(株) オーム社
様のご厚意により,
書籍 "今日から Debian GNU/Linux" を
JLUG ブックレビューコーナー にご献本いただきました.
この本のレビューをして頂くべく,
Linux Users ML
において公募を行い,
これにご希望頂いた方々より感想などをレビュー記事にまとめていただきました.
ここに, レビューアの方々から寄せられたレビュー記事を公開します. (原稿到着順)
オーム社 様および レビューアの皆様のご厚意に感謝いたします.
なお, 以下のレビューは初版を対象としています.
楽しく読み終えることができました. もちろんそれなりの苦労はおありだったでしょうが, 著者自身楽しんで書いてらっしゃるように感じられるのが, 本書の美質でしょう. 文体も比較的読みやすく歯切れのいいものになっています.
また, 類書の中では比較的薄いことも, 手にとった人の多くが感じることでしょう. はたして膨大なパッケージを含む Debian GNU/Linux を操るのに必要な情報は得られるのか? しかし, GNU/Linux ですばやく使える環境を築くための, 精選された情報がまとめられ, さっとシステムの概観を得られるような情報整理は, リファレンス・マニュアルではない入門書に必要なコンセプトであるはずです. そうした狙いそのものは, 優れたものだといえるでしょう.
さらに, インストール後の設定などで, 入門者がはまりやすい点を回避できる Tips 集として 有益なものになっていると思います. 書籍としての体系的な構成を重んじると, システムの使い勝手をぐっと変えるような ちょっとした知識が省かれてしまうことも多いようです. そういった知識も本書の各所に散りばめられています.
しかし一方で, はたして「UNIX が初めてという人にも十分使えるよう, ユーザの立場から」 (本書「はじめに」より) 書かれているといえるかどうか 疑問に感じるところも目につきました. 著者なりの考え方によるものかもしれませんが, 特に構成面では入門書としては, いかがなものか, と思える部分が多く残っているように感じました.
入門書としての読みやすさに工夫があります. たとえば, インストール方法の選択についてのフロー図が示されていることなど (p.38, 39), その典型でしょう. 入門者にとって, インストールは一大事業. いくら説明がていねいでも, 順を追って全部目を通さなければ全体像が把握できないようでは, 気力が萎えてしまうものです. 作業のロードマップが細かな説明の前に提示されるのは大切なことです. その割に, こうした工夫を凝らした類書は見当たらないように思うのですが, どうでしょう. ただし, CD-ROM ブートの際の英版インストーラが, Source Disk の方に収録されていることなど, 肝心な点が書き落とされているといった細かなアラが残っています. こうした工夫は尊いものだけに残念なところ.
役に立つ情報が随所に散りばめられています. たとえば, 私にとって「.emacs の設定」 (p.199) などが, そのようなものでした. 恥を忍んでいえば, 私はここを読むまで auto-compression-mode 関数を知りませんでした. そのため, 必要な info ファイルを, いちいち展開して使っていました. 初心者にとって, Emacs/Mule のインフォモードは重宝するものですが, これでホイホイインフォが使えるようになりました. sudo コマンドも私にとってはありがたい知識でした. 周囲にユーザがいる方にとっては, こういう知識は FAQ 以前の知識なのかもしれませんが, そうでないユーザにとってこの手の知識は大いにありがたいものです. 知ると知らないとでは, 使い勝手がまるっきり違ってくるんですから.
YaTeX の紹介 (p.212) もそうした知識に入るかもしれません. YaTeX を使えば, LaTeX 入門の敷居は, 極端に低くなります. にもかかわらず, Linux の入門書の多くは, LaTeX は紹介しながら, YaTeX について触れていません. まして YaHTML となると, 皆無といっていいでしょう. こうした情報は, 追い追いインターネット経由で知ればいいというものではなく, 入門者にとっての, Linux (本当は Unix 全般なのでしょうが) の使い勝手の印象さえ大きく左右するものだと思います. そうした点に目を向けているところは, 優れているところでしょう.
CD-ROM に著者独自のお勧めセレクションパッケージが用意されている点も親切です. Debian のパッケージの多さの前でたじろぐユーザも多いのではないでしょうか. 基本的なインストールを済ませた後, 自分で環境をすべて整える, というのも, たしかに潔い選択かもしれません. しかし, 初めて Linux に触れる者にとっては, 入門書の著者自身のお勧めパッケージが最初から設定されているのは ありがたいことです. さらに dselect の使い勝手を格段に (!) よくする apt がついてくる点も 見逃せないでしょう.
以上の他にも本書には優れた点があると思いますが, しかし入門書としては難アリというのが率直なところです. 入門者にとって, 入門書の構成はただちに環境を整えてゆく道標であり, 手順そのものなのではないでしょうか. ところが本書では, 先に触れた YaTeX が, 参照関係の明示もないままに, LaTeX の紹介がなされない段階で紹介されているといった構成が目につきます.
また, セレクションパッケージと本文記述の関係が はっきりしないことも気になります. まず, せっかくのセレクションパッケージについて説明がなされていません. CD-ROM 中のファイルにセレクションの名前は記されていますが, それらがそれぞれどういうお勧めなのかの説明は得られません. 後はドキュメントファイルなどで自習せよ, ということでもなさそうです. たとえば, セレクションパッケージで導入済みの alien について, 改めてインストールする必要があるように読める記述 (p.182) があります. 実害があるような事柄ではありませんが, せっかくのセレクションパッケージのアイディアが活かされていない点として 指摘できると思います.
入門書としては, ? が残るようですが, 『一歩本』や第 8 回レビューで取り上げられた武藤さんの著作などの 分厚い本と併読するには, うってつけの書籍であるように感じました. インストールも済ませて, 自分なりの環境作りをしたいけれど……と 考えている人にも向いているかもしれません.
あるいは, 書籍のみで考えてしまうから, 入門者向きではないと感じてしまうのかもしれません. 芳尾さんは本書に関するフォローを ホームページ 上でもやってらっしゃるし, メイルでの質問にも快く応じて下さいます. 私自身本書に関して, 著者にとって必ずしも快くは受け止められないような質問をメイルでしたのですが, ていねいなご返事をいただくことができました. そうした著者とのコミュニケーションを前提に考えれば, 入門書そのものの性格が書籍の形で完結しない時代なのかもしれない, とも今さらながら考えました. 本書巻末で紹介されている, 広瀬さんの『やさしい Emacs-Lisp 講座』でも Web ばかりでなく, メイリングリストでのフォローが行われているんですから, ブックレビューも, 書籍だけで考えるのは不足かもしれません. こうしたあり方は, 周囲に Linux ユーザがおらず, コンピュータそのものにも疎い私のようなものには, ありがたいものです.
さまざまなビジネスの動きに翻弄されかねないところにいる Linux の動向の中で, Debian GNU/Linux は, 色濃くフリーソフトウェア文化の雰囲気を残している ディストリビューションであることは衆目の一致するところでしょう (でもないかな?). かの RMS も Debian を使っているそうです. 芳尾さんからうかがった話では, slink では vrms(ヴァーチャル RMS) なるパッケージが収録されるとか. 一体どんなパッケージなのか, 気にかかるところですが, その RMS にして, "RMS is not the only person having difficulty installing Debian on his toshiba laptop."(Debian Weekly News - 5 to 11 Jan 1999) といったことも起こるディストリビューションでもあるわけです (toshiba ってあたりが問題だというわけでもないらしい). 本書のような積極的な試みが, いま少しの濃かさ (こまやかさ) を加えて, 一見とっつきにくくみえる Debian GNU/Linux の敷居を少しでも低くしてくれれば, と思います.
PC-UNIX の入門者にとって「これ 1 冊で十分」と言える内容の書籍は, なかなか見つかりません.
「man が基本」とは知りつつ入門者は, まとまった情報を一覧できる書籍についつい頼ってしまいがち. 最初に買った書籍に書かれていないアドバイスや決まりごとを, 2 冊目で見つけて問題解決につなげた経験のある人も多いでしょう. わたし自身,未だにそういう初心者であることを最初にお断りしておきます.
逆に言えば,1 冊目でつまづいてしまう人も多いのではないでしょうか. 極端かもしれませんが書籍との出会いが, その後の UNIX ライフを左右してしまうかもしれません. 「今日から Debian GNU/Linux 」 (オーム社) を「最初の 1 冊」のつもりで読んでみました.
Linux が商用 OS のようにプリインストールされて販売されることが少ない以上, ある程度使う人を選ぶのは仕方ありません. この本の筆者も「はじめに」のなかで「Windows をある程度使った経験があり, PC のハードウェア構成を自分で把握できる程度のスキル」を要求しています.
しかし, 書籍全体を通して感じられるのは入門者への配慮. コマンドラインの表記にも, 読みやすい活字を採用していて迷うことがありません.
ftp でアップデートした Slink をいったん消し, 記述にそって実際にインストールしてみました. ルートパスワード設定までの流れは, ほかの Debian に関する解説書とそう変わりません. 大きく違うのはパッケージセレクションから. dselect のアクセス・メソッドとして apt を指定しています.
一般的には CD-ROM を指定すると思いますが, apt を指定した方がパッケージの導入は圧倒的に短時間ですみます. また, 筆者が作成したパッケージのリストが付属するので, 通常のパッケージセレクションで standard や basic を選ぶより, 現実的な環境ができ上がるでしょう. リストの付属はこの本の大きなメリットです. 記述に従えばインストールで躓くことは, まずありません.
X Window System の設定では, 事前に自分の使用するサーバーを dselect などでインストールしておきましょう. dselect の使い方 (p79) で示されるパッケージ導入に関するアドバイス, 「少しずつ入れる」は,依存関係のチェックが厳しい Debian では特に, 無用に悩まないためにも鉄則でしょう.
こうした記述や,パッケージ・リストの付属など, 手取り足取りといった配慮が伝わってきますが, それ自体は決して筆者の本意ではないようです. 「はじめに」の記述に戻りますが「関連情報をできるだけ多く掲載するようにし, 読者が自力で問題を解決できるノウハウがつくよう配慮した」と述べられています.
ただウィンドウ・マネジャーとネットスケープの導入, 設定などについては, もう少し具体的に書いて欲しかった気がします. まずはインストールを成功させたい入門者には適した本書ですが, その後の活用を探ろうとする PC-UNIX 初心者には不満かもしれません. やはり 2 冊目, 3 冊目は必要になるでしょう. その際, 指針となる関連情報や書籍紹介は盛り込まれています.
関連情報に加え,比較的多めのコラムが掲載されています. 「ソースとバイナリコード」 (p7) では, マイコンからパソコンへと続く歴史の流れにも触れられています. この囲みの中に Linux の入門書では初めて, 世界初のマイコン「アルテア」の写真を見つけました.
「アルテア」の名称は, アメリカの有名な SF テレビ番組「スタートレック」に登場する惑星にちなんだもの. 60 年代に放送されたこの番組に登場する宇宙船, エンタープライズ号の任務は未知の世界を探索することでした. 当時の夢に満ちた宇宙観と, これからまだまだ発展するであろう Linux 界はなんとなく似ています.
この本をきっかけに, 新しい知識を求める旅へと読者を導く-. 筆者がそんなことを願っているように感じました.
今回レビューを書くことになりましたが私の無知, 勘違い, 読解力不足等で不正確な部分があるかもしれません. が, 感じたことをそのまま書いてみました.
自分の Linux の実力はインストールがなんとか出来て X Window System が動かせる程度です. Linux インストール歴 2 年半といった感じでインストールは出来るが 実際に使ってはいません. 普段は Windows98 を使っています.
はじめに気が付くのは CD-ROM の添付形状です. いままで CD-ROM 付きの書籍,雑誌を多数購入しましたが, その中でこれほど簡単に安全に CD-ROM を取り出すことが出来る物に出会ったことはありませんでした. INSTALL, BINARY, SOURCE の 3 枚の CD-ROM がビニール袋にパックしてあり, それが最終ページとなっています. 袋にはミシン目が付いていて書籍からの切り離し時に CD-ROM や書籍に傷を付けず簡単に切りはなせるようになっています. 他の出版社の方も是非確認していただきたい部分です. ちなみに私が以前購入したエーアイ出版のムックには SOURCE DISK が付属しておらず, 付属の葉書で応募してから 2 ヶ月半かかって手元に郵送されたことがありました. 繰り返しになりますがこの本「今日から Debian GNU/Linux」には SOURCE DISK が付いています.
今回は以前に断念した Debian GNU/Linux をこの機会に再挑戦し IP マスカレードとゲームを使ってみたいと思い レビューに参加申し込みいたしました. では早速,索引で IP マスカレード を引いてみましょう. 残念.この本のターゲットが UNIX 初心者向けの為か索引にはありませんでした. この本以外の複数の書籍でも索引に載っている物はごく一部でした. しかし, 索引は充実しています. 大変多くの項目があります. また「付録 C 参考資料」として URL やオーム社以外の書籍も含めて 67 種紹介されています.残念なのは紹介の順番に法則が見つけられないところです. 50 音順でもなさそうだし, URL と書籍も入り乱れています. 整理されているともっと便利になることでしょう. 書籍には ISBN も併記したらよいと思います.
3 章 9.1 節で CD-ROM から起動するとインストール画面はすべて英語表示となると書かれていますが, 私が INSTALL DISK から起動しインストールをした時は, 初めの起動時にはローマ字, インストール中のメッセージは日本語で作業が可能でした.
3 章 10.2 節等で DOS プロンプトでのタイプ例が
DOS> fdisk /mbr
となっていますが, DOS というサブディレクトリに見えなくもないので, プロンプトはむしろ注釈をいれて
A:\> とか C:\>
の方が初心者にはわかりやすいと思います.
表 3.7 LILO の起動時パラメータ では
append="mem=hogeKB" 64MB 以上のメモリを搭載している場合に使用する
とあります. 日本ではよく hoge という言葉を使うとの説明が 5 ページ後にされています. hoge 自体はその時に説明すべきですし, 具体的に 128MB, 96MB 搭載時にはというような複数の例があると さらに良いと思います.
8 章では商用ソフトのインストールが説明されていますが, 書籍に付属されていないソフトのインストールの説明までする必要は 無いように思います. 紹介はあってもインストール方法は無くてもいいと思います. それにページを割くよりも, せっかく付属している SOURCE DISK を使ってソースを見てみたりする解説の方が 今回の場合 CD-ROM も使えて良いのではないでしょうか? 逆に文中では SOURCE DISK の使い方が説明がされていません. 非常にもったいないと思います.
私が前回挑戦して挫折した大きな原因の一つに dselect があります. 直感的に解らなくて操作できずにイヤになり止めてしまいました. 今回は dselect の説明にも期待していました. キー操作の説明があり, 自分も多少上達したせいか, なんとか使うことが出来ましたが, もうすこし親切だと初心者の私は嬉しいです. 具体的にはあるソフトをインストールそしてアンインストールする操作手順を 画面の写真付きで解説してもらえたら良いと思います. この本に限らず Debian の書籍では dselect と付属の豊富なアプリケーションの解説が 大きなポイントになるのではないでしょうか?
筆者が作成したセレクションを使いインストールしましたが そのセレクションの説明がほとんどありません. すべてとはいかなくても, どのような物を選んだのか説明があってもいいと思うのですが.
インストール時に選択幅が多い場合は初心者は迷ってしまいますが 適時「これを選択」と説明があるので迷うことはあまりありませんでした. ある程度決めてくれた方が 迷わずにインストール作業を進めることが出来ると思います. また, 筆者の環境ではこのようになっていると具体的に例が載っていることも良かったです. そのおかげか無事にインストールを終了して X Windows System 上でゲームをすることが出来ました. しかし PC や私の設定が悪いためか X 上で固まってしまう事が何回かありました.
他のディストリビューションも数多く解説しながら Debian の特徴を説明しており, 好感が持てます. また,基本的な UNIX コマンドの解説もあります.
コンピュータ関係で多い B5 変 という大きさですが, このサイズは電車の中で読み辛いです. また出版業界全体に言えることなのですが, カバーやその外側にある宣伝文句の入った帯, これはコンピュータ関係書籍に限っていえば不必要なのではと思っています. というのはソフトやハードの寿命は非常に短い (サイクルが早い) ので何年も使うのは希ではと考えているからです. ましてや初心者向けのインストールがメインならば尚更. 資源がもったいないし, この分ページを増やしてもらったり, 安価にしたり, CD-ROM を増やしてもらった方が購入意欲が出ますよ! 紙質をもっと安い物に変えてもいいと思います.
時折, 関連事項のコラム欄があり, 私にはなるほどと思える内容が多かったです. 連続的に延々と説明がされるより時折このような物がある方が私は好きです.
2800 円 (税別) で CD-ROM 3 枚の入門書としては安価だと思いますが, 2500 円を切ってくれるとお買い得感が非常に増しますし, 購入しやすいです.
X Windows 上のゲーム xonix は非常に懐かしく面白かったです. みなさんも試してみてはいかがでしょうか?
-こんな人にお薦め-
Debian で UNIX の勉強がしたい初心者.
自分が考えるキャッチコピーはそのままですが,
「Debian で UNIX 入門!」かな.
Debian JP Project ではいくつかの Mailing List が運営されている. それを大きく二つに分けると, 一般ユーザ向け (Debian JP Users ML) か, 開発者向け (Debian JP Developers ML) かということであろう. この二つの間には歴然とした内容の差がある. Debian の利用者もおおよそこの二つのレベルに分けられると思う. 本稿は一般ユーザの立場で『今日から Debian Gnu/Linux』を評する. 私見による本書の概観および長所と短所は次のとおりである.
出版社による推薦文は次のとおりである.
(http://www.ohmsha.co.jp/data/books/contents/4-274-06300-3.htm より. 1999 年 3 月 31 日現在).
著者のホームページに記述されている本書の全体的特徴は次のとおりである.
(http://www2.osk.3web.ne.jp/~shishamo/debook1/ より. 3 月 31 日現在)
本稿では, 上記出版社と著者の推薦文 (2a および 2b) を参考にしながら論ずる. まず (2a) で述べられていることは次の一文に極まる.
Windows ユーザーが初めて Linux を使う場合を想定して, Debian の特長, インストールから各種設定までをやさしく解説する
これは, (2b) の次の一文と同様のことを意味している.
4 読みやすい
5 Linux や UNIX の全般的なことまで書かれている
6 Windows ユーザーを念頭においてある
出版社, 著者ともに共通するのは 「Windows ユーザー」を対象にやさしく書いてあるということである. 「Windows ユーザ」とは, 一般ユーザの中でも 特に Linux を始めたばかりというレベルであると考えられる. 「Windows ユーザー」という入門段階の一般ユーザを 本稿では「一般初心者ユーザ」という語であらわす.
本書が対象とする読者層は, 2a および 2b から一般初心者ユーザであると考えられる. しかし, 本書には「Windows ユーザー」という入門段階の一般ユーザ (一般初心者ユーザ) を逸脱するのではないかと思われる内容が含まれる. 具体的には目次の次の項目などがあたる.
6.5 カーネルの再構築
6.6 ソースパッケージからの Debian パッケージ構築
6.7 Debian パッケージのお手軽な作り方
6.8 パッケージのメンテナになるには
6.5 以下の節では, カーネルの再構築から Debian パッケージの構築, メンテナになる方法など, 明らかに開発者レベルの項目が続く. この節の前の 6.4 節の内容は「dpkg … パッケージ管理」である. これは一般ユーザには必要な内容でかつ易しく説明されている.
しかし次の 6.5 節では「カーネルの再構築」なので, 車でたとえると 「カーステレオのチャンネルの合わせ方」の次に 「ボンネットを開けてエンジンをはずし, 分解するには」が続くようなもので, 唐突である.
そもそも本書が対象としている Debian の一般初心者ユーザに 「カーネルの再構築」から「パッケージのメンテナになる」という情報は 必要であるか疑問である. Debian の数ある特長の中でも大きなものの一つは, システムを止めることなくカーネルでもアップグレードができるということである. カーネルの再構築は多くのリスクを伴うので, 一般初心者ユーザには Debian パッケージを使ってカーネルをアップグレードするに 留めておいた方がいいのではないだろうか (3 月 9 日にリリースされた Slink にはカーネル 2.2.x も含まれている). 「カーネルの再構築」という 5 ページ程の記述は一般初心者ユーザにとっては 十分な情報ではなく, リスクの高い情報であるといえる.
本書の著者は, 「ししゃもの Debian Linux 本書評」という 書評のページを書いている. そこである本について次のように述べている.
付属 CD-ROM が Debian なのに記述が Debian に関係ない記述が多いです. XEmacs のコンパイルなんて Debian には必要ないっす.
(http://www2.osk.3web.ne.jp/~shishamo/debian/book/bad.html より. 1999 年 3 月 31 日現在)
「XEmacs のコンパイルなんて Debian には必要ない」という意見は 一般初心者ユーザに対してはもっともな意見である. Debian のすぐれたパッケージ管理システムを前提にするなら, その指摘はまた著者自身の著作の「カーネルの再構築」にも 当てはまるのではないだろうか.
6.6 節以下の「Debian パッケージ構築」から 「パッケージのメンテナになるには」という記述は 高度に開発者レベルの知識を要求される内容であり, 明らかに一般初心者ユーザ向けではない.
第 11 章は「プログラミングしてみよう」と題されて, 「さわりだけ紹介する」ということで, 「シェルスクリプト・awk・Perl・Emacs Lisp・Tcl/Tk・C/C++・Fortran」 が紹介されている. 第 11 章の実質ページ数は 6 ページある. 6 ページの分量でこれだけの紹介は文字通り「さわりだけ」であり, 本書単独で有用な情報を得るのは難しい.
以上, 本章 (3) では次の点について述べた.
この節では, 本書が一般初心者ユーザにどのような情報を提供しているかについて記す.
著者は本書の特徴として「Linux や UNIX の全般的なことまで書かれている」 (2b) と書いている. Debian のインストールは比較的容易である. インストールガイドも Debian Gnu/Linux のホームページをはじめ, Web 上に多く存在する. また, 雑誌でも新しいバージョンが発表されると インストールの仕方の特集が組まれる. 書籍という比較的静的な形式が, ホームページや雑誌という動的なメディアに比べて価値があるのは, インストール以後の運用についての情報が盛られているかどうかである. この節では, 「Linux や UNIX の全般的なこと」について必要な情報があるかどうか検証する.
全般的なことにかかわる基本的なソフトウェアとして次のものを見ていく.
bash について基礎的な記述がある. bash については「 4.3 bash の使い方」で説明されている. しかし, 「.bashrc」の記述例は「5.1 環境変数」にあり, 記述されている場所が離れていて参照しづらい. 「.bashrc_profile」の記述例はないようである. 「詳しくは『bash 入門』などを参照してほしい」 と参考文献が示されている.
「4.5 エディタ」の節があり, emacs, vi, ae に触れている. しかし, 「.emacs」の設定の例は「7.2.1 emacs の設定」にあり, 章が離れているので参照しづらい.
emacs 上で SKK と Canna を使用して日本語を入力する方法を解説している. その他の方法については 「『Linux/FreeBSD 日本語環境の構築と活用』や 『UNIX 日本語環境』を参照していただきたい」 と参考文献が示されている.
TeX については, 「8.6 Debian と TeX」の節がある. しかし, その入力支援環境については, 「7.6.1 YaTeX … TeX 入力支援環境」と別の章にあり, 参照しづらい. AUC-TeX モードについては記述がないようである. また日本語を処理する場合によく使われる pLaTeX2e については 「『日本語 LATEX2e(原文のまま) ブック』などを 参照していただきたい」と参考文献が示されている.
「3.8 X Window System の設定」の節では, XF86Setup を使った設定の方法が分かりやすく説明されている.
しかし, 他に「4.7 X Window System 」の節があり, X 関連のドットファイルの設定については「 5.2 X Window System の設定」, 「7.2.2 .Xresources の設定」などがある. それぞれ「インストール」や「日本語環境」などに応じた記述であるが, 章が離れているためまとまった記述との印象をうけず, 参照しづらい.
X Window System についてはインストールやその後の設定について 問題が起こりやすい部分である. 設定ファイルである XF86Config ファイルは XF86Setup プログラムが自動的に作るのであまり気にする必要はないかもしれないが, XF86Config ファイルの例と説明が必要なところである. 本書は次のように参考になるサイトを紹介している. 「どうしても, ここで XF86Config ファイルを設定できない方は, 以下のウェブサイトなどを参照するのもいい. (以下略)」 (p95). さらに, 「X Window System についての詳細は 『入門 X Window 』などの書籍を参照していただきたい」 と参考文献が示される.
印刷についてよく起こる疑問は, 「私のこの非 PS プリンタは Debian で使えるのか? もし使えるとしたらどのように設定するのか?」ということだと思う. この疑問に対する一般的な答えが 本書では「5.3.2 非 PS プリンタの場合」として記述されている.
一般的でない場合については次のように参考文献が示されている. 「より詳しくは /usr/doc/gs 以下の use.txt を参照していただきたい」.
以上が, Linux , Unix 全般に渡る記述である. 著者が「本書以外に何を調べたらよいか分かる」 (2b) と述べているように, 必要な参考文献が 「〜 を参照していただきたい」 とほとんどの場合挙げてある. これは更なる情報をたどるためには重要な情報である.
しかしこれは同時に, 本書が独立の情報源としてはなりたたないという一面をも意味している. Web 上のサイトのようなダイナミックな情報源としての性質を本書は備えてはいるが, 書籍という閉じた体系としてのメディアに ダイナミックな情報源としての性質がなじむかというところが 本書の評価の分かれるところであろう.
以上, 本章 (4) では次の点について述べた.
ノートへのインストールについては一ページほどがあてられている (「2.3 ノート PC の場合の諸注意」). PC カードについてはいろいろな問題が起こることが考えられるが, これについては次のように記されている.
My Walking Linux Homepage (略) などを見て確認するとよい. どうしても使いたい場合は, 自分でデバイスドライバを作ってしまうこともできる. 詳しくは JF の PCMCIA-HOWTO などをどうぞ (p35).
一般初心者ユーザでデバイスドライバを書ける人はそう多くはない. もしそれほどの技量がある人ならばそれは開発者レベルの技量を持っている人であり, 本書の想定する読者層を逸脱している. また, 参照情報として JF が挙げられている.
第 2 章「インストールの準備」の冒頭で, ビデオカードと LILO の設定について次のよ うに記している.
何の問題もなく動くときはよいが, はまると面倒な項目だ. しかし, 一つひとつドキュメントにあたって調べていけば必ず解決する. (p24)
本書では「はまると面倒な」例はあまり挙げられていない. 例えば Debian に関していえば, dselect に関する項目として「3.6 dselect」がある. dselect の一般的な使い方については丁寧な説明がある. しかし, 使用中にエラーがでたり, 固まってしまったりした場合の 考えられる原因と対処法が記されていない.
必要なのは一般的な情報に加えて一般的に起こりやすいエラーに関する情報である. また, 「はまると面倒な項目」については参照文書を提示することが多い. これは本書が独立した情報源とならないことを示している. 文書へのポインタとしての役割を本書に求めるならばこれも良しとする. しかし, 情報の具体的な中身がほしい場合には さらに情報が実際に存在する場所を参照しなくてはいけないという手間がかかる. 読者としては「調べていけば必ず解決するドキュメント」が 本書そのものであってほしいと願う.
トルストイの『アンナ・カレーニナ』は次の一文で物語が始まる.
幸福な家庭はどれもよく似たりよったりだが, 不幸な家庭はみなそれぞれに不幸である.
一般初心者ユーザにとっては, Linux のインストールと運用についてもこれと同じことが言える. すなわち次のように言える.
幸福なインストールはどれもよく似たりよったりだが, 不幸なインストールはみなそれぞれに不幸である.
幸福なインストールはどれも同じようなもので インストーラのメッセージだけで事足りる. しかし, うまくいかない場合はそれぞれに原因が違う. インストールや運用がうまくいくときには 添付ドキュメント以外の情報はそれほど必要とはならない. 書籍などによる情報が必要なのは, 不幸なインストール (および運用) の時だろう. 本書では不幸な事例についての情報は 「〜を参照していただきたい」 という形式が多い. 「〜を参照」が頻出することからも分かるように, 本書の最大の特徴は参考ドキュメントへのポインタとしての役割である. しかし, ドキュメントへのポインタとしてならば, ポインタのみならずドキュメントの実体も備えている Linux JF(Japanese FAQ) に如くはないというのが結論である.