Project Vine 様, および技術評論社メディアセンター 様のご厚意により,
Linux ディストリビューション,
"Vine Linux 2.0CR" を
ソフトウェアレビューコーナーあて ご提供いただきました.
この製品のレビューをして頂くべく,
Linux Users ML
において公募を行い,
これにご希望頂いた方々より感想などをレビュー記事にまとめていただきました.
ここに, レビューアの方々に書いていただいたレビュー記事を公開します(原稿到着順).
Project Vine 様, 技術評論社メディアセンター 様, および レビューアの皆様のご厚意に感謝いたします.
- Linux の使用歴
- 1 年 6 ヶ月
- UNIX の使用歴
- 15 年前に VAX-11 の端末で rogue 1 年
7,8 年前に MINIX 1.5 を少々- Linux Box の主な用途
- 学習, プログラミング, インターネット端末
- Linux Box に載っている Linux 以外の OS
- Windows98
- Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
- Windows:Linux = 6:4
- 評価に利用した Linux BOX のハードウェア (ベンダ名, CPU, Memory, HDD, NIC etc.)
- 自作 AT 互換機 マザー: ASUS TX97-E (BIOS Update)
CPU: Cyrix 6x86MX-PR166
Memory: 64MByte
HDD: 10GByte
NIC: EtherLink III 3C509B-TP
Video: PowerWindow T64V S3 Trio64V+
SCSI: PCI-SC200 53C810 互換
Sound: Ensoniq Audio PCI
PCMCIA: CardDock Cirrus logic PCIC 互換
MO: MockingBird SMB-640WL
Zip-Drive
HUB 兼ダイアルアップルータ CMZ-RT-DP
私は仕事の関係上, Windows をメインで使っている. Vine Linux は 1 年ほど前から, 今後の仕事に生かせないものかと勉強中である. Vine Linux (以下 Vine と略す) がバージョン 2.0 になりどれだけ進化したか, また製品版のメリットなどについて Windows ユーザーから見た形でレビューしてみたい.
最近追加した 10GByte の HDD に 2GByte を割当ててインストールした. Windows とのマルチブートで, ブートマネージャには GAG を使用した.
通常のインストールでは, 3c509B (ISA) が自動認識されず, ネットワーク設定がスキップされてしまうため, インストーラ起動時の boot: プロンプトで expert を指定し, ネットワークカードを手動で選択することにより, ネットワーク設定画面が出るようになった.
グラフィカルなインストール画面は, RedHat6.1 とほぼ同じであるが, Vine の場合はフォントを小さめにして一度に見える情報量が多くなっている. また, 細かな部分の英文も日本語化されていた.
私のインストールしたマシンが比較的枯れたハードウェアと言うこともあるが, pcmcia を有効にすると音源と CD-ROM のマウントに問題が起こること以外はうまくインストールできた. この問題は Vine の問題ではなく pcmcia の割り込みリソースの割り当ての問題であろう.
X Window System の設定においては, モニタの選択に国産モニタが多数リストアップされ容易に高解像度の設定ができた. また, サウンドの設定も sndconfig で自動認識され, にぎやかなデスクトップ環境になった.
shutdown 時の自動電源断も自分で設定することなく可能になった.
Linux の初心者が最初に行き詰まるのはやはり, 英語メッセージではないだろうか. 意味がわかれば, 何てこと無いメッセージも, とても難しく思えてしまう. そんな中で Vine はインストールはもちろん主要アプリケーションおよびコマンドのメッセージも日本語化され, 初心者にはとてもやさしいディストリビューションである. また, 製品版は Wnn6 や TrueType があらかじめ設定されているためインストール直後から早速利用することができるようになっている.
GNOME, KDE がインストール時に選択できるようになった. さらにグラフィカルログイン (wdm) からウィンドウマネージャの選択, 漢字入力 (IM) の選択, さらにログイン方法 (ログイン, 停止, 再起動) の選択もできるようになった.
初期インストールから GNOME (Enlightenment), KDE, WindowMaker などがインストールされ, GUI で選択して使えるのはとても便利である.
vedit は非常にシンプルで, 文字の選択, コピー, 貼り付けのキーバインドが Windows と同じで使いやすい. しかし GTK を使っているためか起動が遅く, スクロールが重い. また検索実行後に検索位置に画面を自動スクロールしてくれないのが残念なところである.
vmail は最低限の機能に限定したメールクライアントだが, フォルダに分類する程度の機能は持っている.
FAT32 のパーティションがマウントでき, gmc のファイルマネージャで開いたところ日本語ファイル名 (漢字と半角カタカナ) が表示された. これで Windows ユーザーはかなり安心して使えるようになったのではないか.
Wnn6 は製品版だけあって, なかなかの変換効率である. Windows 系の漢字入力ソフトで, いつも辞書登録していた人名が, 最初から表示された (たまたまかもしれないが).
CD-ROM や SONY の Memory Stick, Zip ドライブなどをマウントするときは usermount (User Mount Tool) を実行すると GUI で簡単に mount/umount ができる. 随分と便利になったものだ.
A5 サイズの約 190 ページの「ユーザーガイド」は, Vine を使う上でのポイントが書かれたマニュアルである. うまくポイントを絞って書かれているとは思うが, 製品のマニュアルにしては内容が乏しすぎる.
Wnn6 の解説は, 1 ページ程度に最小限のキー操作が書かれている程度で, せめて kinput2 から使う上での注意事項 (キーバインドのカスタマイズの方法や半角英数の入力方法など) についても説明して欲しかった. ちなみに最初に小文字の q を入力すると半角英数, 大文字の Q を入力すると全角英数入力に切替えることができる.
Vine のユーザーサポートはインストールまでの限定つきである. Vine のように完成されてくると, 最新のハードウェアを使わない限りインストールで問題の起こることはほとんど無いのではないか. 今後, インストール以外のサポートにも期待したい.
Vine のメーリングリストは活発で毎日 20 〜 50 件以上の書きこみがある. 私も, このメーリングリストでいくつか解決したことや, 役立つことがあった.
フォントは明朝, ゴシック, ポップ, 楷書, 隷書の 5 書体だが, できれば丸ゴシック体も付けてほしかった.
Vine の徹底した日本語化と木目細かなチューニングは文句のつけようが無い.
バンドルしているソフトは少ないが, 実用的でないソフトを付けて価格が上がるようならば, この程度でも十分だと思う.
製品版は, Vine Plus や付録 CD がついていること, Wnn6 や TrueType フォントがあらかじめ設定されているというメリットはあるが, マニュアルやサポートの問題も含めると 9800 円が適正価格かどうかは難しいところである.
製品版を買う人はバンドルソフトだけの目的でなく正規マニュアルのために買う人もいるということも認識すべきではないだろうか.
Vine もそんなソフトになってほしいと思った.
- Linux の使用歴
- 2 年強, 実用環境にしてからは半年程
- UNIX の使用歴
- 同上
- Linux Box の主な用途
- 文書作成, Web, メール, CD 焼き etc.
- Linux Box に載っている Linux 以外の OS
- なし
- Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
- 95:5 (自宅では Linux のみ, 大学では Windows98 を使用)
- 評価に利用した Linux BOX のハードウェア (ベンダ名, CPU, Memory, HDD, NIC etc.)
- 自作 PC/AT 互換機
Mother Board: Iwill BD100
CPU: Celeron 300AMHz (450MHz 動作)
Memory: 128Mbytes
HDD: 6.4G + 0.8G
CD-RW: MITSUMI CR-4804TE
VGA: Creative 3D Blaster RIVA TNT2 Ultra
CD からブートして普通に GUI インストーラが動きました. オンラインヘルプも項目名も日本語化されていますし, マニュアルにも説明がありますから, 多少 PC をいじったことがあれば, Linux 初体験の人でもさほど迷うことはないと思います.
「インストールタイプの選択」で私は「カスタム」を選んだのですが, 「KDE ワークステーション」と「GNOME ワークステーション」について一言. マニュアルには
「…既存のパーティションはいったんすべて削除され, パーティションの設定, ハードディスクの初期化, コンポーネントの選択, インストールまでが自動的に処理されます」
とありますが, 実際にはパーティションを自動で切るかどうか, フォーマットするかしないかは任意に選択できるようです.
また, 「X の設定」のところではビデオカードを自動検出するのですが, 私のカードは正しく認識されず (本当は 32M あるビデオ RAM が 4M しか認識されない), 高解像度での表示ができませんでした. 仕方がないので, とりあえず X の設定をスキップして先に進み, インストール終了後に /usr/X11R6/bin/Xconfigurator を使って再設定したところ, 無事 24bpp:1280x1024 で表示できるようになりました. マニュアルにはこの問題が起きる可能性も上に挙げた解決策も書いてあり, 好感が持てました.
カーネルの再構成が必要ですが, mkkpkg というカーネルパッケージ作成のためのスクリプトが用意されているため, 多少時間はかかりますがカーネルツリーから make するより安全に作業できますし, menuconfig は日本語化されています. ライティングソフトとしては cdrecord-1.8 が VinePlus (Disk3) に用意されています. デフォルトで使える状態になっている MLD4 には及びませんが, その他のディストリビューションに比べれば比較的簡単に使えるようになります. TkNamazu から簡単に関連のドキュメントが引けますから, マニュアルに情報がないことはマイナスとは言えないでしょう.
CR 版には Wnn6 がバンドルされていますが, やはり使い慣れたものを使いたいということで, VJE-Delta をインストールしました. ちなみに Disk4 には VJE-Delta の試用版と Blackdown の JRE-1.2 が納められているので, 関心がある人は試してみることもできます.
まず JDK あるいは JRE をインストールします. といっても, tar xvzf で適当なところに展開して ~/.bash_profile を編集するだけですが. その後 VJE-Delta の rpm パッケージを インストールして ~/.bashrc に "export XMODIFIERS=@im=vje" を追加すれば kterm や XEmacs など大抵のアプリで使えるようになります. XEmacs は最初から xim を使えるようコンパイルされているので, 再コンパイルの必要はありません. Netscape で使いたい場合は /usr/lib/netscape/ja/Netscape をエディタで開いて末尾の "*Navigator.inputMethod: kinput2" を "*Navigator.inputMethod: vje" に変更します.
簡易漢和辞書としても使える文字入力が大変便利ですが, Tgif ではうまく動作しないようです (全く使えないというわけではないのですが. 原因は不明).
非常に手堅くまとめられた日本語ディストリビューションです. そもそも VineLinux は日本語環境の充実が売りだったわけですが, その点は 2.0 でも踏襲されています. man の日本語訳や TkNamazu を使った日本語ドキュメント全文検索といった以前からの特徴は受け継がれていますし, XEmacs から日本語テキストを印刷できるようになっていたり, pLaTeX でも付属の商用 TrueType フォントを使えるようになっていたりと, 細かいところまで目が行き届いています. また, デフォルト環境が充実しているというだけでなく, カスタマイズしやすいということまで視界に入れた作りになっているように感じました.
Kondara MNU/Linux などに比べるとどうしても「地味」という印象は免れませんが, 現時点では最も完成度の高い日本語ディストリビューションのひとつだと言っても言い過ぎではないでしょう. 「Linux で遊びたい」という人にはやや面白みに欠けるかもしれませんが, 「Linux に触れてみたい」という初心者や, そこから一歩進んで「Linux を何かに使いたい」という人にはお勧めできる仕上がりになっています.
- Linux の使用歴
- 3 年
- UNIX の使用歴
- 7 年
- Linux Box の主な用途
- コンピュータ上の作業全般 (メール, 文章作成, グラフ作成,
- プログラミング, ブラウジングなど)
- Linux Box に載っている Linux 以外の OS
- 無し
- Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
- Linux Only
- Linux 以外に利用している OS
- Digital UNIX V4.0F (計算サーバとして利用)
- 評価に利用した Linux BOX のハードウェア (ベンダ名, CPU, Memory, HDD, NIC etc.)
- 自作 PC/AT 互換機
CPU: AMD K6-2 400MHz
Mother Board: GIGA-BYTE GA-5AX
Memory: 256Mbytes
HDD: 20G
VGA: SiS 86C326
NIC: Digital DS21140 Tulip
私は普段全てのコンピュータ作業を Linux 上で行っている. 現在は RedHat 6.2beta (英語版) に手を加えて使用している. RedHat から Vine に乗り換えるかどうかという観点で評価を行なった.
煽り文句に「最新&最強 Linux パッケージ」とあるが, RedHat 6.2 が出ている現在, 6.1 ベースで最新を名乗ることに疑問を感じる. 実際 glibc, fetchmail, mew, im, zsh などはややバージョンが古い. 逆にパッケージには kernel のバージョンが 2.2.13 と書いてあったが, 収録されているのは 2.2.14 である. 些細な事だがパッケージの修正が出来ていれば良かったと思う.
インストール関係に約 50 ページ, 入門その他に 120 ページ割かれている. よくまとまっているが, 空き容量の確保について書いてある「パーティションについて」はもっと充実させるべきだろう. ここは初心者が躓きやすい点でもあるし, 1024 以降のシリンダに纏わる問題も明記して置いた方がいい. 初心者には新規にハードディスクを増設することを強く勧めておいても悪くはないはずだ.
もう一つ, インストール後に ftp サーバーにアクセスして updates をチェックするという事を推奨する記述が見当たらなかった. 現時点でも apache のセキュリティホール対応版がアップされているので, まめに更新/障害情報をチェックするように明記しておくべきだろう.
GRAPHICAL MODE で 2 回, TEXT MODE で 1 回インストールしてみた. インストーラがグラフィカルである必要性は全くない. 単に見栄えが良いというだけだった. マウスでいちいちクリックするよりはキーボードで操作できた方が楽である. また X の設定がうまくいかず, 同期できない設定しか作れなかった. しかたがないのでインストール後に Xconfigurator を使って設定した. TEXT MODE では特に問題は生じなかった.
まず売りの一つであるフォントについて見てみる. Netscape は初期設定で TrueType フォントを使用するようになっている. 立ち上げると Vine のページが表示されるが, 小さな文字は歪んでしまっていて美しくない. フォントの設定を Fixed (Alias) などの固定フォントに変更した方が読みやすい. Netscape のような文字の小さいアプリケーションではわざわざ TrueType にする必要はないだろう. もちろん tgif などで大きめの文字を表示させるには TrueType フォントを使用した方が美しい. この辺りは使い分けて, なんでもかんでも TrueType にしなくてもいいのではないだろうか.
top などのメッセージが日本語化されているが, 私にはこれがいやだった.
eng='LC_ALL=C LANG=C'
と設定して
eng コマンド
という解決法がマニュアルに出ていたが, これも野暮ったい. さらに Netscape や tgif などはメニューも日本語化している. しかし, 文字の取り扱いは日本語化してあってもメニューは英語というパッケージもあった方が嬉しい. 私は英語のメニューに慣れきっているために日本語だとかえって戸惑ってしまう. また大学や研究所で日本人外国人混在で使うような場合にはメニューやメッセージは英語の方でないと困るのだ.
あと細かい事だが, mnews でうまくニュースサーバーと接続できなかった. NNTPSERVER を設定しても, -D オプションでニュースサーバーを直接設定してもうまく繋がらない. /usr/doc や FAQ, ML を検索してみたが, 解決策は得られなかった. なんらかの変更を行なっている場合にはその旨ドキュメントとして残して欲しい.
setwm や setim 等のコマンドでウィンドウマネージャーやかな漢字入力が切替えられるのは便利な点だ. 初心者はエディタで設定を書き換えるという事がわからない場合もあるので, 気が利いていると言える.
非常にまとまっているディストリビューションだと思う. 特に UNIX を初めて使用する人にはお薦めする. マニュアルはよい手助けになるだろう. 反面, 自分の環境をすでに構築している人には好き嫌いが出るかもしれない. 1.0 の頃よりお仕着せ感が薄まっているが, 私は移行しないことにした. Wnn6 や DynaFont (5 書体) が欲しかったり SRPM や VinePlus の CD-ROM が欲しければ買いだし, そうでないのなら ftp 版でもいいだろう.
- Linux の使用歴
- 約 4 年
- UNIX の使用歴
- 約 4 年
- Linux Box の主な用途
- 電子辞書 に関するオープンソースソフトウェアの開発など
- Linux Box に載っている Linux 以外の OS
- なし
- Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
- 4 (Linux) : 6 (MacOS)
- 評価に利用した Linux BOX のハードウェア (ベンダ名, CPU, Memory, HDD, NIC etc.)
- CPU : PentiumPro 200 MHz
Memory : 128 MB
HDD : SCSI 4GB, 2 GB, IDE 1 GB
PCI cards : Adaptec AHA-2940A (SCSI), Diamond Stealth 64 Video (Video), 3Com 3C905B (NIC)
Vine Linux の特徴は, 付属ドキュメントの次の記述に集約されている.
Vine Linux は, 使いやすい日本語環境を提供する Linux 配布パッケージ (ディストリビューション) です. インストールの直後から快適な日本語環境で作業ができるように, さまざまな配慮を行っております.
私はこれまでに Linux ディストリビューションとして Slackware, RedHat, TurboLinux を利用してきて, 現在は Vine Linux 2.0 CR を利用している. どんな OS やディストリビューションを使おうが, 自分が集中したいこと (私にとってはソフトウェア開発) 以外に手間がかかるのは嬉しくないので, そういう意味で Vine Linux の「さまざまな配慮」にはずいぶん助けられている.
私はすでに Vine Linux 1.1CR with Wnn6 を使用していたので, 十分にバックアップをした上で, インストールタイプとして「アップグレード」を選択した. 四年前から利用している「枯れた」ハードウェア環境であることもあり, グラフィックベースのインストールも含め, すべて順調に終了した. Vine Linux 2.0 のリリース予定日は何度か延期されたため, 開発に苦労しているのだと思ったが, 改めて Vine Linux の安定性重視の開発方針を実感した.
ただ残念ながら, 非 CR 版との違いや付属書体の不満については, 以前に私が Vine Linux 1.1CR with Wnn6 のレビュー で述べたことがほぼそのまま当てはまる.
Vine Linux はよく初心者にお奨めだと言われるし, 私もそう思う. 実際, 私がはじめて Vine Linux を使ったときは, その細やかな配慮にとても驚いた. しかし, Vine-users ML などをみていると, その配慮が結果として「おんぶにだっこなユーザ」を産んでいるのも事実かも知れない. かつて Vine Linux がいち早く実現した, 親切で豊富な日本語化は, 今国内で販売や配布のされている主なディストリビューションでそれほど大きな違いはみられなくなった. それは Project Vine の努力の成果が幅広く使われるようになったことも大きな理由だが, もはやそれのみをもって, Vine Linux の独自性とは言えないだろう. では, Vine Linux の個性はどこにあるかというと, コミュニティーにあると思う. 何と言っても数多くのユーザがいること, そして Vine Linux の開発者の存在がメーリングリストなどで身近に感じられることこそが, Vine Linux の財産であろう. そして CR 版のユーザもまた数多いだろうし, 販売元の技術評論社にももっと積極的にコミュ ニティーに参加して欲しいと願っている.
親切丁寧さを重視すればするほど, より先進性を求めるユーザは, Kondara 等の別のディストリビューションに乗り換えるだろう. すると結果として Vine Linux の開発速度が低下することになり得る. かと言って親切丁寧さを軽視すれば, Vine Linux の魅力は著しく損われる. この親切丁寧と先進性とをいかにバランスよく両立させるかが, Vine Linux にとっての最大の課題であろう.
- Linux の使用歴
- 5 年半
- UNIX の使用歴
- 約 16 年強
- Linux Box の主な用途
- サーバ
- Linux Box に載っている Linux 以外の OS
- Windows98, WindowsNT, FreeBSD, Solaris
- Linux と Linux 以外の OS の使用頻度の比
- 2:8
- 評価に利用した Linux BOX のハードウェア (ベンダ名, CPU, Memory, HDD, NIC etc.)
- IBM Netfinity3000
CPU: AMD Pentium II 400MHz
Memory: 192Mbytes
HDD: SCSI 9.1G
SCSI Adaptec 2940UW
NIC: Intel 8255x PCI + 3Com 3C509B ISA
ショップブランド PC/AT 互換機
CPU: AMD K6-2 500MHz
Mother Board: ASUS P5A-VM
Memory: 128Mbytes
HDD: E-IDE 20G
NIC: 3Com 3C905-J-TX × 2
Vine は, 個人的に「好き」なディストリビューションである. Linux については, SLS 版から始まって, 主に Slackware で慣れてきた筆者であるが, 昨年までの Project Vine の活躍は, 日本の Linux 普及の原動力といっても過言ではない程のものであった. 事実, 昨年 11 月の時点では国内では「トップシェア」の座にあったそうである. しかし, それから約半年が過ぎた今, ご存知の通り, 国内の Linux を取り巻く環境は激変している. 国内では Turbo が商用のトップとなり, ビギナーユーザまでの幅広い浸透を含め, 快進撃を続けている. RedHat は, Laser5 と合わせればこれを上回るが, もはやこの両者を同一のものとは誰も思っていない.
さて, 今回の 2.0 Commercial Release は, 「王者 Vine」の起死回生の一発となるものなのかどうか, Vine のファンにとっては, 待望の「箱入り製品」であったわけだ. 既に FTP 版を入手して試用してはいたが, 運悪く「Kondara 1.1」の評価中に届いたワインカラーの箱を見て, パッケージングは多分「一番いい.」 きっと中身も期待に応えてくれるはずだと感じ, 早速開封してみた.
試験機に使用したマシンは, 普段は TurboLinux Server 6.0 が動いている IBM Netfinity 3000 (Pentium /400 の旧型) をサーバ・インストール用に確保しておいたものを使用した. このマシンは, Vine 到着の直前までは Kondara 1.1 の評価に使用していたもので, その前には Solaris 8 for Intel の評価機として, またその数日前には FreeBSD 4.0 機としても稼動していた, 「OS なんでも OK」な重宝マシンである. (ちなみに HDD は SCSI 8.4GB, メモリは 192MB, DDS テープドライブ を実装している).
今回, 筆者がレビュー評価の中心としたいのは, サーバ用途である. しかし, せっかく箱入り (=製品版) として届けられたものであることから, やはりそのありがたい「恩恵」についてもきっちりとレポートすべきなのだろう.
また, RedHat 6.1 ベースとは言え, VineTools やその他 Vine 独自の実装の特徴についても報告すべきなのかも知れない. そんな中, 今回一番期待していたのは, 評判の printtool による印刷環境である. また, 箱入りのもうひとつの「恩恵」 は「製本されたマニュアル」である. Vine 2.0CR のものは, シンプルな装丁で大きさも手頃, 最近珍しい単色刷りのいかにも「みみっちい」感じのものが 「ユーザーガイド」として 1 冊のみ同梱されている. 筆者は普段あまりこの種のものを読まない人間なので, これのシンプルさには逆に好感を覚えた. しかし, この間に挟まっている正誤表みたいな紙はいただけない. 特に, 「■インストール後の注意」の紙に書いてある内容については言語道断であり, 筆者がインストール終了直後に「バグじゃー.」と叫ぶ原因となった. 紙片の内容については以下の通りです.
■インストール後の注意 インストール後に, キーボードのタイプが正常に設定されてい ない場合があります. この時には, 起動後にコンソール上で以下 のように設定を行ってください. $ kon $ /usr/sbin/kbdconfig これでキーボード設定メニューが立ち上がるので, jp106, us などご利用のキーボードのタイプを選択してください.
あまりに小さい紙で, 通常マニュアル等に挟まれている正誤表や「お使 いになる前に」とは別のものでしたので, これを私は不親切或いはぶっ きらぼうと感じてしまいました. 製品として肝心なところを外している という印象をユーザーに与えてしまうのはマイナスでしたね.
デスクトップ用のマシンとして, これも常に Windows 環境と切替えながら使っている, 昨年秋葉原のぷらっとホームで購入した Asustek P5A-VM + K6-2/500 マシンを使用した. ただ, ディスプレイにちょうど空きがなく, なんとなく怪しい 15.1"TFT 液晶 (1024 × 768) を使用するしかなかったのが惜しいところである. このモニタ, Windows 環境でも専用のドライバが付属していない, なんとなくチラツキが気になる品である. 当然, Linux の X 環境ではデフォルトの「1024 × 768 TFT」を選択するしかなく, 何となく昔の方法 (XFree86 関係ファイルの編集) で微調整したくなってしまうものだが, 間違いなくはまるだろうと考え, やめた.
インストールについては, X の環境設定を含めて問題なく一発で終了した. ただし, 前述した「ユーザーガイドに挟まった紙」の件を除いてである. 筆者が思うには, この問題は, Vine が悪いのではなく, 同様の問題を 6.0 から 6.1 まで引きずった RedHat の問題ではなかろうか. まあ, こんな「小さな」問題はともかく, Vine の Vine らしいところを早く評価したいと思えばどうってことはなかった (?).
さて, お目当ての Vine Tools だが, プリンタを沢山持っているヒトは, printtool でいろいろと遊ぶことができそうだ. だが, 大概は 1 台か 2 台が実用上の限度だろう. 今回は EPSON の LP-800 (S ではない) と RICOH の カラーレーザー (iPSIO 2100) のどちらかが候補として考えられたのだが, 結局, 動作するとは思うが多分相当面倒くさいと思われる iPSIO については断念 し, LP-800 のみで動作検証を行なうことにした. 結果, 期待通り, ローカル/SMB プリンタ共に正常に使用できることを確認した. 正直, これはかなりの「優れもの」であると感じた. また, 製品版であることの恩恵を受けられる「数少ない」部分でもある 「日本語の商用フォント」の実装についても, この部分 (フォントサーバ/プリントサーバ) でのみ実感することができる.
案の定, サーバとしても Vine はその RedHat 6.1 ベースというカラーに忠実なままにインストールされ, その動作についても RedHat と大きく変わるところは見当たらない. Apache, Bind, Sendmail, 更には Samba (ファイル/プリンタサーバ機能) について, 順調にその機能を果たして動作することを確認した.
残念なことは, Vine には Wnn6 というフロントエンドが「過去からのお荷物」 となって必ずくっついてくるという宿命にあるように感じられる. 同じように, デスクトップの日本語環境も, GNOME/KDE も, 事実上の「標準」との地位を確立しつつあるが, 逆にこれが各ディストリビューションから「個性」を失わせてしまったのかも知れない. 特に「非 GUI 環境」でのツールについては Turbo の TurboXXXXcfg がやはり一歩先んじていて, 特にサーバ環境を構築する場合においては, この種のもの (=linuxconf 以外) で他に差別化を示す必要があるように感じて いる. 今回の Vine 2.0CR における「サーバとしてのセットアップ」については, RedHat 6.1 と全く同じと表現するしかなく, バグフィックス情報なども含めて, 筆者自身はその「特記すべき特長」について把握できるまでには至らなかった. つまらないまとめとなってしまうが, これが今回の結果である.
Vine という存在にとって, 現在の「日本における Linux」の状況は, 正直言って「かなり厳しい」ものになりつつあるのではないだろうか. 今回の印象はそんな感じである. 今や新しいディストリビューションが数多く存在する「群雄割拠」の時代に入り, あまりその個性を強烈に打ち出せなくなってしまった Vine の存在意義は, 今やその役目を終え, 次第に薄れつつあるのかも知れない. しかし, Vine とは果たして何だったのか, というと, きっとそれは我々日本人に「ネクスト」 の方向性と文化を示してくれた「歴史上の大切な存在」であると筆者は感じている. Kondara や OpenLinux などがどう発展しようが, または, Turbo や RedHat や Laser5 がどうなろうが, Vine は私たちに「さきがけ」の心を示してくれた. きっと, 今後はその姿を変えて, 例えば SGI の「SGI ProPack」などの中に, または今はまだ現れていない「新しい」ディストリビューションとして生き続けてゆくのかも知れない.
Linux のサーバーとしての評価を本格的に行なった場合, 各種ディストリビューション間の差は実ははっきりと出ることはない. というのも, Linux 系ディストリビューションにはカーネルという共通部分があり, これのバージョンによってその OS としての実装までがある程度決まってくるからである. しかし, 実際に現場で運用される「作り込まれたサーバー」の OS は, セキュリティ面やリソース管理などのあらゆる部分において明らかな動作上の差を生じることがある. 最近は箱売りの段階から「デスクトップ」と「サーバ」とに分けて販売されるモノが多くなってきているが, 実際にはこれらは同じ素材をもとに最適化・チューニングされたものである. つまり, 我々サーバー屋 (と DB 屋) にとっては, 最適化のし易い構成に仕上がっていることがより重要となってくる. 今後の VineLinux については, その独自性と柔軟な開発体制により活かして, こういった用途に向いたパッケージングのものも是非リリースしてくれることを期待している. 筆者自身の持つイメージだが, ProjectVine はこういったことが最も得意な開発チームのように感じているからである.
以上