オープンソースソフトウェア

オープンソースソフトウェア レビュー記事

[ ブックレビューコーナー 目次 ]

オライリージャパン 様のご厚意により, 書籍 "オープンソースソフトウェア" を ブックレビューコーナー にご献本いただきました. この本のレビューをして頂くべく, Linux Users ML や本サイトにおいて 公募 を行い, これにご希望頂いた方々より感想などをレビュー記事にまとめていただきました.

ここに, レビューアの方々から寄せられたレビュー記事を公開します. (原稿到着順)

オライリージャパン様および レビューアの皆様のご厚意に感謝いたします.

なお, 以下のレビューは初版を対象としています.


Reviewed by 古澤啓文 (hiro@remus.dti.ne.jp) さん

Linux の使用歴
2 年
UNIX の使用歴
2 年
Linux Box の主な用途
文書作成; メール・ニュース・ Web 環境; 会計処理; チェスなどゲーム
Linux Box に載っている Linux 以外の OS
Windows98
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
Linux:Windows = 95:5

レビュー

この本は近年のいわゆるバザール方式によるフリーソフトウェア開発の成功について 解き明かすものである. 内容はフリーソフトウェア開発者及びそれらフリーな製品をうまく活用し ビジネス的に成功しているオープンソース革命の主役たち自身による アンソロジーの形態をとっている.

内容を分類すると,

となる (詳しくは http://www.oreilly.co.jp/BOOK/osp/contents.htm 参照). このうち特に読みごたえがあったのは, この本の副題が「彼らはいかにしてビジネススタンダードになったのか」 とあるだけに (原書タイトルは Open Sources: Voices from the Open Source Revolution となっている) ビジネスモデルやライセンスに関わる章についてである. オープンソースのソフトウェアを ビジネスに活用するにあたっての指針が述べられているが, これを理解するためにはハッカー文化についての理解もまた必要とされる. そしてそれはこの本の中にあるのである. 面白く実用的な書籍だと思った.

雑感・要望

全体を通して気付くのは彼らはとても謙虚である, ということだ. 景気のいい業界ではいやに威勢のいい話が聞かれるものだが, 長続きしない. このあたりに十数年の静かな活動を下積みにした この流れの「本物」さが感じられる.

邦題では「ソフトウェア」の言葉と「ビジネス」という副題が付け加えられているが, これは現在の日本の Linux に対する関心のありようを特に示しているように思う. オープンソースを単なる良質のソフトウェアを開発するための手法ととらえ, ビジネスにその成果のみを利用できるという誤解は, この本を熟読するなら生じないはずだと思いたい.

原書は素晴しいことに GPL に基づき http://www.oreilly.com/catalog/opensources/book/toc.html にて公開されている. ところが (他のいくつかの O'Reilly の翻訳版にもいえることだが) 邦訳版はクローズである. 訳者, 出版社いずれの問題かは分からないが, よりオープンな形での公開が執筆者一同や O'Reilly の意向に沿うものではないかと思う. 今後変わっていくものと期待してやまない.

Reviewed by 幸谷智紀 (tkouya@cs.sist.ac.jp) さん (HomePage)

Linux の使用歴
3 年
UNIX の使用歴
7 年
Linux Box の主な用途
メール・ Web ・ Samba サーバ, 数値計算用として利用
Linux Box に載っている Linux 以外の OS
なし
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
サーバとしてなら 9:1, クライアントとしてなら 2:8.

初めに

本書と, 本書発行の前月に同じ出版社から発売された 「インターネットヒストリー」は, 兄弟本という位置づけであるらしい. 「インターネットヒストリー」の表紙のあおり文句も 「オープンソース革命の起源」である.

弟分 (?) に当たる「オープンソース」も, その当事者達が執筆しているという点で貴重な本だ. まず苦言を呈したい部分について触れ, 次に内容を賞賛しようと思う.

苦言

この本が届く前に, 山形浩生氏がこの本の翻訳について 苦言 を呈していることを 中村正三郎氏の Web ページ で知った. そこで私も自分の英語力を省みず, 気になった部分だけ 原文 と比較してみた. 二箇所, 指摘しておきたい.

一つは P.369 の

「さらに重要なのは, Perl はインタープリタでコンパイルされないので, テキストとしてウェブページに記述されている.」

という文. これだと, PHP や JavaScript と同様, HTML ファイルに Perl スクリプトを埋め込んでいるように解釈される恐れがある. これに当たる原文は

"Even more important, because Perl is not a compiled language, the scripts that are used on web pages can be viewed, copied, and modified by users."

の一部だと思われるが, 変に手を加えず, 「Perl はコンパイルされる言語ではないため, Web ページ上で使用される Perl スクリプトは・・・」 と直訳した方が良いのではないか.

もう一つは, 14 章の英語タイトルが 12 章と同じ"The Open Source Definition"になっている点. 原題は"Freeing the Source: The Story of Mozilla"である.

単純なワープロミスと思われるものも多く, 十箇所見つかった. コンピュータ関連書ではよくあることだが, この本が訳者の言葉にあるように 「いろいろな人に読んでほしいものだと思」って訳されたものであるなら, 通常のビジネス書程度の品質は維持するべきだ.

苦言の最後として, 付録 B に GPL の日本語訳がなく, 英語の原文だけが掲載されていることをあげておく. GNU Project に馴染みのない日本のビジネスマン読者の啓蒙のためにも, ぜひ日本語訳の収録をお願いする. なお, GPL の日本語訳は GNU の日本語ページ から辿れる.

賞賛

内容は素晴らしいの一言に尽きる. オープンソースという理念に疑義を持つ人が周囲に存在するなら, この本を一読するよう強制すべきだ (但し, 前述の細かいミスは見逃してもらえるよう懇願する必要はある). 何せ執筆陣がすごい. 語り口も面白いし率直である. が, それで終わってしまってはレビューにならないので, 章ごとの概略と感想を簡単に記しておく. 執筆者についての情報は O'Reilly Japan のページ から辿れる.

  1. 本書の編者がオープンソースの理念をわかりやすく解説している. 科学技術の発展は情報公開によって成り立っている, ということを具体例 (遺伝子の二重螺旋構造の発見) で示している所は説得力がある. 本書全体を読む前の概論として頭に入れておくべき事柄も要領よくまとまっている.
  2. オープンソース運動の主唱者が Hacker 文化の生い立ちを要領よくまとめている. 運動の歩みについては最後の章で述べている.
  3. BSD 開発の歴史と, USL 社との訴訟合戦のことを当事者が語っている.
  4. IETF の活動と RFC 採択の仕組みが短くまとめられている. インターネットにおける技術標準の確立方法を知りたい人は必見.
  5. GNU Project の歩みと理念を Stallman 自ら端的にまとめている. 結論部では, Stallman の唱える"Free software"という言葉の意味と, この本の主題でもある"Open Source"という概念との違いについて触れている.
  6. GNU ツールの開発とサポートをビジネスにした Cygnus 社の辿った, 決して平坦ではない道のりが理解できる. 技術的にもビジネスの方法論としても参考になる.
  7. オープンソースコミュニティの作るソフトウェアの品質に疑義を持つ方は必見. 「オープンソースの場合, ソフトウェア工学を厳しく実践しないが故の苦境を味わうまでに時間がかかる」 という指摘も率直になされており, 日曜プログラマの私は大いに参考になった.
  8. Linux の生みの親が Linux Kernel の開発現状と将来について, 冷静に語っている. その冷静さは, 技術はいずれ乗り越えられるもの, Linux も例外ではない, という言葉からもうかがえる.
  9. RedHat 設立者が自身のビジネス戦略を語る. 私としてはすこし観念論に走りすぎていて, 具体的な RedHat 社の歩みがあまり語られていないことにちょっと不満を持った.
  10. Perl 開発者による禅問答のような散文である. 説明の仕方はさすがと思うが, 初めて Larry Wall の文に触れる人は面食らうのではないか. それもまた楽しみである.
  11. 「ビジネス戦略としてのオープンソース化」というタイトル通り, ビジネスマンの方々必見. 「オープンソースの開発方式は, 特効薬ではない」という言葉に象徴されるように, 客観的な視点でオープンソースビジネスの方法論を述べている.
  12. オープンソースコミュニティに存在する複数のライセンス形態について, その違いや利用の仕方を上手に解説している. これも, ビジネスとしてのオープンソースを考える上で是非とも読んでおくべきだろう.
  13. O'Reilly 社の創設者自ら, Web を中心とした"Infoware"の時代に入りつつあり, その土壌はオープンソースのソフトウェアによって養われてきた, ということを解説している. 今となっては常識かもしれない.
  14. Netscape 社が自らのソフトウェアをオープンソース化し, Mozilla.org を設立するまでの困難な歩みが率直に語られている.
  15. 主唱者自らオープンソース運動の歩みを語る. 最後に今年 (1999 年) の予測をしている. 全体として楽観的すぎるが, 当たっているところもある.

「付録 A」は, かの有名な Linus B. Torvalds 氏と Andy S. Tanenbaum 氏との論争の翻訳である. 貴重な Linux 誕生当初の基礎資料である.

結論

オープンソースという思想を広めるためにはバイブルが必要である. 本書はそのバイブルたり得るものである.

そのバイブルの訳書が, 原文のオープンソース化のおかげでミスの訂正ができた, などという皮肉な例にならないよう, 出版社には第 2 刷以降での訂正を切に望みたい. そうなれば, 大手を振って周囲に本書を推薦できる. 現状ではミスに寛大なソフトウェア関連の人にだけ推薦, といったところか.

Reviewed by 斎藤匡 (tad@bay.wind.ne.jp) さん

Linux の使用歴
・ Live Linux Lite をちょっとさわった.
・ Vine のインストールをやるだけやった.
UNIX の使用歴
なし
Linux Box の主な用途
それ自体の勉強とプログラミングの修行 (に使っていきたいなぁ…)
Linux Box に載っている Linux 以外の OS
Windows 98
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
(限りなく) 0 : 1

はじめに

はじめに断らせていただきますが, 僕はまだ高校生の子供で, かつ, お察しの通り, Linux 初心者です. 今回は, これまでのレビューとは違う読み物系だから, 僕でもできるんじゃないのかな…という考えと, Linux に関わる先哲方の言葉をなんでも聞いてみたい! ウォー! という勢いだけで, 応募してしまいました. なので, 皆さんにとって 「なんだ, こいつ!」的な検討外れの事を書いてるかもしれませんが, タコなりに正直に書いたので, 許して頂けると, とってもウレシイです.

この本は…

さて, この「オープンソースソフトウェア」は, ひとつの「オープンソース」というキーワードに基づいて一冊がまとまっているものの, 各章別々の方がそれぞれの分野について書かれています. なので, 読み物として飽きることはないし, 一人の人が書くよりも内容の傾きが少なくなっているともいえます. 特別 Linux に限定された本では, 全くありません (リーヌス氏の章はありますが).

ですから, オープンソースの成り立ちをまったく知らない学生・社会人の方々にも, とてもおすすめできます! 僕がこの間までそうでしたから… 実際, まったくタコな僕は, 執筆陣の名前の, 半分も知りませんでした…. が, 第 1 章「はじめに」で概要が語られて, エリック・レイモンド氏による 第 2 章ハッカー概略史につながっていく最初の構成は, 僕にも分かりやすく, かつ面白く読めてとてもよかったと感じました. ここから, さまざまな視点からの「オープンソース」の分析が始まっていきます. …ということなのですが, 全てについて書き切るのは無理そうなので, 他の章の感想は別の方にお願いし, 僕が「おもしろい!」と思ったいくつかの章を中心に, 以下多少詳しく書かせていただきます.

気になった章

第 2 章 真のプログラマたちの国 - 概略史は, 「伽藍とバザール」のエリック・レイモンド氏が ハッカー文化の歴史についてつづった章です. 世界最初のコンピュータといわれる ENIAC の時代から今に至るまで, 「真のプログラマ (hacker)」たちがどのような立場に置かれていたかが 分かりやすく描かれています. これは, 初心者必読という感じの内容でした. 誰でも一度は目を通すべき, 客観的にまとまっている「歴史書」です.

第 6 章 シグナスソリューションズ社の将来性は, シグナスの創業者の 1 人であるマイケル・マーティン氏によって書かれた, 同社のオープンソースビジネスのサクセスストーリーです. しかし, 「創業者の 3 人はみなビジネスの素人だった.」そうです. その素人が, いかに巧みにオープンソースを使い, 会社を成功に導いたかが書かれています. この章や, Apache の中心メンバー, ブライアン・ベーレンドルフ氏が書いた第 11 章あたりは, 現実にビジネスをしている方は特におもしろく読めるのではないでしょうか.

第 8 章には, やはり触れないといけないでしょう. リーナス・トーバルズ氏による, 「Linux の強味」です. Linux の技術的な側面に, 結構ページ数を割いています (マイクロカーネルについては, 付録のディベートの中にもあります). 開発開始当時からしても, リーナス氏がやろうとしていた事がいかに困難だったかが想像できます. 「単一のソースコードツリーの中に, …各アーキティクチャに依存するディレクトリツリーを整理して持つようなシステム」 という, リーナス氏が求めたスマートなシステムが, 今カタチになっているのは, ほんとに奇跡なのかもしれません.

最後の章, 第 15 章は, 第 2 章と同じくエリック氏による, 「真のプログラマたちの回帰」についての章です. そのきっかけは, いうまでもなく「Linux の出現」です. 彼の言葉を借りれば, 「Linux は, あまりに出来が良すぎたのである!」 彼はこの章の中で, 客観的に, オープンソース運動の推進への戦略, その未来を書いています. マーケティング戦略として彼がとった行動を追っていくと, とても彼の頭が切れるのが分かるし, 苦労に次ぐ苦労があった (そして今もある) 事も想像させます. しかし, エリック氏の分析はいつも現実的です.

ちょっと思ったこと

ところで, この本には, 付録として

がくっついています. ディベートやオープンソースの定義は興味深く読めました. しかし, GPL が英語なのはちょっと…. GNU 公認の日本語訳も出回っているはずでしたから, そちらを載せていただけるともっと良かったと思いました. また, オープンソースの定義 の 第 1.0 版 はかなり古いと思います. これを書いている時点では, 英語の 原文 はすでに 7 回 改訂済みで Version 1.7 となっていますし, 八田真行さんの 日本語訳 は 3 月 に完成しています. 原文の更新時期はそれ以前でしょうから, 最新の原文にあわせた変更が可能だったはずです. できるだけ新しい情報を扱うべきだと思いました. あと気になったところは, 誤字・脱字が結構見受けられたところでしょうか. 次版での改善を望みます.

なんとかまとめると

やっぱりこの本は, いろんな人に読んでもらいたいと思います. …というのではいいかげんですが, 僕が一番読んでもらいたいのは, オープンソースというものの存在に興味を持ち始めた, 僕みたいな初心者の方です. 1 冊で, これだけ多角的に「オープンソース」というひとつのテーマを見られるのは, この本くらいではないでしょうか. そういう意味では, Linux の経験が深い方でも, 楽しめる本なのかもしれません. 特に, 第 10 章のラリー・ウォール氏の文章と挿絵はまさに 「Artistic」でおもしろいと思いました. 結論としては (多少の誤字・脱字を無視しても…), おもしろい本だといえるでしょう. とりあえず手にとって見ても悪くない本です. (特にそこの学生さん!!)

最後に

最後に, 本を提供していただいたオライリー・ジャパン 様, そして何より僕にレビューの機会を与えてくださった Webmasters ブックレビュー企画担当の方, ありがとうございました. 本当に感謝しています. そしてここまで読んで下さったあなたへ, 深く感謝します.

Reviewed by 大内邦敬 (kuni@sunlaw.co.jp) さん

Linux の使用歴
8 年
UNIX の使用歴
18 年
Linux Box の主な用途
サーバー (メール, ファイル, DNS etc)
Linux Box に載っている Linux 以外の OS
無し
Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
1 : 1

この本を読んで最初に感じることは, 「情報のビックバン」が今まさに進行中であるということである. 18 人にのぼる様々にオープンソースにかかわってきた人たちが 夫々の立場から語るこの論文集は, ビックバンによって派生した大きな破片の一つ一つであり, それらは, 間違いなく世界を変えて行くことを予感させるのである.

特に GNU / Linux / Apache といった, 現在業界で標準となっている技術を開発してきた方たちの生の声が聞けるという意味で, こうしたビジネスに参入しようと計画している人は是非読んでほしい本となっている.

内容的には, 編集者が一般の人たちにもわかるように書いたと言う割には専門用語も多く 読みこなすにはかなり骨が折れる作業であろう. しかし, それは我々がこうした歴史について基礎的な知識が乏しいことによるものであり, 内容的に難しいことが書かれているわけではない. むしろここ 20 年間に起きた ソフトウエア工学における記念碑的な現象について知る意味においては, 歴史伝記物として読んでも十分価値がある.

この本が主張していることが, もしあるとするならば, それは情報の共有化は, はたしてビジネスになりうるかということである. そして, バザール方式のソフトウエア開発の成功とその発展の姿は, まさしく情報の共有化がビジネスになりうるばかりでなく, 21 世紀における人類繁栄への基礎要項であることを明らかにしている.

科学の発展は常に, 正しい情報の共有を基になされてきた. それに対しビジネスは情報を独占することで 利益を最大にすることが出来ると考えられてきた.

しかし, 今まさに, こうした従来の常識を覆す現象を 眼のあたりにすることが出来るようになったのである. 情報とは共有する人が増えるほどその価値が増すという, 従来の経済理論からは推論できない異質なものであり, それを最もアグレッシブに扱っている人たちが まさしくオープンソースに関わっている人々であることが この本を読むことでわかるであろう.


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