総評

オープンソースに関わる人間が, 周囲, 例えば上司や経営者などからの理解を得るために「まずはこれ読んでみて」と最初に薦める本として適しているだろう. オープンソースとは何か, なぜ最近注目を浴びるようになってきているのか, 実例としてどのようなものがあるか, オープンソースが抱えている問題点は何か, といった話題について, 非常に分かりやすく, かつ適切にまとめられている.

内容

まず冒頭で, 本書では「オープンソース」という言葉を OSI (Open Source Initiative) の定義するところの意味での「オープンソース」に限定して使用する, といった宣言をしている点が明確でよい.

続いてオープンソースの概要と歴史を振り返る. その際に, 2 章でソフトウェアの知的財産権に一章を割いていて, 背景となる知識を事前に説明している点もよい. そしてオープンソースの軌跡と称して, フリーソフトウェア運動からオープンソースソフトウェアの成立過程を解説している. ただしその記述において「フリーソフトウェアは一般に普及せず, ビジネスとしては成功しなかった. そのため, ビジネスを踏まえて提案されたオープンソースが台頭してきた」 といったシナリオが提示されていることに関しては, やや違和感を覚える.

日本のオープンソース / フリーソフト関係者を対象とした FLOSS-JP 調査では, 回答者の半数弱がオープンソース派で, 全体の 1/4 がフリーソフト派, といったところだった. 私の感覚でも「オープンソース全盛でフリーソフトウェアは衰退の一途」などという認識は無い. しかしまだ世間一般では「フリーソフトウェアはいまいち使えなくて, やはりオープンソースだよね」との認識なのだろうか? たしかに, GPL というだけで企業から敬遠される, という状況をしばしば耳にすることもあるが.

また, オープンソースの現状を紹介する章では, 「サーバでは広く浸透しているがクライアントアプリケーションはこれから」という現時点ではごく一般的な立場で解説が記載されている. しかし本書に限らないことだが, これらの解説において, 以前から UNIX ワークステーションを EWS としてデスクトップで使ってきた研究者や開発者などの層に対する言及がほとんど見受けられないのはどういうことだろう. 実際, 現役オープンソースソフトウェア開発者のつもりの私はそういう使い方を今でも続けているし, 少なからぬエンジニアがそのような使い方をしてきたのではないだろうか. この点は以前から疑問に感じてきたことのひとつである.

全体を通して, 平易に解説しようとするあまりにか一部に適切とは言い難いデフォルメが見受けられるものの, 「フリーソフトウェアやオープンソースソフトウェアの考え方の根底にあるのはソフトウェア技術の発展である」ということを正しく伝えようとしている本書の姿勢は高く評価できる.

その他の雑感

装丁は丁寧であり, 表紙のデザインもシンプルで好印象である. 誤植もほとんどなく, 読み易さについてかなりの配慮が感じられて好感を持てた.

ところで, おそらく著者はオープンソースソフトウェアの開発者ではないと思われる (もしそうだとしたら私の読解力不足である, すみません). そのため開発者自身による迫力のある解説となっていない点がやや惜しまれる. もちろん網羅的な解説書としての意義は十分に認めるところである.

ともあれ「オープンソースってなに?」という人に渡す最初の入門書としては, 良書といえるだろう.


Reviewed by 松田陽一 (yoh@flcl.org) さん

「オープンソース世界をオープンソース世界の外からビジネス的な視点で観察し説明している, 貴重な存在」

Linux の使用歴
8 年
UNIX の使用歴
0 年
Linux Box の主な用途
メイル, 文書作成, 職場内 LAN 上の部門サーバ, irc, web 閲覧, 音楽鑑賞他
Linux 以外に利用している OS
Windows2000/Windows98
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
8 : 2

1. はじめに

過去, このブックレビューの俎上に載せられた書籍はその殆どがソフトウェアの使い方等を説明する技術書であっただろうが, 本書はそれらとは大きく趣が異なる. 本書の「はじめに」の冒頭にオープンソースに纏わる様々な疑問点が列挙された後, こう記される.

本書は, オープンソースを考える時に出合う, このような数々の疑問を解消し, オープンソースとの正しい付き合い方を知っていただくための本です. 近頃, 新聞や雑誌で頻繁に見掛けるようになった「オープンソース」という言葉の意味を知りたい方から, 実際にオープンソースを社内のコンピュータシステムに導入しようかどうか迷ったり, オープンソースを上手に利用する方法を探っている方まで, 「オープンソースとは何かを知りたい」と思っていらっしゃる方すべてを対象として説明しています.

読者対象を随分欲張りに広げているが, 「オープンソース」という言葉の意味を知りたいだけの人が, 1,800 円も出して本を買うとは思い難い. やはりメインターゲットは「実際にオープンソースを社内のコンピュータシステムに導入しようかどうか迷ったり」している人や, 「オープンソースを上手に利用する方法を探っている」人, それも「オープンソースを『商売で』上手に利用する方法を探っている」人を対象としている. これは本書を最後まで読んでようやく分かったことなのだが.

2. 気が付いた点

最初に基礎知識として「オープンソースに無償の概念はない」「ソースコードとバイナリコード」「ソースコードを公開する必要性」が, やや冗長な気もしなくもないが, しっかり解説されている. ただ, 業務の必要性にさいなまれて仕方なく読まざるを得ない人にとって, この程度の知識は持っていて当然ではないだろうか. この辺りの説明はマスコミのような人達をターゲットにしているのであろうか.

しかし, 次にいきなり前知識もなしにオープンソースの定義を列挙し, そしてその知的所有権の説明を書き出し, 更にはフリーソフトウェアと PDS の定義を事前説明もなしに列挙するのは如何なものか. それらの後に第 3 章でようやく歴史を書いている. 本来なら逆ではないか. これらソフトウェアの作者達が主張する呼称とライセンスの意味や由来は, ソフトウェアの歴史を抜きにしては語れないと考える. 例えば, 巻末に歴史年表形式でソフトウェアに関する様々な事件を列挙すべきではないか. 更に, 歴史の紹介の中に PDS の説明が抜けており, PDSという定義が何故忌み嫌われるようになったのかの説明がないので, 読者に「何故 PDS という定義をするソフトウェアが存在しないのか」という疑問に対する答えが明確に提示されていない.

ソフトウェア著作権に関する事件の紹介がされているのは大変良いのだが, その詳細に関して巻末に事件番号, 事件の名称, 判決の年月日等の情報, 更に参考文献や参照 web サイト等の URI の紹介がある方が良いのではないか. この本を契機として更に知識を深めたり真偽を明らかにしたいと思う読者の為にも, 情報ポインタの提示が必要であると考える.

このように, 特許制度はソフトウェアのアイディア保護のために利用するには最適ではありますが, 問題点も指摘されています. 現在の制度では, 出願中の特許は公開されていません.

これは間違い. 今や米国も 2 ヶ国以上の出願を対象に出願公開制度を採用しているので, 一部例外を除いて主要国では通常出願であれば出願から 18 ヵ月, PCT 出願であれば優先日から 18 ヵ月を経過すれば, 公開公報が発行され, 公衆閲覧が可能になる. また, 米国における 1995 年 6 月 8 日以降の特許出願は, 特許の有効期間満了日が出願日から 20 年に制限された. 米国特許制度の特異性を現す代表例であるサブマリン特許は, 一部を除いて昔話になろうとしている.

「その他のオープンソースソフトウェア」の紹介で, X Window (原文ママ: 正しくは "X Window System", "X", "X11"), GNOME, KDE, OpenSSL, OpenSSH, iptables が列挙されている.

UNIX 系のウィンドウソフトウェアのデファクトスタンダードである X Window

と記されているが, 普通「ウィンドウソフトウェア」とは言わないだろう. 「ウィンドウシステム」とか, 「GUI (グラフィカルユーザインターフェース) 環境」とか, もっと一般的な名称を使うべきではないか.

セキュリティ関係として OpenSSL, OpenSSH と同列にセキュリティに関するオープンソースソフトウェアとして,

ファイアウォールソフトウェアである iptables

と紹介されているが, この説明は正確ではない. iptables は, Linux カーネルに装備されている機能のうちの一つ, netfilter によって実現されるパケットフィルタリング機能を操作する為のツールであり, パケットフィルタそのものはカーネルの機能である. したがって, iptables そのものはファイアウォールソフトウェアとは言えない. 例えば「パケットフィルタ設定ツール」とでも呼ぶのがより近いのではないだろうか.

ソフトウェアが直接的または間接的に何らかの特許を侵害していて, 特許権者との合意ができていない場合, ライセンスは失効します. また, 改変版が, 直接的または間接的に何らかの特許を侵害している場合には, 過去にさかのぼって有効性が取り消されます.

ライセンスが失効することによって具体的にどうなるのか, 有効性が取り消されるとどうなるのか, 明確な説明がない. 例えば, ライセンスとは二者間の取り決めでしかなく, 片や著作権と特許権は国家が保証する権利である, したがって国家の権利によってライセンスが失効し, 当該ソフトウェアは利用できなくなるだけでなく, 当該ソフトウェアを利用することによって生じた損害を賠償する責任が発生する可能性もある, 等というような説明が必要ではないだろうか.

特許権には, 誰でも考案できるものが特許になっている問題や, 調べても調べつくせない問題があります.

これも不正確な記述であり, 誤解を増殖し兼ねない. 必ずしも「誰でも発明できるもの」が特許になる訳ではない. 審査のミスもあれば, マスコミや第三者の主観でしかない場合もある. 特許登録された時点では「誰もが考え付くこと」と言われるが, 当該特許の出願当時には誰もそのような特許を出願することを思い付かなかった, というケースが該当する. また, 米国と欧州と日本では各々特許の定義から異なり, 審査基準も異なる. したがって一部で見受けられる, 例えば米国特許の一部の問題を挙げて特許制度全体を批判するような論調は好ましくなく, 上記文章はこれを増長し兼ねないと危惧する.

最後の第 6 章には「商用ソフトウェアのオープン化」で, 商用ソフトウェアをオープンソース化する目的, それに伴い生じるであろう課題等が列挙されている. それだけでなく, 「日本におけるオープンソースに関する税制」まで調べられている. 更に, 「オープンソースソフトウェアをベースとする商用ソフトウェアの開発方法」まで説明されている. このような用途を想定して説明している文書を, 私は今まで見たことがない.

3. 読み終えてみて

一通り読み終って考えた.

この本のタイトルは「オープンソースを理解する」であるが, 学術的な見地で理解することを意図していないことはわかった. この本の中心は第 5 章の「オープンソースの現状」と第 6 章の「オープンソースの課題」であると思う. そして, これらを説明する視点はオープンソース世界の外の人のものであり, 特にビジネス上でオープンソースを利用したりオープンソースを商売として扱う際に必要となる情報を中心に, 判断材料の提供として冷静な状況説明がなされている. その中で, オープンソースの長所だけでなく, 欠点をもわかりやすく明示している.

つまり, この本はオープンソース世界をオープンソース世界の外からビジネス的な視点で観察し説明している, 数少ない本なのだ.

実は, この本を読み進めて, 第 3 章でかなり不満が鬱積し, 読むのが辛くなってきたのだが, 第 6 章の辺りから印象が急に変わり, 改めて読み返した. この本は, 淡々と現状説明をするだけで良いのだ, と思った. オープンソース万歳というような論調の書籍もあり, 半ば宗教めいた雰囲気もあるオープンソース世界において, 実は外からはこのように見られている, ということがわかることは貴重であり, この点だけでもこの本の存在意義は大きいと考える. また, 各章は後から部分的に摘み食いして参照するには適切な書き方になっていることが, 後からわかってきた.

4. 結論と提案

本書は, 仕事でオープンソースを使おうと考える人だけでなく, オープンソースで商売をしようと考える人にも, 適切な判断材料としてオープンソース世界の様々な実態を説明している. また, オープンソース世界を論じようとする人にとって, 一度は目を通して損のない本であると考える.

但し, 随所に不正確な記述や読み難い箇所があり, 更なる改善が必要であると感じた.

本書がより良くなる為に, 僭越ながら以下を提案する:


Reviewed by 山縣 庸 (isao_yamagata@yahoo.co.jp) さん

「オープンソースと仲良くなれます.」

Linux の使用歴
8 年
UNIX の使用歴
14 年
Linux Box の主な用途
普段の端末, 開発・検証マシン (Web サーバ, Mail サーバ, など)
お客様案件マシン (Web サーバ, Mail サーバ, Proxy サーバ, など)
Linux 以外に利用している OS
Solaris, HP-UX, Windows 2000
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
2:8

はじめに

いつごろからオープンソースという言葉が使われるようになったのでしょうか? 「オープン」という言葉を素直にとると「開かれた」という意味合いが強いですが, 実は, オープンソースには定義された条件があります. それを理解することで, オープンソースをもっと有効利用できることになるでしょう.

感想

本書でも真っ先に取り上げているように Linux は, オープンソースの良い例です. 最近, RedHat は, 無償配布のディストリビューションを止め全面的にサポート付き有償販売に切り替えました. これは, 本書で言っている『オープンソースは「無償」ではありません』ということを良くあらわしていると思います.

皆さんがふだん何気なく使用しているソフトウェアには, フリーソフトウェアやシェアウェア, 商用ソフトなどいろいろあり, それぞれの作成者や配布元によりライセンスされております. しかしながら, 厳密にそのライセンス内容を確認しないで使用していたり, 再配布不可能なものを再配布したりしていないでしょうか? 本書では, これらのソフトウェアのライセンスの違いについてきちんと分類し, 取り扱いについても説明してくれます. これによって, オープンソースを理解する上で必要なソフトウェアに関する権利と分類についてだけでなく, ソフトウェアの権利の歴史についても理解できることでしょう.

われわれが良く使用するソフトウェアの中には, Linux 以外にも有名なソフトウェアがいくつもあります. その中のひとつが GNU ソフトウェアです. GNU というのは, かの有名なリチャード・ストールマン氏によって宣言されたフリーソフトウェアのプロジェクトです. GNU プロジェクトから配布されるソフトウェアは, GNU GPL というライセンスに則って配布されます. では, オープンソースソフトウェアと GNU ソフトウェアの関係はどういうものなのでしょうか? また, 皆さんはパブリックドメインソフトウェアをご存知でしょうか? パブリックドメインソフトウェアとオープンソースソフトウェア, はたまた, GNU ソフトウェアとの関係は? 本書では, これらのことが, きちんと比較して解説されていますので 「オープンソースなんて知ってるよ」という方も是非もう一度読んでみては如何でしょうか? また, 現在数々出回っているソフトウェアは, これ以外にも独自のライセンス形態を取っているものがあります.

本書は, オープンソースソフトウェアの現状と今後の課題に関しても取り上げ, 整理しています. 本書をよく読みオープンソースソフトウェアを有効活用するとともに, 皆さん自身の手でソフトウェアを開発して配布してみては如何でしょうか?

総評

とてもわかりやすく解説してあり, プログラマでなくても理解できる内容になっていると感じました. また, 普段避けてしまうようなライセンスに関わる権利問題についても触れており, 今後, オープンソースソフトウェアを活用する上で役立つ一冊となることと思います. 残念なことは, 若干繰り返しが多いことと, qmail に代表する DJB ソフトウェアのライセンスに関して触れていないことです. 個人的に興味があったので, 残念です. 今後の動向を見守りつつ, 次版が出版されることを期待しております.

謝辞

今回, この Bookreview の機会を与えて頂いた, 株式会社ディー・アート樣, および, www.linux.or.jp Webmasters Bookreview 担当の方々には, 大変感謝しております. また, このようなすばらしい本を書き上げた著者の方に対して敬意を払いたいと思います. 本当にありがとうございました.


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