すでにお気づきの方もいらっしゃるかも知れませんが, Linux の各ディストリビューションを紹介していた コンテンツ (URL でいうと http://www.linux.or.jp/distributions/ 以下) の公開が停止されました. 現在では, 各ディストリビューションへのリンクのみを Linux 関連リンク/ディストリビューション としてまとめる形になっています. ディストリビューション紹介のページは www.linux.or.jp (以下 wloj) のコンテンツの中でも 引用されることが多かったので, 廃止することの是非については Webmasters の内部でもいろいろと議論がありました. このコラムではその一部を紹介し, 今後 wloj が進むべき道を考える一助としたいと思います.
distributions/ 以下のコンテンツ (以下 dists/ と略します) は 1998 年 10 月の www.linux.or.jp のリニューアル にあわせて執筆されたページでした. 当時は Linux がブレイクする直前で, 「Linux とはなにか」 「Linux を使うにはどうすればいいか」 「ディストリビューションとはなにか」 といった解説記事を wloj に置くことが, 利用者にとって大きな意味を持っていました (少なくとも私たちはそう考えていました).
しかし, Linux の発展の速さは, これらのページをあっという間に obsolete (時代遅れ) なものにしていきました. 当時主流であった libc5 は現在ほとんど glibc に置き代わり, カーネルも 2.4 へ, XFree86 もバージョン 4 へ上がってきています. また Miracle Linux, Holon Linux など, 新しいディストリビューションも次々に誕生してきました.
「dists/ を何とかしたいねえ」という意見は, すでに 1999 年の終わり頃 (つまり公開から 1 年後!) から出はじめていたのですが, 具体的な作業量があてがわれることはなかなかありませんでした. 一つには, 私たち Webmasters の使っていた ディストリビューションが非商用系のものに偏っていた (参照) ことがあったでしょうし, またもう一つには 「最新情報を網羅し, これに追従することは作業コストが高すぎる」 (つまり作業してもすぐに古くなる) という考えもあったのではないかと思います. wloj の作業は ボランタリなスタッフ によって行われているため, 「やる気の出ない作業」はどうしても放置されがちにあります. これが必ずしも「重要ではない作業」ではないところに, wloj の最大の弱点があるのではないかとも思っているのですが…
というかたちで手をこまねいているうちに, 「dists/ の情報は古すぎて, もはや存在するだけ有害だ」 という意見が出てくるようになりました. 上記のような dists/ ページの価値を鑑み, 消してしまうのはもったいない, という反対意見ももちろんあったのですが, 結局それに対応するだけの作業が行われなかったため, このたび削除とリンクページへの統合が行われることになりました. なお実作業のほとんどすべては, メンバーの 服部典弘さんがやってくださった ことを記しておきたいと思います.
今回の dists/ 削除の経緯から得られる教訓は, 「常に最新情報への追随が必要な作業は避けよ」 ということだと筆者は考えています. 繰り返しになりますが, 私たちはボランタリな作業者の集団であり, 編集作業を行う時間・手間を定期的にとることは不可能です. これを前提におくと, 望ましいのは 「作業を行ったらそれで完結」 という作業形態になるでしょう.
「時の流れとともに現状と異なってしまう」 という宿命は, あらゆる情報が背負っているものです. ただし「過去におけるスナップショット的な情報である」 ことが明示されており, 読者がそれを前提としてくれれば, 古い記事も有用に利用してもらえる可能性はあります. 例えば雑誌のバックナンバーを読むことを考えてみてください. そこに掲載された記事が現状とあわない場合でも, 記事に記載されている URL を訪ねれば最新情報が得られたり, あるいは現在との比較を行うことで, 製品の辿った発展の歴史を追いかけることができるかもしれません.
したがって wloj におくコンテンツでも, 「いつ書かれた記事であるか」を明確にすべきでしょう. 例えば今回の dists/ を (今回置き換えたリンク以外に) 代替するべきものとしては, あるディストリビューションを使ってみた Webmasters メンバーによるコラム, あるいはディストリビュータからの提供を受けられれば, ソフトウェアレビュー などが考えられると思います.
Linux を取り巻く環境は, wloj が新規稼働をはじめた 1998 年からはずいぶん変わってきています. Linux 関連のニュースや解説ページも, 質量ともに大きく向上・増加しました. 例えば筆者の個人的な話をすれば, Linux 関連の調べものは, まずは Google を利用するようになってしまっています. またさまざまなネタのタレコミ先としては, スラッシュドットジャパン も, 今後着実に力をつけていきそうな気配が見られます.
このような現状, あるいは今回 dists/ の推移でわかったような 私たち Webmasters 自身の制約・限界を踏まえ, 今後われわれが注力すべき方向はどこか, ということを改めて考える必要があるのかもしれません. アクセス統計 なども参考にはしていますが, ここはやはりユーザの方々の「声」を聞きたいと思っています. さらに, 「私は www.linux.or.jp をこんな風にしたい」 というご意見や行動力をお持ちの方が Webmasters に参加してくだされば非常に嬉しく思います.