株式会社オライリー・ジャパン 様のご厚意により,
書籍 "Linux 日本語環境 - 最適なシステム環境構築のための基礎と実践 -" を
ブックレビューコーナー にご献本いただきました.
この本のレビューをして頂くべく,
Linux Users ML
や本サイトにおいて公募を行い,
これにご希望頂いた方々より感想などをレビュー記事にまとめていただきました.
ここに, レビューアの方々から寄せられたレビュー記事を公開します. (原稿到着順)
株式会社オライリー・ジャパン 様および レビューアの皆様のご厚意に感謝いたします.
なお, 以下のレビューは初版を対象としています.
この本は「Linux の初心者が, Linux で日本語を取り扱えるように慣れよう」というための本ではなく, 「Linux に慣れており, 日本語環境を便利なものにするため, 設定を変更してみたり ソフトウェアを入れ替えよう」というための本である. 読者は基本的な Linux に関する知識が必要である. 様々なソフトウェアについて書かれているが, Apache などの設定の詳細は省かれており, 一通りの日本語環境を整えたいという段階で参照する本である.
日本語環境を整備するための設定やソフトウェアのインストール方法が書かれている. 具体的には日本語入力システム, 辞書, ターミナル, エディタ, オフィス系ソフト, ネットワーク環境などである. この本ではところどころハングルや中国語に関する記述もあり, 真に多言語対応の環境を整備する際にも役立つ. 特にどのパッケージを導入すればいいのかを考える際, 3 章に記述された各ディストリビューションの特徴を読む事で判断ができる.
たいていのソフトウェアについて, 同カテゴリーのものが複数紹介されている. 例えば日本語入力システムでは Wnn, Canna, ATOK など, エディタも Emacs, XEmacs, vi という風である. そしてこの本の素晴らしい所は, これらのソフトウェアの一次配布元だけではなく, そのソフトウェアを作成, 移植した方を紹介している所である. 「フリーソフトウェア」である事の正しい意味を理解し, 作者に敬意を表するという態度を示している点で好感が持てる. 単にソフトウェアの紹介をしているだけでなく, その開発の経緯や今後の方向付けについても述べている点で, どのソフトウェアを採用したらいいかという方針も立てやすい.
特に明記はされていなかったと思うが, この本は x86 系 CPU の Linux に対象が割り当てられているように思われる. 最近では LinuxPPC も出回るようになっており, また Alpha でも高価な Tru64 を避けて Linux をインストールする技術者が増えている. 科学技術計算専門ならば日本語環境は不要と思われるが, もしそのような環境で日本語環境を整えたい場合は, 試行錯誤しながらこの本を読む事になるだろう.
普段はあまり立ち入りたくないドットファイルをどのように変更すれば環境が変更できるか等, 上級者でなくても最適な環境を整える事ができるという点で最適の一冊である. 本書に書かれているようにこの本は初心者向きではないが, もしエキスパートを目指そうという初心者がいるならば, 入門書とともに揃えておきたい本である. これだけ読みやすく書かれていると, 「試行錯誤しながらマスターしていく」という事が失われてしまうのではないかという事が気掛かりになってしまう.
パッケージ・ディストリビューションの紹介から国際化・マルチリンガル環境と Linux というこれからの問題についてまで幅広くとりあげています.
RPM パッケージのインストールのしかたから懇切丁寧に書かれているので初心者とそれほど変わらないレベルの私でも安心して読むことができる一冊です.
しかも文字集合, エンコーディング, 正規表現まで説明してあるので, ある程度技量レベルがアップしてからもう 1 度読み返してみたいと思いました. (それくらい難しい.)
Linux での日本語環境の構築というこの本の目的の為には最初の方に基礎になる文字集合やエンコーディングに触れなくてはならないのは理解できるが, 第 2 章でいきなりこの本で一番難解な話に突入したのには少し参ってしまった.
せめて図解を入れるなどもう少しわかりやすくする工夫がないと, ちょっと飽きっぽい人はここで読むのをやめてしまうか, 大事なこの章をとばして読んでしまうだろう.
しかし第 2 章以外では, 例えばパッチを当てる必要がある場合などはパッチの入手先から, 実際のパッチの当て方まで丁寧に記載されるなど著者の配慮がうかがえた.
日本語入力システムからオフィス系ソフトまで日本語が関連するあらゆるツールやソフトに対して, その特色や日本語環境の構築のしかたまで書かれてあり, 1 種類のソフトに対して複数のソフトの紹介があるので自分が使用しているディストリビューションにデフォルトで入っていたソフトからの乗り換えを考えている人には非常に役立つのでは ? と思われました.
ただデスクトップ用途のツールやソフトに関しては充実しているが, サーバ用途だとメーリングリストパッケージについてしか記述がないのが残念です.
サーバ用途に使っている人も日本語環境に困っている人はいると思うのですが…
この本を買って読む価値のある人達は
だと思われます.
理由は, 今の製品版ディストリビューションを購入した人は, 最初から ATOK をはじめとした日本語環境がほぼ不満のないレベルで使える ようになっているからです.
個人的には「1 年以上前に出版されていればもっと需要があったのに」と思います.
日本語環境設定は, 日本語を常用する者にとって Linux を快適に使用する上で重要な課題である. 表示や印字が英語であるだけならまだしも, 中途半端な設定では 文字化けして表示が読めない, 正しく日本語入力できない, プログラムが落ちる等の問題が発生する. これらに対応するための参考書を切望していたところ本書が発行された.
内容は, 1 章の Linux 関連の国際化を含めた日本語入力を取り巻く環境動向から始まり, 文字コード, Wnn や Canna などの日本語ツール, フォント設定, 日本語の各種変換ツール・ユーティリティ, エディタ, さらに Netscape をはじめとする通常使いそうな代表的なアプリケーションの設定まで, 日本語処理に関連すると思われる項目をほとんど全て含んでいる. 章立ても, 概要から各種用途別具体的設定に進み, 理解しやすい.
文章自体は, 著者の一人に日本人が含まれるとはいえ, 翻訳本にありがちな独特の言い回しも無く平易で読みやすかった. 詳細な具体的設定を調べるだけでなく, これらの表記を読み飛ばしても, 日本語処理に関する話題全体を理解するうえでの, 良い参考書となる. 個人的には今まであまり familiar でなかった, KAKASI や ChaSen についても知ることができた. また, 使用中のディストリビューションはそのままで基本的に日本語対応しているので, kterm や rxvt は何もせずに使えているが, 本書を読みながら改めて各種の設定ファイルを眺めなおし, 日本語設定について理解を深めることができた.
日本語環境設定のうえで重要となるとおもわれる locale 指定の考え方や設定についても,
付録を含め説明がありアプリケーションの日本語化設定についてよく理解することができた.
さらに, 付録には, ちょうど最近悩んでいた, X 関連の設定ファイルである
.Xdefaults
と .Xresources
についての説明もあり, 非常にありがたかった.
全体的には, おおむね満足できる解説ではあるが, 細かい点での不満を述べたい.
まずはじめに, この本に限らずソフト関連の解説書に一般的にいえることであるが, 説明が文章と, スクリプト, プログラムリスト, 画面のハードコピーからなっており, その他の図表が少ない点である. 具体的設定等はこれで問題ないが, 概念的な説明ではそのための図表が必要となる. 本書においても第 2 章において, 文字コードが説明されているが文字コード表が無いので文章だけでは難解である. また, 入力処理についての XIM, Emacs 等のクライアントと Cannaserver 等の関係についても, 月刊誌の日本語処理の解説に同様の内容において色々図表が有ったことを思うと, 日本語処理の総合参考書としてはもう少し専用の図表が欲しい.
フォントの設定関連も一通り記述されているが,
特に拡大変形が容易でしかもきれいな字体が得られる TrueType Font 関連の設定に fonts.alias
関連の設定説明がなく,
もの足りなさを感じた.
また, VFlib に関しても記述が少なく,
ディストリビューションの一般的な説明にページを割くなら, こちらを充実して欲しい.
索引も一応ついてはいるが, 項目数が少ない. 思いついた言葉を引こうとすると, 記述してあるにもかかわらず見つからないことも結構あった. 内容のある本だからもっと, 項目数を増やして欲しかった.
あと, GUI 中心のインタフェースが趨勢であるのでしかたないかもしれないが, KON での用法の解説 (表示文字コード, 入力コード) が不十分. 入力処理では, canuum の説明が無い. 日本語化が進むとコンソールも日本語表示となるが, KON を使用しないと文字化けしてしまうので, やはり KON も捨て難い.
日本語環境についてのまとまった書籍はなかったが, 本書は通して読んでみても良いし, 何か設定するときにそこだけを拾い読みしても良いといった, 参考書としてはうってつけである. ただし, 初心者が手にとってみてすぐ分かる内容ではないし, 設定についてこまごま書かれているわけではない. そういう意味で, ヘッドラインには「ただし手取り足取りには今一歩」と書いた. 本書の巻頭にも初心者向けではないとあり, これで良いのかもしれない.
いずれにしても, 私にとっては全体が見通せなかった日本語設定が, 本書を読んでなんとなく分かった気がしてきた. ディストリビューションから与えられたものだけでなく, 自分で日本語化を色々やりたいと思うなら読んでみても損はない.
実はこのレビューを書く際, 弟に 「この本を基に Slackware7.1 を『素から』日本語化する様子を書け」と言われたのだが, 私としてはそういうつもりはさらさらなく, 技術的な話よりも思想的な話に興味があった. 「LINUX 日本語環境」と大きく構えたタイトルであるので, 技術的な内容を書いていたらとても 1 冊ではまとまらんだろう, とも思い, きっと思想や概念を語った本なのであろう, と勝手に想像していた.
しかし, 実際には技術的な内容をむしろ重視し, 概念や思想については全体の 1 割程度に留めている. 技術的な内容については, 根幹となる技術について詳述し, 比較的重要でない部分については URL の紹介に留めるという方法で, 広くそして局所的には深い記述となっている. もしかするとこの本だけで「素から」日本語化することもできるのかもしれない (あまりやりたくないが).
総じて言えば, 日本語環境というものに関する幅広い知識と参照点が得られるので, 買って損はないと思う. 「日本語環境の実現のためにどのようなことが行われているのか」を知るためにはよい本だと言えよう.
日本語環境に関する概念的な話としては, Linux と日本語との関係を述べた 1 章と, 文字集合とエンコーディングについて述べた 2 章が挙げられる. 私が主に読みたかったのはこの部分である.
1 章ではローカル化, 国際化やマルチリンガル化について述べられているが, 1.4 の趣旨である「日本語環境はほとんどマルチリンガルである」という内容については大いにうなずける. 一度とあるゲームのローカル化を試みたが, gettext を用いて国際化を指向しているように思われたにもかかわらず, 実際には日本語化しようとすると問題が多発して挫折したことがある. それぐらい日本語環境というものはむずかしい.
2 章では, 文字集合とエンコーディングという, 別な本として書かれてもいいような内容が 24 ページに要領よくまとめられている. 少ないページ数の割には, 各種エンコーディングの紹介に留まらず, 正規表現が多バイトエンコーディングを扱う場合に生じる問題点にも触れている. 限定的ではあるが対処法についても記述してあり, 非常に有益である.
しかし, コンパクトにまとめようとしたせいか, 現在議論の対象となっている内容や歴史的な経緯についてはあまり触れられていない. 例えば, p.23 において, Unicode についての議論と関係して 「いま日本語が危ない 文字コードの誤った国際化」 (太田昌孝) が紹介されているのだが, その議論の内容についてはほとんど触れられていない. また, locale の指定として ja_JP.ujis ではなく ja_JP.eucJP を使用した方がよいということが p.154 (と p.342) に書かれているが, もう少し歴史的な経緯などを書いてくれた方がいいように思う. もちろん, より詳しい情報を得るための URL が記載されてはいるのだが.
ちなみに, ローカル化や国際化には欠かせない locale や gettext については 「5.2 X Window システムの設定」で触れられている.
先にも述べたが, 全てのソフトウェアに関して技術的な話 (使用法など) を詳述しているわけではない. 大抵のソフトウェアについては, インストールまでを簡単に記載して, 後は man や info, あるいは Web ページを参照せよ, という形態である. 話題の広さから考えればむしろ当然であると言えよう. ほとんどの項目については公式 Web サイトの URL が掲載されているので, この本から大抵の情報源にはたどっていけるのではなかろうか.
しかし, 日本語環境の根幹に関わる部分についてはそれなりに詳しく記載されている. 即ち, X の設定 (特にフォント), 日本語入力システム (Wnn, Canna 等), そして Emacs 系エディタによる日本語入力である.
例えば, Wnn については, インストールから設定方法, 実際のキー操作に至るまで述べられている. 初心者がなかなか気が付かない辞書ツールやサーバ管理用ツールについても触れられていて, 非常に親切である. (しかし, 入手方法について, 「FreeWnn ホームページに…」と書かれているにも関わらず URL が記載されていない. 私の見落としか?)
Emacs についてもコンパイル方法から .emacs
の設定まで, 一通りのことが書かれている.
また, 漢字フィルタ nkf のような比較的有名なツール以外にも, KAKASI のような使ってみると意外と便利なツールも紹介されているのがうれしい.
なんというか, 随所にニヤリとさせられることが書かれているのである. ニヤリと言うよりもビックリと言った方がいいかもしれない. 例えば, Kondara の説明文中 (p.30) には, 「… (コミュニティの) 完全な理解のためには数十巻におよぶ『北斗の拳』など, 大量のドキュメンテーションを読破する必要があり…」などとある. 確かに, Kondara Project 日誌には「アミバ様」などというタイトルがあったりする.
また, p.220 ではあのコスプレ時計ソフト「Emiclock」が「その他のユーティリティ」として取り上げられている.
最新バージョンは 1999 年の 2.0.1 だそうである.
いまだにバージョンアップされていたとは….
で, これはどのあたりが「日本語環境」なのであろうか (^^;)
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ユーティリティとしてはネコのマウスカーソル「oneko」も取り上げられている.
さらに, カラー VT102 エミュレータ rxvt の説明 (p.188) によれば, 「2.6.0pre 以前のものには, 『藤原紀香』とペーストできないバグがある」そうである. その他, p.197 にも若干気になる記述がある.
うまく言えないが, 日本のハッカーコミュニティにおいて共有されている語彙や重要な概念を紹介することによって このコミュニティの雰囲気を伝えようとしているのかな, とも思われるし, ある程度成功しているようにも思われる. アメリカのハッカーコミュニティにおける「モンティ・パイソン」や「スタートレック」に対応する概念が 日本においても存在しますよ, というところか. 実際, 「はじめに」でも「日本語のソフトウェアをめぐるフリーソフトウェアコミュニティにきちんと敬意を表したい」 (p.vii) とあり, 著者の意図がそのあたりにあることをうかがわせる.
しかし, 「藤原紀香」が日本のハッカー文化における重要な概念だ, という意見は受け入れがたいし,
p.147 で公式 X-TT ホームページが記載されているにも関わらず
X-TT のコードネームである「マルチ」「松原葵」について全く触れられていないのも個人的には許しがたい :-p
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私の想像するハッカー文化からずれているように思うのは,
私の親しんでいるそれが fj 文化 (あるいは japan 文化) だからなのだろうか.
よくわからない.
これまで述べたように, 本書で対象とされている範囲は実に広大である. しかし, 読者はもっと狭い範囲のトピックを求めて本を買うのではなかろうか. もう少し話題を絞って記述を深めた方がよいようにも思われる.