すみからすみまで Linux

すみからすみまで Linux レビュー記事

[ ブックレビューコーナー 目次 ]

技術評論社 様のご厚意により, 書籍 "すみからすみまで Linux" を ブックレビューコーナー にご献本いただきました. この本のレビューをして頂くべく, Linux Users ML や本サイトにおいて公募を行い, これにご希望頂いた方々より感想などをレビュー記事にまとめていただきました.

ここに, レビューアの方々から寄せられたレビュー記事を公開します. (原稿到着順)

技術評論社 様および レビューアの皆様のご厚意に感謝いたします.

なお, 以下のレビューは初版を対象としています.


Reviewed by 時田恵一郎 (tokita@phys.sci.osaka-u.ac.jp) さん

Linux の使用歴
5 年. Slackware → RedHat → Stataboware (Linux/Alpha) → Turbo → Vine.
UNIX の使用歴
10 年. VAX → Apollo Domain → Sun → (NeXTSTEP) → Digital UNIX etc.
Linux Box の主な用途
数値シミュレーション (C, Fortran, Java), 原稿書き (TeX, xmgr & tgif etc), 教材作成 (TeX)・配布 (Web), 成績処理 (perl), 学生・共同研究者との連絡 (Mail, Web) など.
Linux Box に載っている Linux 以外の OS
自宅の K6 自作機と, Let's note mini (CF-M32J8) に Windows98.
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
職場: Linux 85%, Windows98 15%(Visual Cafe 3.0J (Java), PDIC (辞書)).
自宅: Linux 50%, Windows98 50%(LEGO MindStorms, ゲーム, 子供の知育ソフト, 妻のインターネット接続など)

1. 良い点

このレビューを書いている 1999 年 4 月下旬においては, 『買い』だと思う. 実際, 私はこの本を発売直後から読んでいた (たまたま上司が買ってきたのを, あまりに Vine が気に入ったので, 横取りしてしまったのである^^;). 厚さの割に守備範囲が広く, 初級ユーザからすると, ページが進むにつれて急激に難易度が上昇していくように思われるかもしれないが, 個人的にはその分この手のムック本にしては読むところが多くてよかった. 私が気に入った理由は以下の通り.

1-1. Vine Linux の CD-ROM が収録されている

昨年から Turbo Linux を使用していたが, Netscape の日本語入力, Java ページのブラウジングに不満があった. Netscape の出来を確認するために, 試しに本書付属の Vine Linux をインストールしてみたが, その完成度の高さに魅了され, いろいろな機械にインストールしてしまった. ただし, 本書収録のものはβ版であり, 現在既に 1.0 正式版がリリースされていることに注意.

1-2. 初の『Vine Linux インストール本』である

Part.1 は新規書き下ろしの Vine Linux 特集である. Vine Linux の概要, インストール手順, Vine 標準のデスクトップ環境である Window Maker の簡単な使用法, 及び Vine Tools と呼ばれる Vine オリジナルのアプリケーションの使用法が書かれている. インストールでつまずきさえしなければ, 初心者が初めて Linux の世界に入るのにちょうどよいモノグラフになっていると思う. すでに Linux を使用している人で, 最新ディストリビューションへの乗り換えを考えている人にも好適であろう.

1-3. 『英辞郎』を Linux 上で使う方法が書いてある

私は職場でも (仕方なく) Windows を使用している. 超高速辞書検索ソフト PDICを使うからだ. これと, プロの翻訳家がフリーで公開している 英辞郎 という辞書シリーズ (総見出し数約 130 万語!) を組み合わせて使っていると, Turbo Linux Pro や日本語 Red Hat にバインドされている某辞典や eW*n などはほとんど子供だましに見えてしまう程である. Part.2 は, (Vine に限らない) Linux におけるデータベース利用についての記事であるが, 特に私の目を引いたのは, PostgreSQL を用いた, この英辞郎の検索環境の構築の方法である.

1-4. ノート PC に Linux を入れるための情報が書いてある

本書の Part.3 には, ノート PC に特化した情報, 例えば, FIPS の使い方や, "pcmcia-cs の追っかけ記事"がある. ノート PC の中でも, FDD も PC カード経由で接続する Libretto は, Linux インストールの最難関であると言えるが, それに関してもまるまる一節が割かれている. そのノウハウは他のノート PC に Linux をインストール場合にも参考になると思う. さらに, 具体的に数台の最新ノート PC での動作結果が紹介されている. 最新機種で Linux を動かしてみたいと考えている人には参考になるかもしれない.

1-5. 結構マニアックなことが書いてある

Part.4 には, Alpha, Power PC, SUN の Sparc といった, Intel 以外のプラットフォーム向けの Linux についての記事がある. 仕事では Linux/Alpha を使ってきたし, 自宅には半分博物館入りしつつある Power Macintosh があったりするので, 興味深く読んだ. また, rpm パッケージの作り方や, Modzilla のビルドの仕方などの話題もある. 初出は古い記事だが, 時代遅れになりにくい話題なのでよいと思う. Part.1 が初心者向けなのに比べて, Part.4 は, 中級からエキスパート(マニア?) 向けの話題が中心だが, 話題の範囲の広さも本書の魅力の一つかも知れない.

2. 残念な点

個人的には有用な本だったけれども, 残念な点もある. まず, 本書は, Part.1 とその他一部を除き, 『Software Design』誌の Linux 記事を, 加筆・修正・再編集したものである. 大半は昨年から今年にかけての掲載記事であるが, 一部古い記事も入っている. 特に, 『RHL4.2 を用いたファイアウォールの構築』は, 著者自ら認めているように, 完全に時代遅れであると言わざるを得ない. せっかく Part.1 が Vine 特集なのだから, Vine でのセキュリティ対策などの記事を新規に書き下ろして欲しかった. また, インストール記事の部分についてだが, FIPS, lilo など, 初心者のはまりやすい問題にもっと触れるべきだったのではないかと思う. 例えば, FIPS が 8.4GB 以上の大容量 HDD の Windows 領域を破壊する場合があることや, より安全で初心者向けである presizer や PartitionMagic などの FAT サイズ変更ソフトがあることなど. 実際, Part.3 の嶋崎氏の記事はそのことに触れているし, あだち氏は FIPS の使用法を解説しているのだから, せめてそこへのポインタがあればよかった. また, vfetchmail の使い方が解説されているのに, PPP 接続の方法が全然ないのはおかしい. Vine のホームページには 親切な解説 があるので, せめてそこへのポインタがあればよかったと思う. もっとも, Vine の製品版には 300 ページものマニュアルが付属するということなので, きっと上で述べたようなことまで詳しく解説されているに違いない. 初心者は製品版を買おう.

(注) 本稿の ドラフト をホームページで公開しています. 本稿で触れた各事項へのリンク入りです.

Reviewed by 園部康弘 (sono@amorph.chem.nagaokaut.ac.jp) さん

Linux の使用歴
5 ヵ月
UNIX の使用歴
6 年
Linux Box の主な用途
最新の Linux の状況の把握
インストールして楽しむ
Wine の試用
Linux Box に載っている Linux 以外の OS
FreeBSD 2.2.8-RELEASE, Windows95
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
FreeBSD 24 時間稼働 80%
Windows95 ゲーム時 10%
Linux ときたま 10%

1.はじめに

現在僕は研究, 趣味に FreeBSD を使用しています. PC-UNIX は非常に自分にとって役立っており, これなしでは生活できないほどになっています.

しかし, ここ一年の主流は完全に Linux となっていて 雑誌等の付録にもなっていたりして無視できない存在になってきました. 購読している Software Design 誌 (以下 SD 誌) でもよく特集していて, Vine Linux に興味があったこともあり, 同技術評論社から出版された『すみからすみまで Linux』には注目していました. そこで, 本レビュー募集記事を拝見し, 是非他の PC-UNIX 使用者からみた感想をお伝えしたく応募しました.

2.全体的な感想

本の体裁としては SD 誌のような構成になっており, 慣れた人にとってはなんなく読み進めることができます. 内容もここ半年くらいの誌面を飾った特集を加筆修正しまとめたものであり, 非常に内容の濃いものになっています. わかりやすい見出し, 興味あるコラム, 綺麗な図版といい初心者にも十分ついていける内容だとおもいます.

内容に関して大きくわけると, Vine Linux のインストールに関して 2 割, データベース構築に関して 4 割, モバイルに関し 2 割, その他 2 割となってます. 添付 CDROM 付録には Vine Linux, Oracle8 トライアル版などが収録されてます.

3.各章について

3.1 Part1 『Vine Linux の季節がやってきた』

この章は, Vine Linux のインストールや環境設定について詳細に述べられています. 大きい図版と段階に分けられたパラグラフにより, 問題なくインストールをすすめられるとおもいます.

その他に X の設定にセクションがさかれています. Vine Linux は標準で WindowMaker が設定されており, 簡単な設定から自分好みの設定まで詳しく説明されてます. また, GIMP 等のグラフィック, サウンド関連なども説明があり, Linux がデスクトップ機用 OS となりうる可能性も感じられます. 日本語を使うための設定については, 驚く程説明が少ないですが, インストール直後から問題なく日本語が使用できるため必要ないでしょう.

さらにこれぞ Vine Linux 最大の特徴, Vine Tools 群の説明にセクションが与えられてます. メ○帳風エディタ vedit や vmail などの使い方が載っています. GUI でグイグイ設定している様子が大きな写真ででており, はじめての人でも安心です. とはいえ, 僕は Mew から離れられませんが. これがさらに開発されていき, gnome 等と統合された環境が整った時, 本当に誰でもつかえるデスクトップが現実化することでしょう.

3.2 Part2 『Linux で作る快適データベース環境』

ここでは, PostgreSQL, Namazu, MySQL などが紹介されてます. 基本的には SD 誌に載った内容をまとめ加筆されたもののようです. 僕自身はデータベースはやらないためあまり参考にはなりませんでしたが, Namazu には非常に興味があったため楽しく読み進めました. これも SD 誌の Plamo Linux の特集号にでてたものですが, だいぶ加筆修正されておりよりわかりやすいものになってます. 僕は自力で ローカルな PC に, Namazu によるメールフォルダの検索システムを構築しましたが, この記事があればもっと楽にできたかもしれません. ちなみに, Apache も立ち上がってるので, 独り全文検索システムなんぞ組んでほくそ笑んでます. awk&grep とか Perl なんかでもできますが, 速度が違います. TkNamazu はおススメです.

他のデータベースシステムについてもあるていどまで説明はされてますが, 専門の書籍にくらべるとさすがに情報不足なのは仕方ないでしょう. しかし, 充分使えるまでは説明されているので, 「フリーの使うのに高い書籍はアレだな」なんて方には良いでしょう.

3.3 Part3 『モバイル Linux 自由自在』

ここは, 僕は 486SX の 16 階色のノート PC しか持っておらず, PAO から離れられないのであまり読んでません. Linux はどうなのでしょう. サクっと入るのかな. PAO ではだいぶ鼻血のでるような苦労をしたものですが…

3.4 Part4 『それぞれの Linux 活用法』

個人的には一番面白かった章でした. Sparc や PowerPC への対応, Mozilla の話, そして各オフィスアプリケーション比較. Applixware とか結構イケてそう. 欲しい.

4.ちょっと気になったこと & 総括

以上『すみからすみまで Linux』の感想でしたが, 実際それほど Linux を使ってなかったので, 自分にとって役立ったのかはっきりしません. 表紙をみると Vine Linux が大きく取り上げられてますが, 実際の内容はデータベース構築の記述が多く, ほんとにマニアックな方面ですみからすみまでの記事になってます. そのため, 「これから Linux をはじめたい」という初心者より, 「ずっと使ってるけど, Vine って何者?」てな人や, 「Linux って データベースに使えるの?」な方々に向いてる本だと思います. 僕的には, もっと趣味のアプリケーションなどを解説したデスクトップ向けとしてか, データベースやサーバ構築法などを詳説したサーバ向け本として特化した内容でもよかったように思います. しかし, 内容が薄いのにも関わらず高値な書籍が乱立する中, なかなか安価で内容が濃いので, 僕の愛読書の一冊となり書棚におさまることでしょう.

Reviewed by 岩本泰昌 (yiwamoto@alles.or.jp) さん

Linux の使用歴
1 年
UNIX の使用歴
ユーザーとしてアプリケーションを利用すること 2 年, そのワークステーションを閉じた (セキュリティー等の配慮は要らない) 環境で管理すること 1 年
Linux Box の主な用途
Unix の勉強
Linux Box に載っている Linux 以外の OS
Windows95
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
Linux : Windows95 = 3 : 7

はじめに

私は昨年までユーザーレベルで SGI のワークステーションを 科学技術計算に使用していましたが, 管理者の移動に伴い突然管理を任されてしまいました. 幸い, 非常に限られた利用者のみで運営されているためセキュリティ上の問題やサーバー機能の提供などは必要無かったのですが, Unix 系 OS の OS レベルでの コマンドをほとんど知らなかったので, 慌てて本屋に走り, Linux と遭遇しました. 現在はインストールと簡単な設定はどうにか自力で出来るようになり, 興味も湧いてきたため, 徐々に Windows 環境から Linux に移行中です.

次に本書の構成に沿ってコメントしていきたいと思います.

Vine の季節がやってきた!

本書のタイトルからは Linux 一般のことについて書いてあるように思ったのですが, 副題 (?) に「Vine の季節がやってきた!」とあるように, 約 3 分の 1 がVine Linux の紹介, インストール方法と, デフォールトの Window Manager である Window Maker の設定, ノート PC へのインストール, および Tips で構成されていました. これは, Vine の完成度や glibc2 への移行, 最近の商用ソフトが RedHat ベースを基本に開発されていることなどを勘案すると良い選択だと思います. Vine の完成度が高いこともあってか, ディスプレーの表示を並べたインストール手順の解説は解かりやすかったです. 2 〜 3 気になった点は, まずユーザーアカウントの作成が一言も触れられていない点です. インストールの終了した時点でユーザーアカウントを作成して, 通常の使用は root ではなく user として行うことをはっきりと記述しておいた方が良かったと思います. また, Slackware や Plamo を利用してきたものとしては, ユーザー登録が X 上からになっているため最初少し戸惑ってしまうので, その辺の方法も紹介してもらうと助かると思います. また, LILO は MBR に書き込むようになっていますが, ちょっと慣れた人ならルートパーティションの先頭にしたり フロッピーにしたりしたい人も多いと思います. また, デフォルトの OS が linux になっていますが, デフォルトは windows にしておいて linux を使いたいときには linux と入力したいという人もいると思います. そのあたりの方法も説明があれば良かったと思います. X の細かい設定やアプリケーションの紹介は良かったと思います. 本当はもう少し多くのアプリケーションを, もう少し詳しく記述してあれば良かったと思いますが, 記事のバランス上仕方が無かったのでしょうか. また, VineTools に関する説明は, Vine オリジナルということもあってかとても親切に, 詳しく書いてありました. なかなか使いやすそうなツールなのでぜひ挑戦してみようと思っています.

Linux で作る快適データベース環境

次の約 3 分の 1 はデータベースに関して書いてあります. 取り上げてあるのは順に PostgreSQL, Namazu & freeWAIS-sf, MySQL, Oracle8, Sybase SQL Server です. これらのうち Namazu & freeWAIS-sf は日本語の全文検索システムで, 一般に言うデータベースとは異なると思うので順番を先頭か最後にした方が良かった気がします. しかし, 内容的には面白く, 特に Namazu は実際によくお世話になるし, 動作のしくみや活用例, テクニックが詳しく書かれており有用でした. 他のデータベースはちょっと大がかりになるので使用するチャンスに しばらく恵まれそうにありません.

モバイル Linux 自由自在

残りの約 3 分の 1 のうち半分はノート PC への Linux, X のインストールと設定ですが, 私は現在ノートを使用しておりません (^^; のでいろいろな問題があるのだなーと思いながら読ませていただきました.

それぞれの Linux 活用法

残りの部分は「Linux 活用法」と題して種々のテーマを取り上げていました. 非インテルプラットフォームに関しても, 私は使用しておりませんので軽く読み流しました. rpm パッケージの作成では, 今のところ幸いにもパッケージの作成の必要は無いのですが, rpm のパッケージ管理がどのような情報を管理しているのかが良く分かり大変に勉強になりました. このような記事を本書に期待していたのですが, もう少し (たとえば make や configure の中身や意味の解説など) 広く一般的な説明があれば良かったと思います. ファイアウォールの構築では, 未だ常時接続の環境には無いのですが, ネットワークの組み方など参考になりました. しかし, 筆者からのコメントにもある様に, セキュリティー関係の設定に関してあまり触れておらず, ファイアウォールに関して書いてあるにしては不安が残りました. また, ネットワーク関係の記事であれば, もう少し基本的なところ (たとえば家庭内 LAN の構築方法や設定の例など, またGateway や DNS の役割や設定など) もあれば解りやすかったのではないかと思います.

Netscape のビルドに関しては, 現状のところバイナリーをインストールし て満足してしまっています.

商用オフィスアプリケーションの比較は applixware, dp/NOTE, VJE-PEN を比較してありますが, まだまだ種類や機能が少なく迫力に欠けます. 早くジャストシステムなど対応を表明したところの商品が出てきたり, StarOffice などの英語版の日本語への移植が進めばいいなと思わせる内容でした.

まとめ

Vine というタイムリーなディストリビューションを大きく扱って読み応えのある本でした. また, この半年くらいで急に増えた, データベースやオフィスアプリケーションを扱っていたりと楽しめました. しかし反面, 読者の対象をどのように考えているのかはっきりしないような気がします. たとえば, Vine のインストール及びアプリケーションの紹介やノート PC のインストールや設定の記事は windows ユーザーで linux 初心者に向けて書いてあるように見えますし, データベースの比較やファイアウォールの構築はかなり手慣れた人に向けたもののように感じます. 私は, インストールは卒業したけど大きなネットワークを組んだりデータベースサーバーを運用したりする気は今のところありません. 最近 Linux を扱い始めた人は私のようなシチュエーションの人が多いのではないかと想像していますが, そのレベルの記事が想像していたより少なかったように思い, 少し残念でした. たとえば, シェルコマンドやリダイレクトの解説や, 一般的なソフトのインストール方法 (rpm によるインストール方法? パッケージの作り方は書いてあるのにその前の使い方は書いてない), ディストリビューションに含まれる代表的でよく使用されるパッケージ群の紹介などがあれば良かったと思いました. 今後, Linux のすそ野を広げるためにも, インストールは卒業して使いこなしの第一歩になるような本がもう少し出てくることを期待しています.

Reviewed by 石田邦夫 (ishida@fsinet.or.jp) さん

Linux の使用歴
1 年 4 ヵ月
UNIX の使用歴
約 11 年
Linux Box の主な用途
端末, samba ・プリンタサーバ
Linux Box に載っている Linux 以外の OS
MS-Windows95
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
Linux:それ以外 = 9:1

本書は, 基本的には Vine Linux のインストールガイドおよび基本的な利用法について書かれた本であると言ってもよい. もちろん, その他にも Software Design 誌に最近 (97 年 8 月から 99 年 1 月) 掲載された Linux 関連の記事が再録されている (ただし, 一部記事は最新情報を元に加筆/修正されている). が, 最も重点を置かれているのは Vine Linux であるという点は動かしがたいであろう. 特にインストールガイドは, 後述の通り非常に詳しく書かれており, これから初めて Linux をインストールする読者, 特に日本語環境の充実を重視する読者にとってはかなり有効な情報源であるといって差し支えない.

Part 1 は Vine Linux 誕生の経緯に始まり, 収録内容の詳しい紹介や入手先といった, 入手前に最低限必要な情報がまずは述べられている. 次にインストールガイドに進むのだが, これが非常にわかりやすい. ページ数も 13 ページが割かれており, 各段階での画面表示を示しながら解説されている点は, インストーラーが日本語化されている Vine Linux の特徴と併せて, 初めて Linux をインストールする読者にとって非常にわかりやすくなっているといえる. 次に, VineLinux の default window manager となっている WindowMaker を用いた X の使用法が簡単に解説されていて, 初めて X に触れる読者に対する助けとなるであろう. 最後に, Vine Tools と名付けられたこのディストリビューション特有のアプリケーションについて, 作成者自身による詳細な解説が掲載されており, この記事を読めばスムーズに設定・利用ができるであろう.

Part 2 は, Linux を用いたデータベース環境についての記事から成っており, 基本的には 1999 年 1 月号の記事の再録である. PostgreSQL, MySQL, Sybase SQL server といったフリーの DBMS および商用の Oracle8 について, 導入法から簡単な使用法に関して解説されている. また, Namazu, freeWAIS-sf という全文検索システムについても触れられているが, このうち Namazu は, Vine Linux のドキュメント検索用に採用されており, Vine Linux ユーザーはこの部分も一読しておくことをお薦めする.

Part 3 はノート PC への Linux, 特に Vine Linux の導入ガイドから成る. 各メーカーのノート PC に対してインストールする際の注意点や, サウンド関連の IRQ, DMA の設定などが逐一挙げられている. 本書で紹介されている機種に VineLinux を導入する場合は, ほとんど迷うことなく X の設定から音を出すところまでできるのではないかと思われる. また, CASSIOPEIA FIVA や Libretto という若干癖のある機種が詳しく取り上げられていることも非常にうれしい. 特に前者の機種は若干特殊な XF86Config が必要だということであるが, それがそのまま掲載されており, この機種のユーザーにとっては必読であるといってもよい. また, pcmcia-cs についての解説は, (1999 年 5 月現在) 最新の ver.3.0.9 向けに 一部改訂されている.

Part 4 は視点を変えて, Vine Linux からは少し距離を置いた記事が載せられている. まず, Intel 以外のプラットフォームでの Linux について, Alpha, SPARC, PowerPC の場合が, それぞれ簡単に紹介されている. その他, Mozzila や Applixware, dp/NOTE, VJE-Pen といった商用アプリケーションについて簡単なレビューがなされている.

全体としては, インストール本+αという印象である. そのような観点からは, ノート PC のパートなど, 個々の機種にかなり依存した部分にまで踏み込んである点は, かなり高く評価できるであろう. 対象となる読者層は, 主にこれから初めて Linux を導入しようと考えている人であると思われる. 最後に, 付属 CD-ROM の内容を紹介しておく. 二枚組で, 一枚は Vine Linux 1.0 β + updates である. 現在, 1.0 がリリースされているが, ネットワークが細い等の理由で CD-ROM からのインストールを希望する場合は, この CD-ROM を使ってから 1.0 に upgrade するのも手ではないだろうか. 二枚目は, かなり盛りだくさんである. Oracle8 Workgroup Server 90 日間トライアル版, Adaptive Server Enterprise, 「ゆず」, PostgreSQL, pcmcia-cs, Mozzila 等が含まれている. このうち, 「ゆず」は Caldera Open Linux 用日本語追加キットで, コラムに簡単な解説があるが X-TT 対応の XFree86 や, tex, mule といった基本的なものは含まれている.

最後に少し気になったことを述べておく. 雑誌記事の再録という性質上,やむを得ないのかもしれないが, 最後の方に載せられた「RHL4.2 を用いたファイアーウォール構築」についてである. 大学の研究室への導入例を示しながら, 諸設定・運用法を説明するという形で進められるが, 最後に再録に際しての筆者のコメントとして, 「セキュリティ関係に関してはもう少し留意しないとクラッキングの対象となってしまう」. という内容の記述があり, 何のための記事なのか疑問を持ってしまった. セキュリティ関連の設定は昨今特に関心を強く持たれていることもあるし, もう少し self-contained な内容にするか, できなければあまり必要のない記事ではなかったのであろうか.


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