日経 Linux

日経 BP パソコンベストムック「Linux ビジネス活用のすべて」 レビュー記事

[ ブックレビューコーナー 目次 ]

日経 BP 社 様のご厚意により, 書籍 "日経 BP パソコンベストムック 「Linux ビジネス活用のすべて" を ブックレビューコーナー にご献本いただきました. この本のレビューをして頂くべく, Linux Users ML や本サイトにおいて公募を行い, これにご希望頂いた方々より感想などをレビュー記事にまとめていただきました.

ここに, レビューアの方々から寄せられたレビュー記事を公開します. (原稿到着順)

日経 BP 社 様および レビューアの皆様のご厚意に感謝いたします.

なお, 以下のレビューは初版を対象としています.


Reviewed by 濱田 吉郎 (hamada@nal.go.jp) さん

Linux の使用歴
4 年. とは言っても, 「新しいディストリビューションが出たらインストールしてみる」の繰り返しで, 余り腰を落ち付けて使うことがなく, インストールばかり手慣れてしまった…
UNIX の使用歴
7 年
Linux Box の主な用途
LaTeX 文書作成 (職場のマシン). PPP 接続 (自宅のマシン).
Linux Box に載っている Linux 以外の OS
Windows95
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
Linux : Windows : Mac OS : UNIX (Solaris) = 25 : 5 : 50 : 20
Mac OS は計算 (シミュレーション) 用, Windows は人から仕事が降ってきた時のみ, その他は Solaris.

はじめに -- 読んでいて「ワクワク」する本

今回この本を読んでみて感じたのは, ある種の「ワクワク」感である. 今まで LaTeX 文書作成, PPP 接続などでそこそこ Linux を使ってきたつもりだったが, どうもいま一つ「Linux を使えばこんな素晴らしいことができるっ!!」 というのが見えて来ず (もちろん LaTeX を扱えたり PPP 接続できるのも素晴らしいことだが), 何と言うか, Linux のありがたみを完全に実感できていた訳ではなかった. しかしこの本を読んでいくと,

等々, Linux の良さがかなりはっきりと見えてくる. これらのことは知識としていちおう知ってはいたが, 本書のように具体的な内容 (具体的な構築法・具体的な事例報告) で, かつ 250 ページという豊富な量でもって語られると, この説得力は相当なものである. 「そうかこんなこともできるんだよなあ」とワクワクしながら一気に読み進め, 読後には「よっしゃ俺ももっと仕事で Linux 使ってやるぞ!」 という意欲と内容充実の付録 CD-ROM が残った.

レヴューアの文才の無さと, 字数制限があることもあり (とは言っても結構オーバーしてます. すみません), このワクワク感がうまく伝わるかどうかわからないが, 以下に本書の内容を紹介していく.

内容の紹介と感想 -- 初心者にも, そうでない人にも

全体を通して読んでみると, 「入門」→「応用」→「事例報告」のような流れが読み取れる (実際の記事はこの順番に並んでいるわけではないが). この流れに沿って読んで (そして実践して) いけば, きっとインストールもままならない初心者でもスムーズに「Linux 活用の道」を歩むこと ができるだろう. だからと言って初心者以外には退屈な本, というわけではなく, 「サーバ構築・運用」といった記事や企業における Linux の活用事例なども豊富に紹介さ れており, ある程度のレヴェルにいる人にも楽しめるものとなっている. 以下では, ページ順ではなく上記の (レヴューアが感じた) 流れに沿って, 内容を紹介する.

入門:ディストリビューション選択とインストール

まずはディストリビューションの選択. というわけで, 本書では日本語 Linux ディストリビューションの代表的なものを簡単に紹介している. 「簡単に」とは言うものの, それぞれの特徴が良くまとめられており, これから Linux を導入しようという人には良い指針となりそうである.

そして「必ず成功する」インストールの秘訣. ここでは付録の Vine Linux 1.0beta1 を使用したインストール方法を紹介している. 確かに丁寧に書かれていて, これなら安心だなあとは思う. しかしここでのアプローチ「トラブルの起きにくいハードウェアを選択する」には, 何と言うか, 記事としてインストール方法を紹介する場合のアプローチとしては 「物足りなさ」を感じる. 確かにそれはインストールを成功させるアプローチの一つではあるのだが, 「Linux を導入しよう」という場合, 既にパソコン・ハードウェアが揃っていて, それにインストールしてみようと思うことが多いのではあるまいか. そう考えると, 「ハードウェア選び」から入るということは, 本記事の対象者をかなり絞ってしまうことになり, 「せっかくのお客さんが逃げちゃうよー」的なもったいなさを感じてしまった. まあしかし, こんな風に感じてしまうのは, 逆に言えば Vine のインストールが (ハードウェア関係のトラブルを除けば) 非常にスムーズにできるようになっているからであり, この「スムーズさ」は十分伝わってくる記事となっている.

応用:インストールしたんだからとりあえず使ってみましょう

ここでは定番フリーソフトである GIMP, Netscape Communicator と, 遠隔操作ソフト VNC を紹介している. 前二者は言うまでもないが, 特に VNC の紹介はありがたい. いくら Linux を使っていても, 周囲が Windows 使っている人ばかりでは, いろんな意味で Windows との共存を図らねば仕事もできない. Windows のデスクトップを Linux 上から操作することで, 大体の作業は Linux マシンだけでできるようになるだろう (もちろんそのための Windows サーバマシンが必要だが).

更に Linux 上のオフィス・アプリケーション, 特に Applixware の紹介と, TrueType フォントを扱うための X-TrueType (X-TT) Server のインストールについて. ここでもインストール方法は丁寧に示されており, 支障なく X-TT の導入が可能である. この二つの組み合わせで, Microsoft Office にも負けない環境が構築できそうである. Office 環境ができたら, 今度はサーバーとしても活用. 異機種混在環境でのファイル・サーバ構築法 (Samba, Netatalk など) が紹介されている. 職場で複数の OS を併用する場合, それらの間でのファイルのやり取りには何かと面倒が付きまとうものだが, ここに紹介されるようなファイルサーバを Linux 上で実現することで, かなりの面倒は解消されるだろう. この辺のビジネスユース向けの記事は, 非常に実用的でしかもわかりやすく, 痒いところに手が届いてる感じである.

これだけではない. やはり Linux の利点は「無いものを自分で作ってしまえる」こと. Tcl/Tk による GUI プログラミングの基礎についても, 本書はきっちり押さえている. 私も前々から GUI プログラミングをやってみたいとは思っていたのだが, なかなか一歩踏み出せる機会がなかった. やや駆け足での紹介にはなっているものの, 更に勉強したい方は参考文献をどうぞ…ということで, この記事は「はじめの一歩」としては申し分ないものだと思う. Linux での GUI プログラミングに興味はあるがやったことがない, という人は必読.

事例報告:こんなところで Linux 頑張ってます

今まで紹介した記事と若干毛色は違うが, 各ビジネスシーンにおいて Linux がどのような立場にあるのか, Linux がどのように活用されているかを紹介する記事も豊富である. 「タイタニック」の特撮を担当した Digital Domain 社が Linux を利用していた例や, MD オンデマンド録音・販売のシステムが Linux で成り立っている例などは, 身近の気付かない所で Linux が使われていることを教えてくれて興味深い. Linux に馴染みのない上司に対して Linux の利点を説明する際, このような例を持ち出すと大きな説得力を持ちそうである. また, ここで述べられているシステムの構成は, 自分で並列サーバ等を構築する際にも何らかの参考となることだろう (もちろん例にあるような大規模システムそのままを個人で作ることは余りないだろうが …).

まとめ -- 一家に一冊, 末長く使える本

以上, 主だった記事についてだけ述べてきたが, 他にも有用な記事が沢山掲載されている. また付録 CD-ROM も大変に充実しており, 本誌記事で取り上げられた殆どのツールを実際に使ってみることができる. Linux をどう使っていいかよくわからない人, ビジネスで使いたいのだが参考書に困っている人など (私は両方当てはまってます) には非常にマッチした本だと思う.

Linux ブームの昨今, 雑誌なども含め Linux 関連の本が巷に溢れ, やや「粗製乱造」状態の感がある. その中でも本書は「ビジネス活用」に内容を絞ったこともあり, 狙いのはっきりしたよくまとまった作りとなっている. 実は私はレヴュー応募時に 「今後残っていく本たり得るかという観点でもレヴューしてみたい」 などと書いていたのだが, そんなエラそうなこと書いたのが恥ずかしくなるくらいに内容の濃い良書である. インストール時にお世話になった"Run Run Linux""Walking Linux"に続き, 「常に手元に置いておきたい本」として, 現在では私の机上に常駐している. 少なくとも私にとっては「今後も残っていく本」となった. 仕事に Linux を活かしたいとお思いの他のみなさんにも是非, 手にして頂きたい本である.

Reviewed by 矢吹き芳裕 (yabu@kt.rim.or.jp) さん

Linux の使用歴
日本語環境が使えるようになって 3 年くらい.
そんなに短いわけぢゃない使用歴であるにもかかわらず, 未だ見様見真似, わけもわからないままの設定ファイルその他が多数ある.
UNIX の使用歴
皆無.
Linux Box の主な用途
仕事:原稿書き, 教材作成, メイル.
趣味:コンピュータのお勉強.
コンピュータには疎い素人文系ユーザです♪
Linux Box に載っている Linux 以外の OS
FM-Towns/Towns OS, MS-Windows 3.1: Linux でもコンソールなら親指シフト入力ができるので手放せない.
Vaio PCG-737 は 100% Linux Box.
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
Linux 98%, 残り 2%を Windows3.1, Towns OS

同人誌感覚から本格商業誌へ

全体的に感じるのは, 非常によく練られた編集方針によって誌面が作られているということです. 技術的な記述の正確さは, 私のような素人には判断できませんが, 記事の文体一つとってみても, 筆者ばかりでなく編集の方が相当がんばってらっしゃるように思えました. そうした感じをこれまでの『Linux Japan』や種々の雑誌での Linux 特集, ムック類と比較して一言にまとめると 「同人誌感覚から本格商業誌へ」といったふうになるように思います.

同人誌的というのは, 良くも悪くもということであって, 一方的に卑しめて云っているわけではありません. 記事の内容整理が多少不足でも筆者の Linux への愛着が伝わってくるような文章には 捨てがたい魅力があり, 何度も読み返したりしますよね. 商業誌的とは, 同好の士各人の関心と知識に基づいた文章を寄せ集めた, バラエティーに富んだ誌面作りではなく, 編集者の見方, コンセプトをより強く押し出す誌面が構成されているあり方だ, といったところでしょうか.

といって, いかにも「ビジネス」的な, 乾いた誌面ができあがっているというわけではありません. そうしたところを中心に以下詳述したいと思いますが, いずれにせよ好感の持てるムックに仕上がっていると感じました.

文化的側面の重視と, ホビーユーザにも楽しめる誌面

具体的な記事を取り上げましょう. まず, 目を惹くのは巻頭の特別レポートやインタヴューです.

特別レポート「Linux 普及の軌跡」は非常に手際よく Linux の誕生から今日までをまとめてくれています. これから Linux に触れようとしている人々へも, ビジネスプロパーの観点ではなく, Linux 文化とでもいうべきものの片鱗を伝える企画になっています (この辺りの記事は, 現在, 生越氏へのインタヴューも含めて, Linux cafe からも参照できるようになっています). 同時期, 他社から出版された同種のムックにはない, 商用 OS とは違う Linux の魅力の背景を伝えてくれる記事でしょう. さらにエリック・レイモンドやティム・オライリーといった, いわゆる「オープン・ソース」ムーブメントのキーパーソンのインタヴューも, 単純に旧来のビジネス・モデルで Linux を捉えようとするのではない, 本誌のなかなか渋いスタンスの取り方を伝えているようにも見えます.

こうした企画は, ビジネス云々とは別に Linux やオープン・ソース・ムーブメントに関心があるというだけの人にも 興味深く接することのできるものでしょう. 個別の記事のみをとってみれば, Linus のインタヴューなど他誌にも気にな るものがあります. しかし, Linux の全体像やオープン・ソース・ムーブメントを読者に伝えたいという 編集者のメッセージのある, 他にない企画のように思えます.

「ビジネス活用」といえばお決まりですが, サーバ構築関連記事も出ていますし, フリーソフトウェアだけで, ちょっとしたイントラネット・システムを作る記事も面白そうです. 他に GIMP や tcl/tk の簡単な入門記事など連載記事で読めればなぁ, と感じられるものもあります. このあたりの記事は, ホビーユーザにも楽しめるものだと思います.

これまでの蓄積が感じられるコンセプト

スティーブン・レビィ『ハッカーズ』の終わり近く, こんな話が登場してきます. それまでの自由なハッカー・コミュニティが, 勃興するコンピュータ・ビジネスの動きに翻弄され崩壊してゆく. しかし, そうした状況の中からリチャード・ストールマン (RMS) の涙とともにフリー・ソフトウェア・ファンデーション (FSF) が誕生する…….

今日 Linux も, ビジネスの動きに翻弄されかねない場所に差しかかっているという点は, 大局的に見れば当時と似ていなくもないでしょう. そのような現在, Linux ユーザのコミュニティがどのような変容を遂げることになるのか, 不安とともに興味深く感じているのは私ばかりではないと思います. そういう観点から見ると, ここへ来ての Linux の取り上げられ方は, まさしくビジネスチャンスとしての Linux, とどのつまりは「 Linux は金になる! 」という調子の強いものが 少なくないような気がします.

『日経 Linux』の誌面は, そういう風潮に付和雷同しない心意気を感じさせるものに なっているといっていいでしょう. 表紙を開いた途端にあらわれる GNU 支持を明言した 富士マグネディスクとギデオンの広告, JLA 発足のお知らせから, 末安氏の「公共財としての OS」を強調する言葉, リチャード・ストールマンの活動に注目するという稲葉氏の言葉を載せた 編集後記に至るまで, Linux とお金とを単純に結びつける風潮とは 一線を画すもののように感じられます.

付録 CD-ROM に入っているディストリビューションが, Vine Linux (残念ながら, Ver1.0 βですが) であるというのもそうした姿勢の現れ, と見るのは深読みが過ぎるでしょうか. 同類他誌の場合, 商売っ気が強く感じられる Turbo Linux が添付されてますが, ボランティア・ベースのディストリビューションが選ばれていることも, 目立つ特徴のように思えました.

もちろん, 全体としてはフリーソフトウェア寄りのスタンスが強調されているわけではありません. オープンソース・ムーブメントにふさわしいビジネス・モデルを, というのが編集部の基本方針なのでしょう. それでも既存のビジネスのあり方の中で Linux を中心としたシステムが使えるか使えないかを考えるのではなく, これまでにない形のビジネス, ひいては社会基盤を作り出す可能性のあるものとして検討してみようという姿勢が, 集中企画や活用事例紹介の書かれ方から伺われるような気がしました. こうした姿勢が貫かれれば, 今後の本誌からは まだまだおもしろい記事が生まれ出て来そうな期待を抱かせてくれます.

そういえば, 先に触れた末安氏は, 巻頭特別レポートの筆者と思われますが, この方は長らく 日経 Linux サイト の管理に当たって来られた方です. にわか仕立ではない, コンセプトを感じさせる誌面づくりができるのは, そうした活動を通しての蓄積があったからかもしれません.

今後の動向に期待

ただ, そのようなコンセプトが私の勝手な思い込みでないとすれば, Linux をめぐるさまざまなボランタリに対する ドネーションのあり方を考えるような記事, FSF の活動や理念のもう少し詳しい解説なども, 取り上げられてしかるべきもののように思いました. あるいはそうした記事は, 本誌の今後に期待すべきことなのでしょうか.

ずいぶん以前, 『ヴェニスの商人の資本論』で有名な経済学者の岩井克人が インタヴューに答えて, copyleft のようなフリーソフトウェアの考え方は 強力な信頼関係を築きうる限られたコミュニティの範囲を超えて それ自身で大きな力を発揮できるかどうかは怪しいが, 異質なものを自らのうちに取り込むことで活性化する 資本主義経済に新しい力をもたらす可能性は大きいはずだ, と語っていたことが思い出されます.

フリーソフトウェア文化は, しばしば原始共産制に (たぶん誤って) なぞらえられることもありますが, 岩井のような, あるいはこれからの経済のあり方として, オープンソースモデルにきわめて近しいヴィジョンを描いている 池田信夫のような, コンピュータ関連のメディアであまり取り上げられない論者が現在の Linux をめぐる状況をどう分析するか, 個人的には気になったりもします. そうした幅のある (?) 企画も, あるいは立ててくれるといいなぁ.

いずれにせよ, 本誌が定期的に刊行されるようになり, ビジネスとユーザ・コミュニティの架け橋的な役割の一翼を担うような そんな雑誌になってくれれば…… と, 今後が気になるムックです.

Reviewed by 檀上 郁 (dank@yo.rim.or.jp) さん

Linux の使用歴
3 年
UNIX の使用歴
通算 4 年
Linux Box の主な用途
Linux の学習
Linux Box に載っている Linux 以外の OS
MacOS, Windows95. Mac と AT 互換機を持っていて, そのどちらにもそれぞれ MKLinux と RedHat を共存させています.
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
2 対 8

Linux と「リナックス」

Linux がビジネスの場でも認知されるようになり 「リナックス」と発音しても「は? なにそれ?」と聞き返されることはなくなってきた. 会社の会議で課長あたりが 「これからはリナックスでオープンソースだ」と訳知り顔で発言するのを うんざりしながら聞いている人も増加していることだろう.

かつてビジネス界でもてはやされた言葉には「ダウンサイジング」や 「リストラクチャリング」というものがあった. 「ダウンサイジング」はいつのまにか人の口に登らなくなり 「リストラクチャリング」は「リストラ」と縮められ「クビ」と同義語となり, 「肩たたき」という優雅な (?) 言葉は死語に追いやられようとしている.

「リナックス」がこの先どういう展開をみせるかは解らないが, Linuxそのもの やLinuxのビジネスについて学びたいと考えている人を対象に この本は編集されている. 前提となる知識はコンピュータ全般と UNIX について一通りぐらいがあればよい. 国内外の具体的な事例を中心に 実際の業務に Linux をどう利用できるかの例が示されている.

「リナックスビジネス」入門

Linux をビジネスの対象として扱うことが絵空ごとでなくなったため Linux の記事は Linux の商品化や業務への組み込みなどが主流を占めている (技術系の記事は別). 「ビジネス以前」の Linux の歴史を知るには 「Linux 普及の軌跡」が良い. 面白いのは 92 年に発生した Tanenbaum と Torvalds の論争の内容で, 主な議題のうち,技術的な問題が主流である点が時代の流れを感じさせる. もちろん, 現在では技術的な問題にまったく関心が払われないという意味ではなく, 「Linux VS ほにゃらら」という文脈のなかでは あまり主流にならないという意味でである. 現在では「ほにゃらら」を供給している会社の体質や 「ほにゃらら」に基幹システムを依存してしまう危険性などが 議論の中心になったといえるだろう.

時代は流れ (と言ってもたった 7 年ほどだが) Linux は「新たなビジネスの潮流を作り出す」的な文脈でとらえられる様になった. では Linux を利用してのビジネスはどのようなものがあるか? 「Linux ビジネス」では 企業による「リナックスビジネス」の事例がのっている. 具体的な企業名としては Red Hat, インテル, オラクル, ネットスケープ, パシフィックハイテック, LinuxCare, Penguin Computing があげられている. ただ, ここで挙げられている事例をみると OS が Linux であることを除けば商品やサービスそのものに 新しいものがあるわけではない. サーバーにしろ, サポートにしろこれらはコンピュータ業界では伝統的な産業だ. 「活用事例」ではもっと具体的に 「なぜ Linux が選択されたか?」 「Linux を使うことの理由」が示されている. いずれの事例も牽引車となる人にかなりの (Linuxに関する) 技術と (対象となる業務に対する) 知識が要求されるようだ. これがなければ, サラリーマンであれば無能のレッテルを貼られるし, 事業家なら不渡りをトバしかねない.

全体についての感想

この本はビジネスの事例だけが載っているわけではないのだが, ビジネスの記事を中心に追ってみた. 上に挙げてみた以外にもインストールやサーバーの構築の仕方や Linux 関連サイトの紹介などの記事があり, 入門書としても「ビジネス」入門書としても十分なものとなっていると思う.


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