Samba リファレンス

Samba リファレンス レビュー記事

[ ブックレビューコーナー 目次 ]

翔泳社 様のご厚意により, 書籍 "Samba リファレンス 〜 UNIX 環境と Windows ネットワークの統合" を ブックレビューコーナー にご献本いただきました. この本のレビューをして頂くべく, Linux Users ML や本サイトにおいて公募を行い, これにご希望頂いた方々より感想などをレビュー記事にまとめていただきました.

ここに, レビューアの方々から寄せられたレビュー記事を公開します. (原稿到着順)

翔泳社 様および レビューアの皆様のご厚意に感謝いたします.

なお, 以下のレビューは初版を対象としています.


Reviewed by 柴田 晃 (help@eva.gr.jp) さん

Linux の使用歴
約 3 年
UNIX の使用歴
上に同じ
Linux Box の主な用途
server (samba, ftp, ppp, http, DNS)
Linux Box に載っている Linux 以外の OS
Windows 95
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
上記の Linux box では Linux : Windows95 = 100 : 0
私の総合使用頻度では Linux : Windows95 または Windows98 = 1 : 99

最初に,

ls というコマンドさえしらない私は本をいくつか買い込み, 約三年前に最初の一歩を踏み出しました. そう, 自宅のパソコン (1F と 2F にあります) のデータを共有したい, 自宅のファイルを会社でちょっと引っ張り出したい, ホームペイジの技術をつかってアルバムを作ってみたい, などなど server に対する希望はたくさんありました. 当初ファイルは ftp で出し入れしてましたが, 結構不便でした. が, 会社の server で samba が稼動しているのを知り, 見よう見まねで自宅で動かしました. それは劇的にファイル共有を便利にし, 私のメインの使用 OS である Windows95 の制限 (1 ドライブあたり 2 GB) を超えるファイル環境を実現してくれました. しかし, 「見よう見まねの私の samba の設定は本当に希望している通りなのだろうか?」 常に疑念がありました. samba の設定はいろんな設定本に載っていますが, それが何を意味しているのかは分かりませんでした. samba のリファレンスは, まさに待ち望んでいた本でした.

それから,

この本のブックレビューは http://www.linux.or.jp/ の企画として募集されましたので, この記事をお読みの方の一部は私を含めて, 「Linux 専門の本ばかり読んでいる」ことと思われますが, この本は Linux だけのための本ではありません. ですから, 随所に「AIX は・・」とか「BSD 系では・・」などの記述があります. ですから, Linux だけでなく, samba を動かしたいすべての人にすすめられる一冊だと思います.

さて,

本書の構成についてですが,

となっています. 本文は囲み記事を挟みながら興味深く読める内容になっています. 「監訳者補足や監訳者注」がさらなる理解の助けになります.

では, 本題

私は第 1 章から第 4 章の概説から samba の入手とインストールまでを いっきに読んでしまいました. 私のような経験の浅い誰もがギモンに思うような 「samba と NFS の比較」であるとか, 「NetBIOS ってどんなもの?」とか 「コンパイルのときは何に気をつければいいんだっけ?」などなど, 読み物として楽しめました.

第 4 章は samba をインストールしたときのディレクトリの構造や, いっしょにインストールされる実行ファイルの説明がなされています. ファイルの使い方や構造についての記述があります.

第 5,6 章は読むにはかなり退屈でした. それは辞書をよむようなもので, すべてのパラメータの各項目についての記述だったからです. しかし ABC 順にならんでいるのではなく関連する項目が並んで記述されているので 理解の助けになるでしょう. 設定途中ではある特定のパラメータをみてその周辺についても理解することができ, 他の samba 設定ファイルをみるときには巻頭のパラメータ索引から このセクションの記述を見つけて理解することが可能です. まさに samba リファレンスなのです.

第 7,8,9 章は実際の設定の例がたくさん出ていて, 実際に動く設定を作ることができます. それぞれのパラメータについての説明があり, 試行できます.

第 10 章ではいろいろなテクニックが紹介され, 時間をおいて自分がもっと成長してからまた見たいと思うようなことが並んでいました.

第 11 章はトラブルシューティングです. 幸いにして, 私の場合 samba にハマったことがないのですが, これから samba を導入したいひとにはこの章の存在は安心感のもとになります.

第 12 章と付録の Linux SMB ファイルシステム, samba2.0 対応の説明は, ここまで網羅するかという気持ちになりましたが, samba のすべてが書いてあることの証だと感じます.

それに加えて忘れてはならないのが, 索引の存在です. パラメータ索引 (巻頭) といわゆる索引 (巻末) があり, 辞書的使用法が可能になっています. つまり, 設定例を参考にしながら設定し, パラメータを調べることが可能になっています. 他のマシンの samba の設定を見せてもらうときもこの本があれば, 解析することが可能です.

最後に,

今回のチャンスをいただけた翔泳社様, 手間を惜しむことなく作業してくださっている Webmasters に大変感謝していることを記述してレビューの終わりといたします.

Reviewed by 藤田 良昭 (dkfujita@osa.att.ne.jp) さん

Linux の使用歴
2.5 年
UNIX の使用歴
2.7 年
Linux Box の主な用途
UN*X の学習
Linux Box に載っている Linux 以外の OS
FreeBSD,MS-Windows,Solaris
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
Linux : Linux 以外 = 9:1

おことわり

私は, smb.conf の workgroup パラメータの設定だけした後, Windows のネットワークコンピュータ・アイコンをクリックして, LinuxBox の host 名がついたアイコンが現れたのを見て, 「あ! 見えてる」と喜んで終り, という程度しか Samba を使ったことがありません. ネットワークの知識も無く, なんとなく使えてるという感じの「初心者」です. それを前提として以下をお読み下さい.

本書は Samba Team のメンバーの J.D.Blair 氏が著者であるということ (ソースの client.c などに名前が見えます), さらに邦訳に際して, Japanized SAMBA Web Pages (注: 2000/2/4 より 日本 samba ユーザ会 に移転) の管理をされている佐藤氏が監修しているという点で, おそらく国内におけるSamba 参考書の決定版になるのではないかと期待させてくれます. 実際, かなり濃い内容だと私には感じられました. 本文に加えて,随所で出てくるコラム, 監訳者の注と補足が渾然一体となって, 委細をもらさぬように書き上げようとする姿勢が感じられました. それでは内容を章を追って紹介していきます.

第 1 章 概説
Samba, Samba Team, GPL などの紹介です.
第 2 章 Windows ネットワークのプロトコル
NetBIOS と SMB プロトコルの概要です. ネットワーク学習者でもある私としては, 「使用法」だけでなく「仕組み」を説明してくれているこの章の存在はうれしいです. SMB プロトコルというのはかなりいい加減に拡張され続けているだけでなく, 仕様が非公開であるそうですが,にもかかわらず, それに追従していっている Samba Team の努力には頭が下がります.
第 3 章 Samba のダウンロードとビルド
PC-UNIX で Samba を使用している人は OS 附属のバイナリパッケージを使う人も多いと思いますが, 著者はソースからビルドするのが好きなようです. Makefile 中の各種設定オプションが, パッケージ添付の Makefile に記載されていないものも含めて 丁寧に解説されています. この章ではインストール後の起動・確認まで行います.
第 4 章 Samba のコンポーネント
Samba を構成するファイルとそのディレクトリ構成の説明. samba/bin ディレクトリにある各種ユーティリティの使い方もここに載っています.
第 5 章 グローバル設定パラメータ
第 6 章 サービス設定パラメータ
Samba のコントロールを取りしきる smb.conf ファイルの設定パラメータの いわゆる「リファレンス」です. Samba パッケージ添付の smb.conf サンプルには記載されていないパラメータが こんなにあるとは知りませんでした. 各々が詳しく解説されています. システマティックではありませんが, 説明文の中で本書全体に対するクロスリファレンス化が図られているように 感じられました.
第 7 章 ブラウザの設定例
ここでは簡単なネットワークの模式図を示しながら, いろいろなネットワーク形態における Samba の運用方針とその設定例が説明されています. 私の家庭内 LAN では WINS サーバーの出番はありませんが, 複数のサブネットを管理されている方には, よい指針となるのではないでしょうか.
第 8 章 アクセス制御の設定例
第 9 章 サービスの設定例
Samba の具体的な機能の設定があげられています. 第 5,6 章のオプション設定の一般的具体例だということができます.
第 10 章 その他のトリックとテクニック
いわゆる "Tips" と呼んでもいいのではないでしょうか. Samba サーバーとクライアントの時計の同期をとるなんて話も載っています.
第 11 章 問題の診断
基本的なトラブルシューティングの手順が書かれています. トラブルの解決策を ML で質問する前にこの章に書いてあることを確認しましょう.
第 12 章 Linux SMB ファイルシステム
Linux のカーネルモジュールとなっている SMB ファイルシステムの説明です.
付録 Samba2.0 に関する補足
新バージョン 2.0 の簡単な紹介ですが, 本書で扱っている 1.9.18 での設定方法で大体カバーできるそうです (Web ベースの管理ツール SWAT の添付に目が行ってしまう人も多いと思います).
付属 CD-ROM
Samba FTP サイトと Japanaized SAMBA Web Pages の スナップショットが収められています. 本書の内容以上に有用なこともあるでしょう.

総評

Samba パッケージはもともと付属のドキュメントが丁寧で詳しい上に, そのほとんどが有志の方々の作業によって, 日本語で読むことができるので, それらだけを参考にしても, かなり使いこなすことができるでしょう. とはいえ, 1 冊の書籍としてしっかりまとまっているのはやはり便利です.

さて, この本で想定されている主要な読者層はネットワーク管理者なので, 次のようにいうのもどうかとは思いますが, 初心者にとっては, 「どこから手をつけていいの?」という感じを持つことになるのではないかと思います.

とりあえず, 初心者としては, 自分の LinuxBox に Samba をインストールしたら, smb.conf をいろいろといじって, つまずいたら FAQ をチェック, キーになるパラメータ名を見つけたら, そこからリファレンスの中に入ってさまよい歩き, 少しづつ個々の設定パラメータの意味を 具体的な問題解決法の一部として認識できるようになっていく. そういう手順で進むことになるのではないでしょうか (あなたが欲しがっている具体的な設定例は, その過程で,本書の中に比較的簡単に見つけることができると思います).

そういう使い方を許容するならば, 本書は確かに初心者にもかなり有用なものであると思います. 現に, 私はそういう風にこの本を使い始めて だんだんと気に入りはじめているところです.

Japanaized SAMBA Web Pages では Samba 関連の書籍・雑誌をリストアップしていますが, その中で最近,この本もごく控え目に紹介されていました (個人的にはもっと宣伝してもいいんではないかなと思ったりもしています).

Reviewed by 小森 博司 (komori@ca2.so-net.ne.jp) さん

Linux の使用歴
本格的には 1 年半くらい (その前は TOWNS で遊び程度に)
UNIX の使用歴
5 年程度
Linux Box の主な用途
デスクトップ用途 (Mew, Netscape Navigator, GIMP, Pov-Ray, VNC, teikade, LaTeX...)/サーバ用途 (Apache, Samba, DHCP...) など
Linux Box に載っている Linux 以外の OS
なし
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
NT:Linux = 5:5 くらい (仕事が NT なので)

買って損はないか?

最初に書いておきますが, 買って損はないです. Samba スイートに含まれる各種ドキュメントを 上手にまとめただけのような気もしないではないですが(^^;, それでもこの内容で 3,600 円なら, 是非買っておきましょう. 多分私は 1.5 倍の値段でも買うと思います (2 倍だとちょっと考えるが, 多分買う).

私のポジショニングを……

業務で Windows NT を中心とする企業システムのヘルプデスクサポートを行っています. 一番多い形態は Windows NT をドメインコントローラ, Windows NT/95/98 をクライアントにした構成ですが, ファイルサーバを NT から UNIX (Linux/FreeBSD や各種商用 UNIX) に移行 (あるいは追加) する顧客も増えてきました.

その際に smb.conf の設定ミスにより, Windows Network での ブラウジングやドメインログオンに問題が出るケースが発生しています.

Windows ベースの企業ネットワークにこっそりと Samba/UNIX を増殖させるために何を気をつければ良いのか, トラブルを未然に防ぐためのポイントが記述されているのか, を中心にレビューしたいと思います.

本書のポジショニングを……

著者は Samba Team の John D. Blair 氏で, 監修は Japanized SAMBA Web Pages (http://samba.bento.ad.jp/…… (注: 2000/2/4 より 日本 samba ユーザ会 に移転) 本文中には URL が無いようですが) の佐藤文優氏です. ブームに便乗した勘違い本ではありません.

対象読者は UNIX 管理者です. "まえがき" にも書いてあり, 間違いありません(^^). ただし, まるっきりの新米管理者にはちょっと辛いです. UNIX Networking と Windows Networking についての前提知識を必要とします. NIS ドメインや NT ドメインが何だか分からない, あるいはホスト名と NetBIOS 名, DNS と WINS の違いが分からない, というレベルだと読解は困難だと思います. 特に, Samba は UNIX ホストを NT Server (LanManager Server) に見せかけるソフトなので, 本物の NT Server についての知識は必須です. "Windows NT リソースキット" あたりを読んでおくと良いと思います.

技術書には大きく分けて

  1. チュートリアル (入門書)
  2. 技術解説
  3. リファレンス

があります. 管理者は自分のレベルによって 1. と 2. を選ぶ必要があります. とりあえず動けばいいのならチュートリアルの通りステップバイステップで. チューニングしたりカスタマイズしたりしたければ技術解説を. どちらにしてもリファレンスは手元に置いて 必要なときに参照できるようにしておくべきでしょう.

本書は題名こそ "リファレンス" ですが, この 3 つのフィールドを全てカバーしようとしています. 往々にしてこのような本はどれにも使えない "ダメ本" になってしまうものですが, 幸いにして本書は悪くない感じに仕上がっています. しかし, どの用途として使いたいかによって読む部分を選ぶ必要があります.

何が書いてあるのか

各章の構成はおそらく別のレビュアの方が書かれていると思いますので書きません.

チュートリアルとして

チュートリアルとして読む場合に優れているのは, 設定例が豊富である, という点です. 最近の Linux ディストリビューションだと 最初から smbd, nmbd がインストールされていることがほとんどですので, 第 7 章 (ブラウザの設定例), 第 8 章 (アクセス制御の設定例), 第 9 章 (サービスの設定例) に目を通して自分の希望する構成を見つければ, ほとんど困ることはないでしょう.

実際に起こるトラブルの原因は, smb.conf のコメントを頼りに, 良く分からずにあちこちを書き換えてみる, というところにあります. このことを考えると, 設定の必要なパラメータがリストアップされているのは, "ここ以外は触る必要が無い" ということなので, 大変ありがたいです.

技術解説として

技術解説として読む場合に優れているのは, 第 2 章 (Windows ネットワークのプロトコル), 第 11 章 (問題の診断) です. これらは問題解決に必要な知識 (特にブラウズ関係) とツールがまとめて紹介されているので, 管理者は必読です.

特にこの種の本でトラブルシューティングにきちんと触れられているのは特筆ものです. ただし, 主に Samba スイートに含まれるツールの解説になっているので, Windows のツールについては別に押さえておく必要があります (例えば, net view/use, nbtstatの具体的な使い方, WINS マネージャ (あるいは winscl.exe コマンド), Browser Monitor (あるいは browstat.exe コマンド), Domain Monitor, ネットワークモニタなど).

また, Samba チームの解析結果に基づいているためか, Microsoft のドキュメントとは異なることが書いてあったりしますので, 注意が必要です (例えばマスタブラウザの選定基準として "ホスト名の長さ" が挙げられているが, MS のドキュメントだと "コンピュータ名 (つまりサーバサービスの NetBIOS 名) の辞書順" となっている).

リファレンスとして

リファレンスとして読むなら, もちろん第 5 章 (グローバル設定パラメータ), 第 6 章 (サービス設定パラメータ) です. 実はここも通読すると技術解説になっています. クライアント OS のバグを回避するためのオプション等については, 残念ながらこの 2 章を通読するしかないです. 残念ですがしょうがないでしょう.

また, つい巻末の索引を引いてしまいがちですが, 巻頭にパラメータ索引がまとめられているのもリファレンスとしてはポイント高いです.

全体を通して, 必要な参照先がきちんと明記されているので, どこから読み始めても大丈夫なのは良い点です (第 2 刷でも "◆→参照先確認 -- 編集者←◆" なんていうのが残ってるのはご愛敬). また訳注が大量に入っていて最新情報が記載されているのも良い点でしょう.

まとめ

Windows ベースのネットワークにこっそりと Samba/UNIX を増殖させるためには, 本書の設定例にさえ目を通せば OK です. 大変便利. また, トラブルシューティングの章も, 必ず役に立つでしょう.

ただし, 残念ながら, それは UNIX, Windows, ネットワークに対する前提知識が必要です. 定番ですが, "Windows NT リソースキット" や各種書籍も必要でしょう. 本書でその全てをカバーする事を期待してはなりませんが, "Samba リファレンス" の名前の通り, Samba 部分に関しては, これ 1 冊でほぼ用は足りるはずです.


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